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母が、イオンのミスドで抹茶・ほうじ茶ドーナツを買ってくれました。あられ入りのドーナツは、美味しかったです。黒蜜入りのほうじ茶ドーナツは、しっとりとして美味しかったです。
2024年04月30日
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ある仇討ちを巡る話。ラストシーンが爽快感溢れ、いい「幕引き」となったような気がします。
2024年04月29日
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しっとりとした味わいと、カスタードとキャラメルクリームとの相性が抜群でした。
2024年04月29日
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第一次世界大戦下、インフルエンザが猛威を振るうなか、妊産婦と赤ん坊を守ろうとする看護師達の闘いを描いた作品。看護師達の闘いは、100年以上経ったコロナ禍でも続いているという事実ー読み終わった後、全ての医療従事者に感謝したいと思いました。
2024年04月29日
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CM観て、気になって近所のスーパーで買いました。まろやかで美味しかったです。ほろにがカカオ。普通のものと比べて、上品な味わいで美味しかったです。
2024年04月29日
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最初から最後までおもしろくて、ロザリンどうなってしまうの?と思いながらページをめくる手が止まらず、「え、これで終わり!?」と叫びそうになりました。あー、続きが早く読みたいです!
2024年04月29日
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表紙素材は、黒獅様からお借りしました。「陰陽師」・「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「不味いな・・」「不味いとは?」「すぐにわかる。」檜扇の中でそんな会話を晴明と有匡が交わしていると、渡殿の方から騒がしい足音が聞こえて来た。「晴明!」「まぁ、何ですか博雅殿、中宮様の御前ですよ。」晴明達の元へ向かおうとした博雅だったが、中宮付の女房に止められた。「も、申し訳ありませぬ。知り合いが居たような気がしたので・・」(危なかった・・)晴明はなるべく博雅と目を合わさぬよう、自分に宛がわれた局へと戻っていった。―ねぇ、あの方なの?―お美しい方ね・・―姉妹共に、まるで絵巻物から抜け出て来たかのような美しさだわ・・楽競べから数日後、有匡と火月は時折女達の視線を感じるようになった。「それにして、晴明様・・晴子様はどうなさっているのでしょうね?」「さぁな。中宮様を呪詛しようとする者は未だに見つからないし、いつまで後宮に居るのやら・・」そんな事を言いながら有匡が書類仕事をしていると、そこへ一匹の猫が迷い込んで来た。「まぁ、可愛らしい事。」「何処の猫かしら?」その猫は、雪のように白く、碧い目をしていた。猫は、自然に有匡の方へと寄って来た。「可愛い・・」「迷い猫か?だとしたら、すぐに飼い主に届け・・」有匡がそう言った時、猫が彼の膝上に丸まった。「すっかり、懐かれてしまいましたわね、有子様。」猫は、飼い主が見つかるまで、有匡と火月が世話をする事になった。「ねぇ、この子の名前を決めましょう。“猫”と呼ぶのはね・・」「う~ん、そうだな・・」有匡はそう言うと、猫の碧い目を見た。「碧、というのはどうだ?」「いいですね。碧、良かったね~」火月に撫でられ、碧は嬉しそうに喉を鳴らした。「あの猫は、ちゃんと藤壺へ放ったか?」「はい、仰せの通りに。」彰子が住まう藤壺から少し離れた桐壺では、一人の女が、そう言って主を見た。「幸いにも、あの陰陽師達はまだこちらには気づいておりません。」「そうか、決してあやつらには気づかれてはならぬぞ。」「はい・・」女は、衣擦れの音を立てながら桐壺を出て、藤壺へと向かった。「遅かったわね、大山掌侍。」「申し訳ございませぬ、中宮様。」「ねぇ、あの二人がここに来てから、藤壺が少し華やかになったとは思わない?」「ええ。」「あの二人には、ずっとここに居て欲しいわ。」「わたくしも、そう思います。」彰子付きの女房・大山江子は、そう言って頷いた。内に秘めた、企みに気づかれないよう、俯いたまま。「晴子様、わたくしに琵琶を教えてくれない?」「定子様、何故わたくしのような身分卑しき者に・・」「楽の音は、人の貴賎など関係ないわ。楽競べでわたしはあなたの琵琶の音に心が癒されたのよ。」「中宮様・・」こうして晴明は、定子に琵琶を教える事になった。だがそれを、快く思わない者が居た。「きゃぁ~!」「晴子様の夜着に、野犬の死骸が!」「誰がこんな酷い事を!」「晴子様がお可哀想・・」周囲が騒然としている中、晴明はじっと、“ある人物”を見つめていた。「ねぇ、晴子様の夜着に・・」「酷いわねぇ・・」「一体、犯人は誰なのかしら?」晴明への嫌がらせは、日に日に酷くなっていった。だが、晴明は冷静だった。「晴明・・晴子様、大丈夫なのでしょうか?」「大丈夫だろう、あの方はお強いから。」有匡と火月がそんな事を話していると、渡殿の方から何処か力強い足音が聞こえて来た。「晴明、晴明はおるか~!」(あの声は、道長様・・)有匡が御簾の中から外の様子を窺うと、道長が顔を怒りで赤く染めながら定子の元へと向かってゆくのを見た。「これはこれは、道長様。そのように大声を出されて、何かありましたか?」「“何かありましたか?”ではないわ!見よ、これを!」道長はそう晴明に向かって怒鳴ると、ある物を彼に投げて寄越した。「これは?」「桐壺の庭に埋められておった!」それは、定子の名が書かれた呪詛人形だった。「成程、“敵”は色々と焦っているようですね。」「そのような悠長な事を言っている場合か!早くこの人形を埋めた相手を見つけよ!」「わかりました・・」(これはまた、厄介な事を・・)道長が去った後、晴明は深い溜息を吐いていた。「晴子、顔色が悪いわよ、大丈夫?」「大丈夫、です・・」晴明はその日、朝から誰かに見張られているような気がしてならなかった。(何だ、この絡みつくようなものは・・)「中宮様、中宮様、大変でございます!」「どうなさったの、少納言?」「弘徽殿から、火の手が上がっております!早く、安全な場所へ避難なさってください!」―またなの?―この前は桐壺で付け火が・・―桐壺といえば、“あの方”の・・慌てふためきながら安全な場所へと避難しながら、女房達がそんな事を囁いている姿を、“ある人物”は遠巻きに眺めていた。「どうした?」「呪詛は、もうすぐ成就致します。」「そうか。」(そのあかつきには、あなたには消えて頂かなければなりません・・)「晴明・・晴子様、ご無事で良かった。」「有子様も、ご無事で何より。」藤壺で晴明と合流した有匡と火月は、そう言いながら笑い合った。「前回は桐壺、今回は弘徽殿・・何やら、共通点がありそうですね。」「共通点?」「今、紫式部がお書きになられている“物語”に登場する、二人の女性―桐壺更衣と、弘徽殿女御・・」「では、次に狙われるのは・・」「これ以上、悪い事を考えるのは止めましょう。」「ええ。」晴明はその時、全身に悪寒が走り、そのままその場に蹲ってしまった。「晴子様!?」「どうかなさったのですか!?」「誰か、誰か来て!」晴明は、謎の高熱に苦しめられた。「晴明様、どうしちゃったんだろう?」「恐らく、誰かが晴明様に呪詛をかけたのだろう。」「呪詛って、誰に?」「さぁな。それよりも、少し出掛けて来る。」「どちらへ?」「桐壺だ。そこに呪詛の痕跡が残っているかもしれないからな。」「そうですか、お気をつけて。」火月に見送られ、有匡は桐壺へと向かった。かつては美しい妃とその女房達が住み、華やかであったそこは、不気味な雰囲気を醸し出す廃墟と化していた。(あそこか・・)有匡が、人形が埋められていた庭へと向かうと、そこには何かがまた埋められた跡があった。(何だ?)有匡がそっと新しく埋められた穴を掘ると、そこには晴明の名が書かれた呪詛人形が埋められていた。「やはり、な・・」有匡は祭文を唱え、人形に込められた“念”を、元の持ち主へと“返し”た。その日の夜、一人の男の屋敷に雷が落ちた。「お館様、どちらに・・きゃぁぁ~!」「誰か、誰かぁ~!」その屋敷の主は、両目から血を流して死んでいた。「これから、どうなさいますか・・“御息所様”?」「あとは、わたくしに任せておきなさい。」女は、そう言った後笑った。「晴子様、もう大丈夫なのですか?」「えぇ。」晴明は、高熱に襲われてから数日後、回復した。「良かった、心配していたんですよ!」火月はそう言うと、晴明に抱きついた。「おやめなさい、はしたない!」有匡はそう言った後、火月の頭を軽く小突いた。「す、すいません・・」「申し訳ありませんでした、“姉上”・・」「火月は、本当に晴子様がお好きなのね。」「あら晴子様、もう体調は大丈夫なの?」「はい。紫式部様、ご心配をおかけしました。」「そうだ、これを皆さんにお見せしたかったの。」紫式部はそう言うと、有匡達にある書物を見せた。「それは?」「この前のお話の、続きを書いてみたの。」「まぁ、嬉しい!読んでもいいですか?」「えぇ、勿論。」有匡達が紫式部の“物語”に夢中になっていると、そこへ大山江子が通りかかった。「随分と楽しそうね?」「また、紫式部様の“物語”を皆で読んでいたのですよ。江子様も如何です?」「わたくしは、遠慮しておくわ。」江子はそう言って晴明と有匡を睨みつけた後、去っていった。「何あれ、カンジ悪いわねぇ。」「もしかして、晴明様に嫌がらせしていたの、あの方じゃない?」「下らん憶測だけで人を犯人扱いするな。」有匡はそう言うと、式神達を睨んだ。「も、申し訳ございません、殿・・」「さ、仕事に戻りましょう!今日は主上がお渡りになられる日だから、忙しいわ~」「そうね~」宮中の外―京では、疫病が猛威をふるっていた。「疫神か・・」「殿、どうかなさいましたか?」「いや、何でもない。」(陰の気が押し寄せて来る・・外側からではなく、内側から?)にほんブログ村二次小説ランキング
2024年04月29日
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この小説、ずっと読んでみたかったのですが、長らく絶版になっており、映画化するのを記念して再版するということで、予約して購入しました!アニメや漫画とは違う、シリアス満載のストーリーとなっており、土井先生が軍師となって六年生達と戦うシーンや、きり丸と土井先生のシーンなど、読みごたえがありました。きり丸が、土井先生に語りかけるシーン、胸を締め付けられましたが、ハッピーエンドで終わって良かったです。
2024年04月29日
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濃厚でしっとりとした味わいで美味しかったです。
2024年04月28日
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甘くて美味しかったです。ハートのクリームが可愛いです。
2024年04月28日
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・マクミランくん、可愛い。・ソーマ、相変わらず派手ね。・アグニ、不憫w・ソーマ、天真爛漫すぎて…・モーリス、シェルに似ているとかwまあ、怒っているところとかは、ねw・美術室のシーン、アウトかと思っていたけど放送するのかw・シェルの「やめてくださあい!」に萌えたw・糸電話トリック、作画がすごい。・上げて落とすwシェルw・シェルの照れがお可愛い!・謎エフェクト&セバスチャンの顔w・原作の美作画w
2024年04月28日
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明日から、大型連休が始まりますね。まぁ、スーパーで働いていると、暦通りに休めませんが。大型連休や土日祝は何処に行っても混雑するので、平日休みの方が何処も空いているのでいいですね。まぁ、明日から忙しくなると思いますが、仕事頑張ります。
2024年04月26日
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グミなのに、食べごたえがあって美味しかったです。
2024年04月26日
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最初から最後まで、緊迫した展開が続いたあとの、あのラストシーンまで一気読みするほど面白かったです。クレアとデュランのコンビが良かったです。
2024年04月26日
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現代日本に生きる武士・隼人と、英国紳士・アンソニーとの交流を描いた作品。「多様性」をテーマにした作品ですが、隼人とアンソニーの辛い過去や、多様性をなかなか認めようとしない古老達など、読みごたえがあり、ラストシーンを読んだ後爽快な気分になりました。披露宴の席次を決めるシーンには、ちょっと笑ってしまいました。
2024年04月26日
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「自由研究には向かない殺人」の前日譚。いやあ、やはり面白かったです。
2024年04月26日
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約10年間使っていたスヌーピーのボールチェーンが切れてしまったので、代わりに母から5年前の東京土産にもらったスカイツリー限定のスヌーピーの三連キーホルダーをリュックにつけました。 チャックの開閉でカチャカチャと音は鳴りますが、軽いので余り邪魔にならないし、嵩張らないのでいいです。 大事に使います。スヌーピーのボールチェーンが切れたので、ダイソーで買った透明ポーチにぬいぐるみをいれ、Seriaで買ったワイヤーリングとカラビナで透明ぬいぐるみキーホルダーを作りました。ワイヤーリング、固くてなかなか外れなかったのですが、母に殆んどつけてもらいました。ワイヤーリングは、ボールチェーンと違って固くて、外れにくいのでいいです。本当は丸カンをポーチのチャック部分につけたかったのですが、丸カンが小さくて断念しましたw手先が不器用なので、手芸・裁縫が大の苦手でして、ちょっと無駄遣いしちゃったなと思いました。まあ、材料費は440円なので、いいかなと思っていますw
2024年04月25日
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最初から最後まで目が離せない展開でした。
2024年04月24日
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濃厚で美味しかったです。
2024年04月24日
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甘味が少なくて、美味しかったです。
2024年04月23日
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ミッツ・マッケルセンの美しさに心を奪われました。ジョニー・デップもいいですが、ミッツ・マッケルセンのグリンデルバルトもいいですね。前作よりも戦いのシーンがパワーアップしていました。麒麟が登場していたことに驚きましたが、クリーデンスの出生の秘密にも驚きました!あと、予告に出てきたカニカニダンスがおもしろくて笑いました!麒麟が指導者を選ぶとか、十二〇記みたいですねwジェイコブとクイニーの結婚式は良かったです。これで終わってしまうのかな?続編ずっと待っています!
2024年04月23日
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「カラスの親指」を読みましたが、こちらの作品も面白かったです。 詳しく書くとネタバレになるので、気になる方は読んでください。
2024年04月23日
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宮沢賢治の父目線から見た宮沢賢治の姿。やはり、親は子を無条件に愛するのだなと本を閉じて思いました。
2024年04月23日
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いじめという言葉は、この世からきえてほしいー読み終わった後そう思いました。
2024年04月23日
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黒糖とシナモンの相性が抜群で、上品な味わいでした。
2024年04月22日
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金曜ロードショーでノーカット放送されていたので、録画して観ました。 以下、ネタバレ注意↓↓ベルモットと安室さんの登場シーンがかっこ良かった。八丈島のホテルでの、蘭とピンガの戦いが凄かった。哀ちゃんもコナンもカッコいい!キールもカッコいい!ベルモット、ファインプレイ!最後まで迫力満点でしたね。安室さんと赤井さんの会話がすきです。間接キスのシーンがいちばんよかった!いつも金曜ロードショーでは、EDカットかなあと思ったら、 まさかのEDあり!コナンは、映画本編とEDあってこその劇場版ですからね。
2024年04月22日
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寄宿学校編2話感想・モーリス=コール、少女漫画に居そうな縦ロールな悪役←偏見・シエル顔怖い、だがそれがいい!・文句言いながらも完璧に仕事をこなすセバスチャン、素敵。・ハーコート君、きゃわゆい。・セバスチャンの悪魔っぽさ、原作より濃すぎるぅ!
2024年04月21日
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「火宵の月」「薄桜鬼」二次小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。仁が両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。「あれまぁ、豪華な駕籠だねぇ。」「何処のお嬢様の物だろうね?」 道行く人々がそんな事を言い合いながら、土御門家の駕籠を見つめていると、中から白無垢姿の仁が出て来た。「何て綺麗な花嫁さんだろうねぇ。」「幸せにおなりよ~!」 仁は、三木家の正門に入る前、通行人達に向かって一礼した。「直助様、花嫁様がご到着されましたよ!」「わかった、すぐ行く。」 自室で囲碁を打っていた三木家嫡男・直助は、女中の言葉を聞いた後、仁が待つ広間へと向かった。「おぉ、やっと来たか。遅かったな。」 直助の父・直高は、そう言うと直助を睨んだ。「申し訳ありません、囲碁を打っている内に遅くなってしまいました。」 そう言った直助は、改めて仁を見た。 渡帽子の下に隠された、切れ長の碧みがかった黒い瞳に見つめられた直助は、股間が熱く脈打つのを感じた。 直助と仁の祝言は滞りなく終わった。「仁様、大丈夫ですか?」「大丈夫だよ・・」そう言って自分の髪を梳いてくれている乳母を安心させようとしたが、仁の笑顔は少しひきつっていた。 直助は、悪い噂が絶えないでいた。 皿を一枚割った女中をその場で手討ちにしたり、遊郭で遊女に乱暴狼藉で働いたりと、その噂を聞いた雛が三木家への嫁入りを渋ったのは当然といえば当然だった。「仁様、若様がお見えになりました。」「では仁様、わたくしはこれで。」 乳母が部屋から出て行くのと入れ違いに、直助が入って来た。「顔を上げよ。」「はい・・」 仁が俯いていた顔を上げると、そこには目を爛々と輝かせる直助が立っていた。「あの・・」「まぁ、やはり似ているなぁ、有匡様と。」「父上と、ご存知なのですか?」「ええ。雛様との縁談が来た時、わたしは正直嬉しくもあり、残念だと感じました。」「残念?」「わたしはずっと・・有匡様をお慕い申し上げておりました。」「父を?」「有匡様はわたしの事を憶えていらっしゃらないのかもしれませんが、わたしは“あの日”、有匡様に心を奪われました。」 直助はそう言うと、有匡と初めて会った日の事を仁に話し始めた。 その日、直助はいつものように私塾内にある道場で稽古をして汗を流していた。 その時、道場に一人の男が入って来た。 長身を紺の道着に包み、黒く艶やかな髪を髷に結った彼の美しい容姿を一目見た瞬間、直助は全身を雷に打たれたかのような衝撃に襲われた。 男―有匡は、直助と目が合うと、優しく微笑んでくれた。「いつか、わたしは有匡様と所帯を持ちたいと思っておりました。しかし、有匡様は既に妻帯されていた・・ならば、雛様と結婚し、有匡様との繋がりを持とうと思っていたのですが・・嫁いできたのが、あなたでよかった。」 そう言った直助の目は、濁っていた。 彼は仁を褥の上に押し倒すと、乱暴に仁の夜着を剥ぎ取った。「いやっ!」「ほぉ、あなたは“そういう”身体なのですね。」「わたしを、どうするつもりなのですか?」「あなたには、わたしの子を産んで貰います。」 直助は、仁を何の気遣いも優しさもなく乱暴に抱いた。「仁様、大丈夫ですか?」「うん・・」 直助に抱かれた後、身体の中心に熱く焼けた金属の楔を打ち込まれたかのような激痛に数日間仁は苛まれ、寝込んだ。「父上達には、言わないで。」「わかりました。」 仁の乳母・あやは、そう言うと仁の部屋の前から辞した。 そこへ、直助がやって来た。「仁様は?」「お部屋で、お休みなっておられます。」「そうか。」 直助はそう言うと、勝手に仁の部屋へと入って来た。「直助様、何を・・」「わたしの子を孕みなさい。」「嫌だ、やめて!」 仁は抵抗したが、直助に顔を拳で殴られた。「お前は、黙ってわたしに従えばいいんだ!」 直助は、仁を虐待した。 はじめは抵抗していた仁だったが、次第に直助に対して恐怖心を抱くようになり、抵抗する事もなくなった。そんなある日、一人の青年が三木家を訪れた。「もし、直助殿はご在宅でいらっしゃいますか?」「直助様は、留守にしております。ご用件ならば、わたくしがお伺い致します。」「仁・・お前、仁なのか!?」「え?」 仁が俯いていた顔を上げると、そこには自分のかつての道場仲間だった、蔵本祐馬の姿があった。「祐馬、祐馬なのか!?」 仁はそう言うと、暗く沈んでいた顔をパァッと輝かせた。「いやぁ~、それにしても驚いたよ。急にお前が道場を辞めて居なくなったと思ったら、三木家に嫁入りしていたなんてなぁ!」「ごめんね、急な事だったから挨拶も何も出来なくて。道場の皆は元気にしている?」「あぁ、皆元気にしているよ。それよりも仁、暫く会わない内に雰囲気変わったな?」「そう?」「うん、何か上手く言えないけれど、綺麗になったなと・・」「え?」「仁、何か辛い事があったら、俺に・・」「そこで何をしている?」 突然背後から冷たい声が聞こえて二人が振り向くと、そこには怒りで滾った目を自分達に向けている直助の姿があった。「直助様、お帰りなさいませ!」 そう言った仁の声が、少し震えている事に気づいた。「二人で何をしていた?」「少し、昔話をしていただけです。」「そうか。」 直助はそう言って笑ったが、目は全く笑っていなかった。「祐馬、会えて良かった。」「あぁ・・」 その夜、祐馬との浮気を疑われ、仁は直助から激しい暴力を受けていた。「違います、わたしは何も・・」「嘘を吐け!」 直助はそう叫ぶと、仁の首を絞めた。 酸素を求めて仁が苦しそうに喘いでいると、突然血の雨が彼に降り注いだ。(え?) 仁は、自分の首を絞めていた直助の首がなくなった事に気づいた。(どうして・・) 慌てて直助の下から這い出た仁は、家の中が妙に静まり返っている事に気づいた。(一体、何が・・) 仁が自分の状況を確認しようとした時、あやが部屋に入って来た。「仁様、お逃げ下さい、賊が・・」あやはそう叫んだ時、背後から袈裟斬りにされて絶命した。「居たぞ!」「逃がすな、捕まえろ!」 仁は後頭部を何者かに殴られ、気絶した。 その直後、三木邸は紅蓮の炎に包まれた。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年04月21日
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「火宵の月」「薄桜鬼」二次小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。仁が両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。 土御門仁は、いつものように道場で稽古に励んだ。「本日は、これまで!」「ありがとうございました!」 道場から帰宅した仁は、自宅の前に人だかりが出来ている事に気づいた。「父上、母上、姉上!」「仁、帰って来たのか。」 そう言った父・有匡の顔は、何処か暗く沈んでいるように見えた。「一体、何があったのですか?」「実は、雛に縁談が来た。」「縁談、ですか?」 姉の雛は、てっきり幼馴染と結婚するものだと思っていた仁は、姉の元に縁談が来た事に驚いていた。「相手は、三木家のご長男だそうだ。」「そう。それで、姉上は・・」「わたしは、あんな男の元に嫁ぐなんて、嫌!」 家の中に入ると、雛はそう泣き叫びながら母・火月に訴えていた。「どうして、わたしなの!?」「先方が、あなたを望んでいるのよ。」「わたしには、好きな方が居るのよ!結婚相手なんて要らない!」「姉上、その方と結婚しなくていいですよ。」「仁?」「僕が、姉上の代わりにその方の元へ嫁ぎますから。」「仁、正気か!?」「正気です。 有匡は、自分を見つめる息子の瞳に迷いがない事に気づいた。「わかった。お前の好きにしろ。」「あなた・・」 その日の夜、有匡と火月は仁について話し合った。「仁を、本当に三木家に嫁がせるつもりですか?」「本人がそう望んでいる。それに、あの子は頑固だから、一度決めた事を絶対に変えない。それはお前もわかっているだろう、火月?」「ええ、僕達の子ですからね。でも、あの身体だと向こうにバレないと良いんですが・・」「それは、仁が何とかしてくれるだろう。」 姉の代わりに嫁ぐ事になった仁は、日々結婚の準備に追われていた。「ごめんね、仁。わたしの代わりに・・」「姉上は、謝らなくてもいいよ。これは、僕が決めた事だから。」「でも・・」「いいんだよ、こんな身体の僕は、一生幸せになれないと思っていたけれど、これで良かった。」 仁は、男女両方の性を持って生まれて来た。 それは、彼が“呪い”をかけられたからだった。 その所為で、仁は一族から、“出来損ない”、“恥さらし”、“一族の穀潰し”などと、物心がついた頃から罵倒されて来た。 だが両親と姉がそんな輩から守ってくれたし、仁もいじめられたらやり返していた。「ねぇ仁、これあげる。」「これ、姉上の大切な簪じゃ・・」「だから、あなたにあげるの。仁、この簪はわたしの“念”を込めたから、いざという時にあなたを守ってくれるわ。」「ありがとうございます、姉上。」 そして、仁が三木家に嫁入りする日が来た。 この日の為に誂えた白無垢を纏い、雛から贈られた簪を髪に挿した仁は、家族に別れを告げた。「それでは、行って参ります。」「身体に気をつけるのですよ。」「はい。」 美しい装飾が施された駕籠に乗り、仁は次第に遠ざかる実家を見て、涙を堪えた。(父上、母上、どうかお元気で。)にほんブログ村二次小説ランキング
2024年04月21日
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素材は、このはな様からお借りしました。「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「あの、僕・・これから、どうすればいいですか?」 義理の母と妹が惨殺された事など知らずに、火月はそう言うと不安そうな顔をしながら有匡を見た。すると有匡は、火月に優しく微笑んで、こう言った。「これから、わたしと一緒に楽しく過ごせばいい。」「え・・」「ここには、お前をいじめる者は誰も居ない。」「はい・・」 有匡に抱き締められながら、火月は“この人と幸せになれる”と思った。「お帰りなさいませ、有匡様。」「お帰りなさいませ。」 火月が有匡と共に新居である彼の屋敷に入ると、二人の女性が二人を出迎えた。「種香、小里、お迎えご苦労。」「そちらが、殿の・・」 女性達がちらりと横目で有匡の隣に立っている火月を見ると、そそくさと彼女達は奥へと消えていった。「やっと火月ちゃんと会えたのね、殿!」「それにしても、リアクション薄くない!?」「ツンデレなのよ~、そういうところはいつまで経っても変わらないわ~」 種香と小里をはじめとする有匡の式神達はそう言いながら、食事の支度をしていた。 その間、有匡は火月に屋敷の中を案内していた。「ここが、わたしの部屋だ。」「広いんですね・・」「あと、ここがお前の部屋だ。」 有匡に火月が案内されたのは、有匡と同じ位広い部屋だった。「種香に色々とこの部屋の壁紙や内装、調度品などを揃えるのに手伝って貰ったが、何せこういったことには慣れていなくてな・・」「本当に、この部屋を僕が使ってもいいんですか?」「いいに決まっているだろう。」「ありがとうございます、先生!」 火月はそう叫ぶと、有匡に抱きついた。「喜んでくれて良かった。」 そう言った有匡は、何処か嬉しそうな顔をしていた。「うわぁ、凄いご馳走ばかり!」「ハッスルもするわよぉ、今日殿と火月ちゃんの祝言の日だもの~」「長い間待っていた甲斐があったわ~、本当に!」「ね~!」 種香と小里は、そう言った後笑った。 食事が終わり、有匡と火月は初夜を迎える事になった。「漸く、この日が来たな。」「あの、あなたの事を何とお呼びしても?」「好きな呼び方でいい。」「じゃぁ・・今日からよろしくお願い致します・・先生。」「あぁ、宜しく頼む。」 翌朝、火月が目を覚ますと、隣には裸の有匡を見ていた。(僕、抱かれたんだ、この人に。) 昨夜の事を思い出して、火月は頬を羞恥で赤く染めた。「おはようございます、殿。湯浴みの支度が出来ました。」「わかった、すぐ行く。」 有匡は素肌の上から夜着を羽織ると、そっと眠っている火月の髪を優しく梳いて、部屋から出て行った。「火月ちゃん、起きた?」「ご飯、出来ているわよ。」 火月が食堂へと向かうと、そこには美味しそうな朝食が並んでいた。「うわぁ、美味しそう。」「沢山食べてね。」「いただきます。」 火月が朝食を食べていると、そこへ有匡が食堂に入って来た。「火月、おはよう。」「おはようございます・・」 風呂上がり姿の有匡の色気に、火月は鼻血を出してしまった。「全く、朝から騒がしい奴だな。」「すいません・・」「六百年経っても、世話が焼ける奴だ。」 有匡はそう言うと、笑った。「殿、そろそろお時間ですわ。」「わかった。」 有匡は、そう言うと火月の髪を優しく梳いた。「では、行って来る。」「行ってらっしゃいませ。」 有匡を見送った後、火月は溜息を吐いた。「あのぅ、これから僕、どうすれば・・」「あらヤダ、殿ったらお弁当忘れてるわ。」「火月ちゃん、悪いけど殿に届けてくれないかしら?」「え・・」「はい、これ。殿の職場の住所が書かれているメモ。」「気を付けてね。」 火月は有匡に弁当を届ける為、彼の職場へと向かう事になった。「え~と、確かこの先を右に曲がって・・」「お嬢さん、迷子かな?」 火月が道に迷っていると、一人の青年が彼女に声を掛けて来た。 彼は軍服姿で、榛色の髪と、透き通るような碧い瞳をしていた。「あの、僕、ここに行きたいんですけど・・」「あぁ、ここですね。でしたら、僕も行くので、一緒に行きませんか?」「ありがとうございます・・」 青年と共に火月が向かった先は、有匡の職場である帝国陸軍陰陽部神秘課だった。「あの、あなたは・・」「藤原少尉、おはようございます!」「おはよう。」 正門前の門兵達は、少し訝し気な視線を火月に送った。「少尉、そちらの方は・・」「あの・・僕は・・」「火月、そこで何をしている?」 氷のような冷たい声と共に、有匡が火月達の前に現れた。「先生、お弁当を・・」「そうか。」 有匡は溜息を吐くと、火月に向かって手を差し出した。「来い、職場を案内してやる。」「はい・・」 有匡は状況がわからず呆然としている部下達に向かって、こう言った。「これは、わたしの妻の、火月だ。」「え、えぇ~!」 周囲が騒然となる中、有匡は火月と共に建物の中へと入っていった。 その建物は、ゴシック建築の、美しい装飾が施されたものだった。「ここが、先生の職場なんですね。じゃぁ、さっき会った人は・・」「あいつには、関わるな。」「え?」(それって、どういう・・)「先生、あの・・」「有匡殿、有匡殿ではありませんか?」 そう言いながら二人の前に現れたのは、恰幅のいい背広姿の男だった。「有沢さん、おはようございます。」「入口で、何やらわたしの部下達が騒いでいましたが、そちらが、君の・・」「ええ、妻です。」 そう言った有匡の顔は、少し強張っていた。(先生?)「ほぉ、いつの間にこんなに可愛い奥さんを娶ったとは、君も隅に置けませんなぁ!」 背広姿の男―有沢は大声でそう言った後、有匡の背中を強く叩いた。「申し訳ありませんが、急いでいますので・・」「はは、そうだな。いやぁ、呼び止めたりして悪かった!」 有沢は豪快な笑い声と共に去っていった。「賑やかな方でしたね・・」「色々と騒がしい方だが、頼りになる上司だ。」 有匡が火月を連れて行ったのは、建物の二階の奥にある彼の執務室だった。机の上には、タイプライターと書類の山が置かれており、ソファには紐がけした書籍類が置かれていた。「弁当は、ソファの前に置かれている机の上に置いてくれ。」「は、はい・・」 執務室は必要最低限の物しか置かれていない、殺風景な部屋だった。「はぁ・・」 有匡はタイプライターに紙を挿し込み、キーボードを打とうとした時、何かが引っかかっているのか特定のキーボードが打てなくなっていた。「どうかなさったのですか?」 火月は、そう言うとソファの上に置かれていた本を読むのを止めた。「いや、ここのキーボードが打てなくてな・・」「貸して下さい。」 火月がそう言って動かないキーボードの下を弄ると、そこから丸めた“何か”が出て来た。「これが詰まっていたんですね。」「ありがとう。」 有匡が火月から渡された“何か”を広げると、それは数週間前に上司の娘から渡された恋文だった。「それ、恋文ですか?」「ああ、この前出勤している時に渡された。読まずに捨てたつもりだったが、こんな所にあったとはな。」「お返事、書かないんですか?」「ああ。わたしが愛しているのは、お前だけだからな。」「先生・・」(うわ、顔近い!) 有匡は、火月が持っている本を見た。「その本、面白いか?」「はい。女学校に通っていた頃、少しずつ読んでいたんですが、結局読まずじまいで・・」「その本、やるぞ。」「え、いいんですか?」「あぁ。捨てようと思っていたが、全部やる。」「ありがとうございます!」「そんなに喜ばなくてもいいだろう・・」「す、すいません・・」 有匡は溜息を吐くと、タイプライターを打ち始めた。「先生、もうお昼ですよ。」「わかった・・」 漸く書類を纏められた有匡は、火月から渡された弁当を食べた。「先生、僕どうしたら・・」「そう聞かれてもな。お前、女学校に行きたいか?」「行きたいです。家の事情で中退する事になってしまったけれど、ちゃんと卒業したいです。」「そうか・・」 有匡は火月の言葉を聞いた後、何かを考えこんだような顔をした。「まぁ、お帰りなさい火月ちゃん。あら、その本は?」「先生から頂きました。」「へぇ~、これ全部装丁が特注の物ばかりよ~」「え!?」「“古今和歌集”に“源氏物語”、“平家物語”・・中々渋いわねぇ。」「みんな、実家の書斎や女学校の図書室にあって、ずっと読みたかったから・・」 実家で暮らしていた頃、使用人同然の扱いを受けた火月は、読書を楽しむ暇も、勉学に勤しむ暇も無かった。 だが有匡と結婚し、火月は生まれて初めて、“誰か”の為にではなく、“自分”の為に使える時間を手に入れた。 その時間を、火月は無駄にはしたくなかった。「火月、これを。」 夕食の後、有匡はそう言うと火月に書類が入った封筒を手渡した。「これは?」「女学校の入学手続きの書類だ。」「まぁ、ここって、お嬢様達が通う女学校ではありませんの?」「このような所に、僕が通っていいんですか?」「いいも何も、学びたいと思った時に学ぶのはいい事だ。」「ありがとうございます。」 火月は、一晩で女学校の入学書類を書き上げた。「おはようございます、先生。」「火月、出掛けるぞ。」「は、はい・・」 有匡が火月を連れて行ったのは、有匡が贔屓にしている呉服屋だった。「まぁ、いらっしゃいませ。」「妻に合う着物を十着位、誂えて欲しいのだが。」「かしこまりました。」 呉服屋「五十鈴」女将・村上凛子は、火月に優しく微笑んだ。「奥様は、赤や水色といった、髪と肌の色に映えるような物がいいでしょうね。」「あの、先生、こんなに高価な物を頂いていいのですか?」「いいに決まっているだろう、遠慮するな。」「は、はい・・」 呉服屋から出た有匡は、火月を駅の近くにある喫茶店へと向かった。「うわぁ、どれも美味しそう。」「ここのお店のおすすめは、ビーフカレーですよ。」「じゃぁ、それにします。」「わたしは珈琲を。」「かしこまりました。」 着物の上にレースのエプロンをつけた女給は、チラリと横目で有匡に好色な視線を向けた後、厨房へと消えていった。「先生って、女性にモテるんですね?」「何だ、嫉妬か?」「いえ・・僕みたいなのが、先生の妻に相応しいのかなぁって・・」「自分で自分を卑下するな。」「す、すいません・・」「有匡様、有匡様ではありませんの?」 店内の客達の中で一際華やかな集団の中から、一人の女性が二人の前にやって来た。「まぁ、こんな所でお会いできるなんて奇遇です事。そちらの方は?」 女学生の視線は、まるで品定めするかのように火月へと向けられた。「わたしの妻だ。」「まぁ・・」 火月は彼女が、有匡に恋文を送った女学生だと気づいたのは、恋文に残っていた白檀の香りと、彼女の着物から微かに香る匂いが同じだからだった。「紫子殿、わたしはあなたの気持ちに応えられません。」「失礼。」 女学生―紫子はそう言うと、そのまま喫茶店から出て行った。「紫子様、お待ちになって!」「紫子!」 紫子の後を追い掛けるかのように、女学生達が次々と喫茶店から出て行った。「お待たせしました、ビーフカレーと珈琲です。」「ありがとうございます、マスター。さっきの方達は、一体・・」「あぁ、あの方達は、白百合女学校に通う方達でね。毎日ここに来てはお喋りをしているよ。」「そうなんですか・・」 翌日、火月が女学校の入学手続きの書類を郵便局へと出しに行った時、偶然その帰り道で紫子と会った。「あなた、有匡様と結婚したの?」「はい。それが、あなたと何の関係があるの?」「あるわよ!わたくしは、あなたと有匡様が結婚する前から、有匡様の事をお慕いしていたのよ!」 そう言った紫子は、キッと火月を睨んだ。「そうですか。ですが、僕は先生と離縁するつもりはありませんから。」 背後で紫子が何か喚いていたが、火月はそれを無視して帰宅した。「お帰りなさい、火月ちゃん。」「ただいま・・」「どうしたの、浮かない顔をしているわね。」「ねぇおねーさん、先生って、モテるの?」「まぁ、モテるわよ。火月ちゃんと出会う前、沢山恋文を貰っていたし、山程縁談を持ち込まれた事があるものね。でも安心して、火月ちゃん一筋だからね、殿は!」「そ、そう・・」「それにしても遅いわねぇ、殿。」「仕事が忙しいんでしょ。火月ちゃんを放ったらかしにして、悪い旦那様だ事ー」「誰が悪い旦那様だって?」「ま、殿、お帰りなさいませ!」「一体何をコソコソと話をしているんだ、お前達。」「いえね、殿の女性関係について・・」「いらん事を火月に話すな。」 有匡はそう言うと、種香と小里を睨んだ。「さてと、ご飯の支度をしなくちゃ。」「お風呂を沸かさないと。: 二人はそう言った後、そそくさと屋敷の奥へと向かった。「今日、喫茶店で会った方に言われました・・僕と結婚する前から、先生の事が好きだったって・・」「下らん。それをお前に伝えてどういうつもりだったのだ、その娘は?」「さぁ、わかりません。だから、気にしないようにします。」「そうか。」 火月は、4月に菊野女学校に入学した。 女学校は東京にあるので、火月は寮生活を送る事になった。「気を付けてな。」「はい!」 駅まで、有匡は車で送ってくれた。 着替えや文房具などを詰めた旅行鞄を持った火月は、東京行きの汽車に乗り込んだ。「殿、どうしたのかしら?」「さぁ、職場へ行かれたけれど、普段通りのご様子だったけれど・・」「まぁ、寂しくなっても、それを表に出さないのが殿よ~」「そうよね~」「ハックション!」 有匡は大きなくしゃみをした後、舌打ちしてタイプライターを再び打ち始めた。 昼休み、有匡が鞄から弁当箱を取り出し、その蓋を開けた時、ある事に気づいた。 そこは、小さな稲荷寿司が卵焼きの隣に詰められていた。『お仕事、頑張ってください。火月』(可愛い所があるな。) 有匡は弁当箱に添えられた小さな手紙を読んだ後、火月は菊野女学校の正門前に辿り着いた。 入学式は明日だったが、在学生達が新入生達に校舎や学生寮などを案内していた。「あなたは、新入生?ようこそ、菊野女学校へ。」「よ、よろしくお願い致します・・」 火月に校舎や学生寮を案内してくれたのは、有沢百合乃という女学生だった。「こちらが、あなたのお部屋よ。」「わぁ、綺麗・・」 百合乃に案内された部屋は、日当たりが良く、美しい装飾が施された家具や調度品に囲まれていた。「明日から、よろしくね。」「はい!」 翌日、火月は菊野女学校の入学式に臨んだ。「皆さん、入学おめでとうございます。」 火月は、入学式の後、他の新入生達と会った。「はじめまし、わたしは高田綾子。あなたは?」「僕は土御門火月です、どうぞよろしくお願いします。」「ねぇ火月さん、ご結婚されているの?」「はい・・といっても、先生、旦那様は、鎌倉にいらっしゃいますけど・・」「大丈夫です。毎日手紙を書くようにしていますから。」「まぁ、素敵!」 綾子はそう言ってはしゃいだ。「綾子さん、ご出身はどちらで?」「京都よ。色々あって、東京に来たの。」「まぁ、そうなんですか。」「その耳飾り、素敵ね!」「旦那様から贈られた物です。」 火月はそう言うと、綾子に有匡から紅玉の耳飾りを贈られた日の事を話した。「やる。」「先生、これは?」「急な事だったから、指輪を用意する時間がなかった。だから、この耳飾りはお前との契約の証だ。」―専属契約更新の証さ。 火月の脳裏に、前世の記憶が甦った。「本当に、いいんですか?」「あぁ。」 有匡はそう言って火月に微笑んだ。「これから離れ離れになるが、心はひとつだ。」「はい・・」 火月が話し終えた後、綾子はハンカチで涙を拭った。「え、どうして泣いているの?」「感動しちゃって・・わたくしも、火月さんの旦那様のような素敵な方と結婚したいわ!」「そ、そうなの・・」 綾子の反応に火月は引いたが、彼女となら上手くやれるなと思った。 その日の夜、在学生達による新入生歓迎会が行われた。「皆さん、実りのある5年間をどうかお過ごし下さい。」 女学校の授業は、国語、数学、社会、体育、裁縫などの授業があった。 前に通っていた女学校とは授業内容が違ったが、火月にとってそれは苦にはならなかった。 寧ろ、火月は学ぶ事が楽しくて仕方なかった。 それに、友人が出来た。「ねぇ火月さん、今日の放課後、新しいパーラーへ行きません事?」「この前お話ししていた所よね?是非、ご一緒したいわ!」「まぁ、素敵!」 放課後、火月は綾子達と共に銀座に新しくオープンしたパーラーに行った。 そこには、色とりどりのケーキなどがショーケースに並んでおり、店内には紅茶や珈琲、そして菓子の甘い匂いがした。「どれも美味しそうで迷ってしまうわ。」「ねぇ、火月さんは何になさるのかお決めになったの?」「木苺のタルトを・・」 火月達が注文する菓子を決めた時、一人の女給が彼女達の傍を通りかかった。「ご注文をお伺い致します。」 その女給は、香世の友人だった。「あらあなた、生きていたのね。」 彼女はそう言って、火月に向かって薄笑いを浮かべた。「店長、店長はいらっしゃる?」「お客様、どうかされましたか?」 店の奥から、店長と思しき男性がやって来た。「この女給、わたくしの友人に向かって無礼な態度を取ったので、しっかり教育して下さらない事?店の格が下がってよ。」「申し訳ありません、君、こちらへ来なさい!」 女給は店長に引っ張られる様にして、店の奥へと連れて行かれた。「綾子さん、僕気にしてないから・・」「火月さん、自分の感情に蓋をしては駄目よ。不当な扱いを受けたら、抗議しないと!」「えぇ・・」「それよりもあの女給、火月さんとどういったお知り合いなの?」「僕、結婚する前は、東京の高原家で暮らしていたんです。僕には、義理の母と姉が居ました。」「高原って、あの・・」「“狐の嫁入り事件”の・・」「そうなの、香世さんには、腹違いの妹さんがいらっしゃると聞いた事があるけれど、まさか、その妹さんが火月さんだったなんて・・」「あの女給は、お嬢様・・香世さんのご友人だった方です。」 思い出してはいけないと思いながらも、香世に虐待された記憶が溢れ出そうになりそうなのを、火月は唇を噛み締める事で必死に耐えていた。「火月さん、今のあなたは、昔のあなたとは違うわ。だから、昔の事は忘れて、“今”を楽しみましょう。」「はい・・」 同じ頃、有匡は有沢に呼び出され、彼の自宅に来ていた。「わざわざ忙しいのに呼び出してすまないねぇ。さ、お茶でもどうぞ。」「ありがとうございます・・」(このジジイ、一体何のつもりでわたしをここへ呼び出したんだ?) そんな事を思いながら有匡が紅茶を一口飲んでいると、そこへ紫子がやって来た。「まぁ有匡様、ようこそいらっしゃいました!」「紫子殿・・」「君が結婚したと聞いて、紫子は大層落ち込んでしまってね。そんな娘を慰める為に、こうして君をうちに呼んだという訳だ。」「そうですか・・」 有沢は、娘―特に自分に似た次女の方を溺愛しているというのが専らの噂であったが、それは嘘ではないようだ。「有沢さん、申し訳ありませんが、わたしには・・」「いやいや、変な気を回さんでくれ。君には、娘の“話し相手”になって欲しいだけなんだ。」「はぁ・・」 上司からの頼みなので、有匡はそれを無下にする事は出来なかった。「ねぇ、有匡様の奥様は、今どちらにいらっしゃいますの?」「東京の女学校に。」「新婚ですのに、奥様と離れ離れになられてお寂しくはありませんの?」「いいえ。妻とは毎日、手紙のやり取りをしていますから。」「そうですの・・」 有匡の素っ気ない態度に紫子は次第に興味を失ったのか、そのまま客間から出て行った。「いやぁ~、今日は来てくれてありがとう!奥さんによろしく!」「は、はぁ・・」 疲れを引き摺ったまま有匡が帰宅すると、玄関先には女性物の草履が置かれていた。「あら殿、お帰りなさいませ。先程、村上様がいらっしゃいましたので、客間の方へお通ししておきました。」「そうか。」 有匡が客間に入ると、そこには何枚かの着物を持った凛子の姿があった。「お邪魔しております、有匡様。奥様のお着物が出来ましたので、お届けに参りました。」「ありがとう。早速、見せて貰おうか。」「はい。」 畳紙に包まれた着物を一枚一枚見ながら、有匡はそれらに身を包み自分に微笑んでいる火月の姿を想像すると、自然と笑みが零れた。「まぁ、有匡様もそのようなお顔をなさるのですね。」 凛子は、有匡の辛い過去を知っているだけに、そう言って笑った。「火月さん、あなた宛にお荷物が届いているわよ。」「僕宛の荷物?」 火月が学生寮で自分宛の荷物の差出人の氏名を確めると、そこには有匡の名が書かれていた。『結婚祝いだ。』 荷物を解いた火月は、それが畳紙に包まれた美しい着物である事に気づいて、歓声を上げた。「まぁ、素敵な着物ね!」「旦那様が、贈って下さったんです・・」「愛されていらっしゃるのね、旦那様に。羨ましいわ~」 翌朝、有匡から贈られた真新しい着物と袴にその身を包んだ火月は、全身が映る鏡の前で一周した後、笑った。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年04月20日
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「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。海斗の親友・森崎和哉は、わざわざ電車で片道一時間半位かけて海斗に会いに来てくれた。「ねぇ海斗、今日誰かと会ったの?」「どうしてそんな事を言うの?」「だって、暗い顔をしているから。」「そう?」昔から―物心ついた頃から海斗と一緒だった和哉は、海斗の些細な変化を見逃さなかった。「今日、知り合いに会って・・」「どんな人?」「前に話しただろ?スペインで世話になった・・」「ビセンテっていう人?」「うん。ヴィンセントが、俺のバイト先のカフェに来たんだ。」「それで?」「それだけだよ。」「ふぅん・・」海斗は、和哉の前にコーヒーが入ったマグカップを置いた。「ねぇ和哉、そろそろ帰った方がいいんじゃない?電車の時間もあるし・・」「大丈夫だよ、バイクで帰るし。」「バイクで来たの!?」「君に会いたくて、飛ばして来たんだ。」「そうなの・・」和哉は頼りになる友人だが、海斗は時折彼の嫉妬深さが怖いと感じる時がある。「海斗、明日は大学休み?」「講義は二限からだけど、それがどうかしたの?」「ここに泊まろうと思って。」「いいよ、そんなの・・」「僕は、君の事が心配なんだ。」和哉は、そう言ってじっと海斗を見つめた。「わかったよ。」「じゃぁ僕、お風呂に入って来るね。」和哉の瞳に宿っていた狂気が消えている事に気づいた海斗は、彼が浴室へと消えるのを見届けた後、溜息を吐いた。海斗が冷蔵庫の中に残っている食材でナポリタンを作った。「美味しそうだね、何作ったの?」「ナポリタン。」「頂きます。」和哉は海斗が作ったナポリタンを完食した。「どうだった?」「美味しかったよ。海斗は将来、良いお嫁さんになるね。」「俺男だけど?」「冗談だよ。」(お前が言うと、冗談に聞こえないんだけど。)「ねぇ海斗、この前の話、考えてくれた?」「え?」「ほら、一緒に住むっていう話。」「今住んでいる所が大学から近いし・・」「そう、残念だなぁ。」「もう遅いから、寝たら?」「お休み。」「お休み。」和哉が寝室に入った後、海斗はラップトップの電源を入れ、レポートを書き上げた。(あ~、終わった。)海斗がレポートのデータをUSBメモリに保存していると、上半身裸の和哉がリビングに入って来た。「どうしたの?」「ちょっと暑くて、Tシャツ脱いじゃった。」「そう。」「余り夜更かししないようにね。」「わかった。」その夜、海斗は久しぶりに前世の夢を見た。それは、スペインの無敵艦隊と戦っていた時の夢だった。「カイト!」「ヴィンセント・・」海斗は、ビセンテと戦場で敵同士として再会した。「カイト、生きていたのだな。」ビセンテは美しい翠の瞳から真珠のような涙を流した。「カイト、お前を・・」ビセンテの言葉は、突然空気を切り裂いた銃声によって掻き消された。「ヴィンセント・・」「カイト、行くぞ。」後ろ髪を引かれる思いで海斗はジェフリーとその場を去った。その後、海斗はビセンテの死を知った。あの時、彼が何を言おうとしていたのか、海斗は急に知りたくなった。「おはよう。」「おはよう、海斗。良く眠れた?」「うん。」「じゃぁ、行こうか。」和哉は海斗を大学まで送った後、ある人物と会った。「初めまして、ジェフリー=ロックフォードさん。」「どうも。」ジェフリーは、初対面だというのに自分に対して少しも敵意を隠そうとしない和哉に少し苛立った。「あなたには、前世の記憶があるんですよね?」「あるが、それにが君に何か関係が・・」「ありますよ、だって僕は海斗を愛していますから。」「そうか。悪いが、君が何と言おうと、俺はカイトとは別れない。」「そうですか。」(あなたがそう言うのなら、僕も海斗を諦めない。)「では、僕はこれから大学の講義があるので、失礼致します。」「わかった、気をつけてな。」「ジェフリーさん、僕はあなたには絶対負けません。」ジェフリーは、自分に宣戦布告して来た和哉を鼻で笑った。「まだまだガキだな、坊や。幼馴染だからって、カイトが自分の恋人になると思ったら大間違いだ。」和哉は既に、ジェフリーに背を向けて店から出た後だった。「森崎、今度合コン行かねぇ?」「ごめん、バイト忙しいからパス。」「え~、一度くらいいいじゃん。」「こいつは駄目だ、“彼女”が居るからな。」「イケメンは良いよなぁ~、今度その“彼女”、紹介しろよ!」「こいつは嫉妬深いから、無理。」スポーツ万能で成績優秀な和哉は、異性にモテる。中学・高校時代、よく女子からラブレターを貰ったり、告白されたりしたが、和哉はそれらを全て断った。(僕には、海斗しか要らない・・海斗しか欲しくない。)和哉には、海斗が全てだった。今も、“昔”も。(海斗、今度こそ君は僕の傍に居るべきなんだ。君は、あの男に騙されているんだ。)一度和哉は、海斗を軟禁しようとして失敗した事がある。同じ過ちを、二度と繰り返してはならない。(海斗、僕は君を絶対に諦めないよ。)「和哉、待った?」「ううん、今来た所だよ。」二次小説ランキングにほんブログ村
2024年04月19日
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「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様は一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。「俺の残りの命をあなたにあげるから、ジェフリーだけは助けて・・」そう言って、自分に対して恋人の命を助けてくれるよう懇願した赤毛の少年。彼は苦しそうに咳込みながら、黒真珠のような瞳で自分を見つめていた。「カイト・・」その少年の名を呼んだ瞬間、ビセンテは夢から覚めた。その名を呼んだ時、ビセンテは何故か涙を流していた。(終わらない・・)かれこれ四時間、ビセンテはラップトップの画面を見つめていた。急な仕事が入り、彼はこのカフェに入って只管ラップトップのキーボードを叩いていた。「コーヒーのお代わり、いかがですか?」「あぁ・・」ビセンテは疲れた目を擦りながらラップトップから顔を上げると、そこには鮮やかな赤毛を持った店員の姿があった。「カイト・・」“ビセンテ。”夢の中で聞こえた少年の声が、ビセンテの脳裏によみがえった。「お客様?」「済まない、自分の知り合いに君が似ていて・・」「そうですか・・」赤毛の店員はそう言うと、ビセンテが座っているテーブル席から離れていった。「ビセンテ、どうしたんだ?今日は一日中上の空だったぞ?」「あぁ、ちょっとな・・」「もしかして、気になる女でも出来たのか?」「まぁ、そんなところですかね。」「今度紹介しろよ!」アロンソはそう言うと、ビセンテの肩を叩いた。「いいえ、わたしと彼はそんな関係ではありませんから。」「照れるなって~!」同僚のアロンソは、男女問わずモテる。本人は、他人の恋愛話を聞くのが好きで、社内の社員達からの恋愛相談を引き受けている程の、良きアドバイザーなのだった。なので、ビセンテはその日からしつこくアロンソにつきまとわれるようになった。「ビセンテ、一緒にランチでもどうだ?」「遠慮します。」「何だよ、つれないじゃないか~」しつこく自分につきまとってくるアロンソを漸く撒いたビセンテは、行きつけのカフェで昼食を取った。「いらっしゃいませ。」「ブラックコーヒーとパニーニのセットをひとつ。」「かしこまりました。」レジカウンターでそう言って自分に微笑んでいる赤毛の店員の姿を見て、ビセンテはこのカフェに来て良かったと思った。「可愛い子じゃないか、あの子。」「アロンソ殿、いつの間に・・」「君の後をこっそりつけて来たんだ。君が惚れている赤毛の子、君の知り合いか?」「まぁ、そんなところです。」「元気そうで良かった。あの子と別れた時、肺病に罹って血を吐いていたから・・」アロンソの言葉を聞いたビセンテが思わず彼の方を見ると、彼は口端を上げて笑った。「もしかして、あなたにも前世の記憶が・・」「今まで黙っていて悪かった。」「いつからわたしが、前世の記憶を持っている事に気づいたのですか?」「君と初めて会った時からだ。前世の記憶が自分にあると気づいたのは、フェンシングの大会で君と戦った時かな。君の太刀筋を見てね・・」ビセンテは前世でアロンソと一度だけ剣を交えた事があったが、それだけで自分の太刀筋を覚えていたとは。「あの子が生きて、イングランドの海賊船に乗っている姿を、わたしは見た。でも、君には知らせなかった。」「わたしに未練は・・カイトに対する未練はありませんでした。」「それで、これからどうするつもりなんだ?」「カイトは、あの子はきっと、前世の記憶はないと思います。」そんな二人の会話を、赤毛の店員―海斗はカフェラテを作りながら聞いていた。(まさか、ビセンテがここに来るなんて思いもしなかった。)もし自分にも前世の記憶があると海斗がビセンテに伝えたら、彼はどんな顔をするのだろうか。「お疲れ様です。」「お疲れ様。」カフェでのアルバイトを終えた海斗は、疲れた身体を引き摺りながら自宅アパートの部屋に入ると、彼の足元に一匹の猫がやって来た。「ブラッキー、ただいま。」右目に黒い斑模様の猫は、嬉しそうにもう一度鳴くと、ボウルの中に注がれたキャットフードを食べ始めた。海斗が帰宅途中に立ち寄ったパン屋で買ったパニーニを食べていると、ダイニングテーブルの上に置かれているスマートフォンがけたたましく着信を告げた。「もしもし・・」『海斗、何処に居るの?』「家だよ。」『今から行くね。』二次小説ランキングにほんブログ村
2024年04月19日
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表紙素材は、装丁カフェからお借りしました。「薄桜鬼」「天官賜福」「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「兄さん、来て良かったね。」「あぁ。」その日、花城と謝憐は、新婚旅行で海辺の観光地に来ていた。絶景スポットとして知られる縁結びの神社に参拝し、神社の近くのカフェで昼食を取った後、二人はとんでもない災難に見舞われた。「え、予約されていない?」「はい・・」予約していた筈のホテルにチェックインしようとした時、ホテルのフロントで予約されていないとスタッフから言われた二人は、急遽他の宿を探す事になったが、折しもその日は祭りと花火大会があり、花火が見える海辺のホテルは全て満室だった。「兄さん、大丈夫?」「うん・・」少し日が落ちて涼しくなるだろうと思っていた二人だったが、彼らは日本の酷暑を舐めていた。熱が籠りやすい浴衣姿の謝憐は、花火が見える高台へと向かう際に、軽い熱中症になってしまった。「兄さん・・」謝憐の異変に気づいた花城は、背負っていたリュックサックのサイドポケットからミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、それを謝憐に手渡した。『もし、その方、どうかなさいましたか?』二人が困っていると、そこへ一人の和服姿の女がやって来た。『宿を探しているのですが、恋人が熱中症になってしまって・・』『まぁ、それは大変ですね。よろしければ、うちのホテルに来ませんか?』『助かりました。』女性に二人が案内されたのは、高台にある高級ホテルだった。『ようこそ、火宵グランドホテルへ。お連れ様はそちらのソファに寝かせて下さい。』『はい・・』謝憐をソファに寝かせた花城は、フロントでチェックインを済ませると、謝憐の隣に腰掛けた。「兄さん、辛くない?」「うん・・」『お部屋に、ご案内致します。』『はい、わかりました。』花城は謝憐を横抱きにすると、自分と彼の荷物を持ち部屋へと向かった。『こちらです。』案内された部屋は、海と市街地が見渡せる最上階の部屋だった。『この宿は全室、オーシャンビューとなっております。どうぞ、ごゆっくりお寛ぎ下さいませ。』花城に部屋の説明をした仲居は、そう言うと花城に向かって一礼すると、部屋から出て行った。「ねぇ種香、あのお客さん達見た?凄いイケメンよね。」「モデルか俳優かしらね。」厨房で仲居頭の種香と小里がそんな話をしていると、そこへ花城と謝憐を助けた和服姿の女性が入って来た。「お前達、何をくっちゃべっている!」「ま、まぁ殿・・随分とお早いお帰りで・・」「ここでは、“女将”と呼べ。」「まぁ、すいません。」「夕食の時間までまだ時間があるから、わたしは風呂に入って来る。」和服姿の女性―火宵グランドホテルのオーナー兼女将・土御門有匡は、そう言うと厨房から出て行った。「今日は機嫌悪そうね。」「何たって、もうすぐ法事があるんだもの。」「そりゃ、あいつらと会うの、あたし達だって嫌よ。」厨房を出た有匡は、大浴場の脱衣場へと入ると、籠の中に着物と帯、そして襦袢と紙に挿していた簪を入れ、広い湯舟の中に浸った。(もうすぐ法事か・・)湯舟から上がり、有匡は髪を洗いながら、法事で初めて父方の親族と顔を合わせた日の事を思い出していた。『お前が、あの時の子か?』『本当に、不吉な色の目をしているわねぇ。』有匡は、忌まわしい過去を振り払うかのように、ドライヤーで念入りに髪を乾かした。「先生!「火月、ここでは“女将”と呼べと言っているだろう。」「す、すいません・・」有匡の元へ駆けて来た金髪紅眼の女性―有匡の妻であり火宵グランドホテル若女将・火月は、そう言って俯いた。「今日は忙しくなる。」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年04月19日
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車ごと海に転落し、夫が死亡。しかし夫に多額の生命保険金がかけられ、疑惑は若き妻・球磨子に向けられ…球磨子演じる桃井かおりの怪演が凄い。それに対する岩下志麻の演技も凄い。裁判の行方はいかに!?岩下志麻と桃井かおりのキャバレーの対決シーンは面白かったです。
2024年04月18日
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甘くてさっぱりして、美味しかったです。
2024年04月18日
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すっかり忘れていましたが、昨日でこのブログを開設して17周年経ちました。はじめは、好きな漫画やアニメ・小説の二次創作小説を発表しようと思って開設しましたが、オリジナル小説もこちらに載せるようになりました。今は、専ら二次創作メインばかりですが(笑)最近、小説のフリーページに黒執事や薄桜鬼、FLESH&BLOODの二次小説を載せていますが、気が向いたら更新します。これからも、こんなブログですが宜しくお願い致します。
2024年04月17日
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スープと麺との相性がよくて美味しかったです。
2024年04月17日
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チーズたっぷりで美味しかったです。ただ、昔と違って小さくなったなあと思いました。
2024年04月17日
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表紙素材は、装丁カフェからお借りしました。「名探偵コナン」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。平井摩利先生「火宵の月」のパラレルです。捏造設定、死ねたあり、オリジナルキャラ多めです。安室さんが両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「チッ、遅かったか。」 京から故郷・鎌倉へとやって来た陰陽師・赤井秀一は、夜毎人を襲う野猫族を退治する為、野猫族がよく出没している鶴岡八幡宮へと向かうと、そこには奴らの餌食となった人々の遺体が転がっていた。(今日も式神にこの近辺を探らせていたが、噂よりも野猫族は神出鬼没のようだな。) 秀一がそんな事を思っていると、妖気を近くに感じた。「何者だっ!」 妖気がする方へと秀一が筮竹を投げつけると、それは近くの大銀杏の木に突き刺さった。「すいません、別に驚かすつもりは・・」 そう言って木陰から出て来たのは、金髪碧眼の少年だった。「何だ、お前?」「あの・・僕、秀一先生にお願いがあって・・」「ほぉ、俺にか?」「あの・・僕、あなたの子供を産みたいんです。」 秀一は、謎の少年の言葉を聞き、少し苛立った。「俺は、男に子を生ませる術は心得ていないが?」「僕は男じゃ・・女でもありません。」「ほぉ?」 秀一の眦が上がるのを見た少年は、慌てた様子で彼にこう言った。「僕達一族は、60年に一度の変化期を迎えると、雌雄どちらにもなれる両性体なんです。だから・・」「人を化かしに来たのなら、運が悪かったな。今、俺は機嫌が悪いんだ。式神、行け!」「や、止めて下さい、僕は、うわぁ~!」 青龍に脅され、怯えた少年は石段を踏み外し、そこから転げ落ちてしまった。(何だ、随分と呆気ないな・・) そう思いながら秀一が少年が倒れている方へと向かうと、そこには金色の豹が転がっていた。(金色の、豹?) その豹の左耳を飾っている紅玉の耳飾りを見た秀一の脳裏に、幼い頃を共に過ごした黒猫の姿が浮かんだ。「お前、野猫族か?」「野猫族?」「何だ、知らんのか?紅い月の晩になると、人の生き血を啜る妖だ。お前、さっき豹になっていただろう?」「確かに、僕は野猫族ですけど・・出来損ないで、いつも仲間から虐められていて・・」「その耳飾りは?」「これは、昔大切な人が僕の涙で作ってくれたんです。」『秀一様、野猫族の行方は杳として知れません。意図的に気配を隠しているようです。』「そうか。護法童子、引き続き野猫族の捜索を頼む。」『はい。』「な、なんですか!?」「あれは俺の式神だ。俺の命令無しに、お前に危害を加える事は無い。だから、いい加減俺から離れろ。」「す、すいません・・」「お前、名を何という?」「零・・何者にも染まらないという意味で、零といいます。」「では零、お前は何故、俺の子を産みたいと?」「だってあなた、狐の子なんでしょう?半人半狐で、凄腕の陰陽師として、秀一先生は妖の世界でも有名です。」「下らん。俺はお前の気持ちには応えられん。俺にとって異類婚など忌むべきものだからな。まぁ、怪我が治るまで俺を“その気”にさせるのなら話は別だが。」「え・・」 こうして、少年―零と秀一の、奇妙な同居生活が始まった。「秀一様、今日も帰りが遅いわね。」「そりゃぁね。野猫族絡みで色々と忙しいし・・」「それにしても、あいつらあの秀一様の手を手こずらせるなんて、やるわねぇ。」「ちょっと、褒めてどうすんのよ。」 秀一は、焦っていた。 執権には野猫族を早く始末しろとせっつかれたものの、その尻尾が中々掴めなかった。「え、今何て?」「俺が、囮になってあいつらをひきつける。今夜のような新月には、魔物が人を襲うにはいいからな。」 秀一は女装して、野猫族を誘い出した。「助けて下さいまし、そこの方!化猫が、化猫が大勢向こうに!」(女・・何故こんな時間に?) 突然現れた女に抱きつかれ、秀一が戸惑っていると、彼女から微かな妖気を感じ取った。「かかったな、秀一。」「クソッ!」 秀一が野猫族を筮竹で攻撃すると、女は秀一の顔に毒を含んだ爪を立てた。「式神、追え!」「先生!」 零は、血だらけの秀一の顔を見て、蒼褪めた。「どうした?」「血が苦手で・・」「不甲斐ない奴だ。クソ、毒で身体が痺れてきた。」「動かないで下さい、今、中和しますから。」 零はそう言うと、秀一の顔に唇を落とした。 その唇の感触が心地良くて、秀一は思わず目を閉じてしまった。(何だ・・これは・・一体・・) その夜、秀一は疲労の所為か帰宅すると泥のように眠ってしまった。 すると、何者かが部屋に入って来る気配がした。「何者だ!?」「す、すいません・・」 零はそう言うと、秀一を見て苦笑いを浮かべた。「まさかと思うが・・夜這いに来たのか?」「ええ、まぁ・・」二次小説ランキングにほんブログ村
2024年04月16日
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今回は表紙からラストシーンまで心を撃ち抜かれっぱなしでした!花城がもうね、殿下を大切にし過ぎて…読み終わった後、思わずこんな顔になりました(^q^)4巻の発売が待ち遠しいです。
2024年04月15日
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黒執事、アニメは一期・二期・サーカス編・幽鬼城編・豪華客船編まで観ていました。「寄宿学校編から青の教団編までアニメ化されないかなぁ~」と思っていたら、まさかの寄宿学校編がアニメ化するなんて!早速初回放送の13日に録画予約して、今日観ました。ネタバレありなので、未視聴の方はご注意ください。・OPが神!・ビスケットを咥えながら駆けるシエルが可愛い!・P4が凄い!それぞれ個性が強い!・セバスチャンの先生姿がいい!・紫の狼寮の監督生がツイステのイデアさんに似ている・・柩やな先生マジック炸裂!・グリーンヒル先輩がエルヴィン団長に似ている・・というか、中の人居ますからねw・シエルの「ペカッ」ポーズが可愛い!・セバスチャン、美しい・・・作画が美しい!・EDのシドもいいし、セバシエ最高過ぎる!あ~、1話だけでも完全に情緒がやれてしまうので、この先どうなってしまうんだろうか?原作は読んだんですけど、後味悪いからなぁ・・そこもアニメで描いて欲しいなぁ・・
2024年04月15日
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シュワルツェネッガー主演のアクション映画。動物園と港のシーンは何度観ても迫力がありますね。映画館で家族と観たときの感動を思い出します。
2024年04月15日
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最初から最後まで、目が離せない展開が続き、あっというまに読み終えました。
2024年04月13日
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映画はまだ観ていないのですが、小説でもスリル満点の展開が目に浮かぶようで、面白かったです。怪盗キッドと新一の関係…似ていると思ったら、やはりなあ…と思いました。それよりも土方さんの言葉にしびれました…やったね、兼さん!平次、肝心な時に邪魔が入って可哀想に…
2024年04月12日
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*注意事項*・この小説は、平井摩利先生の「火宵の月」ヴィク勇パラレルです。・原作と若干違う設定にしております。・オリジナルキャラ多めです。・勇利が両性具有設定です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。「JJ、いつまで居るの?」「それは、お前を嫁にするまでだ、勇利!」「またそんな事を言って・・」JJ―かつて同じ時を過ごした幼馴染の言葉を聞いた勇利は、何度目かわからぬ程の溜息を吐いた。「僕は、ヴィクトル様以外とは・・」「何言っている、勇利?あいつは、自分のようなガキを作りたくないから、お前を抱かないんだろう?要するに、あいつは・・」「俺が、何だって?」氷のように冷たいヴィクトルの声に、二人が背後を振り返ると、そこには出張から帰って来たばかりの彼が、眉間に皺を寄せながら立っていた。「お帰りなさい、ヴィクトル様!」「俺が居ない間にこいつと浮気したの、ユウリ?」「え、そんな事は・・」「へっ、よく言うぜ!てめぇは姫君達に囲まれて嬉しそうに鼻の下を伸ばしていたくせによぉっ!」「え?」「お前の目は節穴か、JJ?婆共に囲まれ、その上子供達に纏わりつかれて嬉しいもんか。」「ヴィクトル様・・」勇利がそう言いながらヴィクトルに抱きつこうとした時、彼のつけた香とは違うものが彼から漂っている事に気づいた。「あ・・」「気にするな。」 ヴィクトルはそう言うと、恋文を直衣の袖の中から出した。「風呂に入って来い、あちこち泥だらけだぞ。」「はい・・」(こいつ、勇利の気も知らねぇで・・)JJは、湯殿へ向かう前、勇利が泣いていた事に気づいた。「なぁにむくれてんのよ、この子は。」「むくれてなんかないよ!」湯船に浸かりながら、勇利はヴィクトルに恋文を送った女性の事を想っていた。きっと彼女は美しくて、教養があって、ヴィクトルの妻に相応しいのだろう。中途半端な自分とは違って。(有能だし、養子とはいえ貴族だし、ヴィクトル様綺麗だし、それに比べて・・)「勇利ちゃん、まだお風呂に入って・・きゃぁ~!」和紗が中々風呂から出て来ない勇利を心配して湯殿の方を見ると、勇利は湯船の中で気絶していた。「風呂でのぼせるなんて、全く・・」「まぁ殿、どちらへ?」「俺の部屋に決まっているだろう。」「まぁ、そうですの。」“殿、もしかして・・”、“きゃ~、それ以上言うのは野暮よ~”と言う式神達の声を聞きながら、ヴィクトルは舌打ちして自室の中に入った。「ったく、ユウリは俺が少しでも目を離すと、こうなんだから。」勇利を御帳台の中に寝かせると、ヴィクトルは彼と共に横になった。「ん・・」翌朝、勇利が寝返りを打つと、何かが指先に触れた。それは、ヴィクトルの長く、美しい銀髪だった。「え、えっ!?」「そんなに驚くな、ユウリ。」「どうして、僕・・」「ユウリ、お風呂でのぼせちゃって、俺が自分の部屋まで運んで来たんだよ、憶えてない?」「え、あ、わぁ・・」勇利はパニックになり、暫くヴィクトルに抱きついたまま離れようとしなかった。「勇利ちゃん、おはよ・・きゃぁ~!」ヴィクトルの式神達がヴィクトルの部屋で見たのは、抱き合っているヴィクトルと勇利の姿だった。「もぅ~、二人共狡いわよ、抜け駆けなんて~」「ち、違うって、おねーさん達っ!」「あらぁ、さっきの様子だと、殿も満更でもなかったようなだけど?」「ね~」「もぉ~、ヴィクトル様に言いつけてやる!」「残念でした、ヴィクトル様ならお仕事へお出かけになられたわよ。」「そ、そうなんだ・・」「あら、元気ない。そんなにヴィクトル様が恋しいの?」「そりゃぁ、共寝した仲だもんね~」「お、おねーさん達、いい加減に・・」「一体、何の話だ、勇利?」「あ、JJ・・今の話・・」「俺は、認めないぞ!」JJはそう叫ぶと、勇利に抱きついた。「ぎゃ~!」「あ~、また出たわ。」「殿、早く追い出してくれないかしら?」「無理よぉ、最近呪術師殺しが多発していて、殿はその捜査に追われているんだもん。」「それにしても、被害者がみんな雷で焼き殺されるなんて怖いわよね~」(ヴィクトル様、大丈夫かな?)式神達の話を聞きながら勇利がヴィクトルの身を案じている頃、ヴィクトルは執権に命じられ、逗子に住むある貴族の姫君を警護する仕事に就いていた。(全く、何だって俺がこんな事を・・)そんな事を思いながら、ヴィクトルは自分が警護する姫君と御簾越しだが会う事になった。「お初にお目にかかります、ヴィクトル=土御門=ニキフォロフと申します。」「まぁ、あなたが・・」「姫様、なりません!」ヴィクトルが俯いていた顔を上げると、自分の前には勇利と瓜二つの顔をした姫君の姿があった。(ユウリ、なのか・・?)「あなたが、京からいらっしゃったという方・・」勇利と瞳の色は違えども、琥珀色の瞳にヴィクトルは魂を吸い込まれそうになった。「俺・・わたしを、知っているのですか?」「ええ。わたくしの従兄のオタベックから、京に居た頃色々とお話を聞いておりましたのよ。」「オタベック・・」以前、宮中で顔を合わせた事がある、ギオルギーの異母弟。「あなた、京から何故、逗子に?」「あなた様の事が忘れられず、こうして参りましたの。」「わたしを?」「ええ。」(おかしい・・どうして、俺は・・)勇利と瓜二つの顔をした姫君―椿に、ヴィクトルは次第に溺れていった。(遅いなぁ・・ヴィクトル様。)ヴィクトルが出張から帰って来たのは、ヴィクトルが逗子へと向かってから七日後の事だった。「ヴィクトル様、お帰りなさ・・」「まぁ、あなたが勇利様?本当に、わたくしと瓜二つの顔をなさっているのね。」ヴィクトルに抱きつこうとした勇利は、彼の背後に立っている椿を見て動揺した。(この人・・)「ヴィクトル様、この方は・・」「初めまして。わたくし、帝の護持僧・オタベックの従妹の、椿と申します。」こうして、椿は暫くニキフォロフ邸に滞在する事になった。「ねぇ、何なのあの女?」「もしかして・・」「まさかぁ、殿に限ってそんな事・・」 突然の恋敵の出現に、勇利と和紗達は激しく動揺した。「一体どうなさるおつもりなのかしら?」「さぁねぇ~」(ヴィクトル様とお似合いだったな、椿様・・)自分と同じ顔をしていても、椿は女だ。中途半端な自分とは、全く違う。その日の夜、ヴィクトルが自室で寝ていると、渡殿から強い妖気が自分の方へと近づいて来ている事に気づいた。(何だ、この妖気は?)「何者!?」「あら、驚かせてしまったみたいで、申し訳ないわね。」「椿殿・・」「あなたともっと、お話したくて・・構いませんこと?」(吸い込まれる・・)翌朝、勇利がヴィクトルの部屋へと向かうと、そこで御簾越しに裸で抱き合うヴィクトルと椿の姿を見てしまった。「まぁ、勇利様・・」「失礼します!」居た堪れなくなった勇利は、その場から逃げ出した。「ユウリ!」「ヴィクトル様、ここはわたくしが。」勇利は、人気のない塀の近くで泣いていた。(そうだよね、僕みたいのよりも、ヴィクトル様は・・)「見つけたわぁ。」「つ、椿様・・」勇利は、自分を見つめている椿の全身から凄まじい殺気を感じた。「あなたには、消えてくれないと・・」(ヴィクトル様、助けて・・)「ユウリ、何処だ、ユウ・・」ヴィクトルは、“何か”の中へと沈む勇利と、それを眺める椿の姿に気づいた。(強い妖気、こいつ・・)「何者だ!?」「ちぃっ、勇利と同じ顔をして化けてお前を油断させる気でいたけど、甘かったようだね!傀儡師のあたしもヤキが回ったもんだ!」「ユウリを、どこへやった!?」「あの子なら、もうこの世には居ないさ。あたしが魔界に堕としちまったんだもの。」「魔界だと・・?」「勇利を取り戻したかったら、あたしに協力するんだね。」椿はヴィクトルに、鶴岡八幡宮に祀られている頼朝を調伏するよう目地た。「さぁ、早くおし!」「魔界へ行くなら、このJJに任せな。」「は?お前が、魔界に?」「次元通路なんざ一発で開けるからな。勘違いするな、俺は勇利の為を思って・・」「いいだろう。」魔界へ逃げた椿を追う為、JJとヴィクトルは魔界へと潜入し、勇利を発見した。勇利は、魂を喰われてしまった。「あぁ、そんな・・」「おい、女が逃げたぞ!」「許さない・・ユウリを、返して貰う!」ヴィクトルはJJと協力して椿を倒し、彼女の中から勇利の魂を救い出した。「この役立たずが、失敗しただと!?」「申し訳ありません、主上・・」オタベックはそう主に詫びながら、ヴィクトルの弱点が勇利である事に気づき、勇利を攫う事を企んだ。「え、どういう事ですの、それ!?」「件の呪術師殺しが殿の仕業だと密告した者が居ると!?」「あぁ。その者が“誰”なのか、見当がつくけど。」(間違いない・・あいつだ・・)呪術師殺しの疑いをかけられたヴィクトルは、勇利をギオルギーの部下によって攫われてしまい、その途中で呪力を失った。「ヴィクトル様、ごめんなさい・・」「謝るな。」勇利はヴィクトルがオタベックに狙われている事を知り、その身を挺して彼からヴィクトルを守ろうとした。矢を受け倒れた勇利の姿を見たヴィクトルは、オタベックの企みを挫き、その額に醜い傷を刻んだ。「おのれ、ヴィクトル・・」呪術師殺しの疑いが晴れたヴィクトルと勇利は、再び共に暮らす事になった。勇利の身体に異変が起きたのは、冬の訪れを告げる木枯らしが吹いた頃だった。その頃ヴィクトルは仕事で多忙を極め、職場に泊まり込む事が多くなり、勇利と顔を合わさない日も多くなっていった。「久し振りのご帰宅かよ、陰陽師サマ。」「何だ、お前まだ居たの?」ヴィクトルは勇利の為に屋敷周辺に強い結界を張り巡らし、勝手に勇利が外に出られないようにしていた。その所為で、JJは勇利に会う事が出来ず、日に日に苛立ちが募っていった。「勇利をほったらかしにして、平気なのかよ?あいつは今・・」JJがそう言ってヴィクトルに詰め寄った時、屋敷の中から何かが倒れる音がした。「ユウリ?」「あ、ヴィクトル様、お帰りなさ・・」そう言ってヴィクトルを出迎えた勇利は、激しく咳込んだ。その足元に、血が滴り落ちた。「ユウリ!」勇利は、そのまま床に臥せってしまった。「全部テメーのせいだ、ヴィクトル。変化期に抱かれなかった未分化は、そのまま血を吐いて死ぬんだ。」「けれど、俺は・・」「JJ、僕の相手をしてくれる?」「ユウリ・・」「あぁ、わかった。」「ユウリ・・」「部屋、かりるぜ。」ヴィクトルは、部屋の中へと入っていくJJと勇利を、黙って見送る事しかできなかった。「あ、ごめん・・」勇利は、とうにJJに抱かれる覚悟をしていたのに、彼の唇を噛んでしまった。「いいって事よ。」その時、ヴィクトルが部屋に入って来た。「ユウリは、お前にしか抱かれたくないってさ。はぁ~、50年も片想いしてきて、キツいよなぁ。」JJはそう言うと、ヴィクトルと勇利を見た。「ユウリの命を助けたいっていうのなら、他にも方法があるぜ。」「え?」「唐土に・・紅牙族に代々伝わる不死の妙薬がある。」「不死の妙薬?」「あぁ、紅牙族の雌の涙―紅玉さ。嫌なら、いいぜ。」「僕、行きたい。」「ユウリ・・」「僕、“ふるさと”を知りたいんだ。紅牙族の村がどんなものなのか、見てみたいし。」「そうか・・」こうして、ヴィクトルと勇利はJJと共に唐土へ向かう事になった。「ここが、唐土?」強い雪と風で周りが見えず、勇利は寒さで死にそうになった。「おい、村にはいつ着くの?」「もう着いているぜ。」「え・・この焼けた廃墟が?」勇利達の眼前に広がっているのは、“村”だったものだった。「助けて!」焼けた村の跡地で、一人の子供が兵士と思しき男達に囲まれていた。「樹里、大丈夫か?」「JJ、帰ってたの!?」「こいつらは?」「政府の役人じゃないよ。村を焼いたのも、こいつらだよ。」「へぇ~、紅牙狩り再開って訳か?じゃぁ、ここで殺しても誰も文句言わないよな?」「やめて、JJ!」男達を殺そうとしたJJを、ヴィクトルが止めた。「JJ、どうして早く帰って来なかったんだ!」「雌と子供達は?」「人質に取られた。」「JJ、そちらの客人達は?」紅牙族の長がそう言って勇利とJJを指した先に、紅牙族の雄達がどよめいた。「な、何だ!?」「雌(おんな)か!?」唐土の服に着替え、ヴィクトルと勇利は紅牙族の雄達と共に食卓を囲んだ。「JJ、あの男は誰だ?」「あいつか・・あいつは、日本幕府お抱えの呪術師様さ。」「お前、何を考えて・・」「まぁ。こっちにも色々と考えがあるんだよ。血を流さずに、人質を取り戻す方法をな。」JJがそんな事を長と話している間、勇利は酒を飲み過ぎてしまった。「おい、順番な!」「わかってるって・・」紅牙族の雄達がそう言いながら酔い潰れた勇利を運ぼうとしていると、彼らの前にヴィクトルが立ちはだかった。「な、何だテメー!?」『類友だな、まさに。』ヴィクトルはそう言うと、薄笑いを浮かべた。『それに触るな、妊娠する。』「あのさぁ、俺らやる事やらねぇと溜まる訳よ、わかる?」紅牙族の雄がそう言ってヴィクトルの胸倉を掴んだ時、勇利が彼に噛みついた。「ヴィクトルをいじめるな!ヴィクトルは、僕の大切な人なんだから!」「え、じゃぁ、こいつがあんたの伴侶?」「そうだよ~」「酒乱め!」ヴィクトルはそう言って勇利の唇を塞ぐと、長から用意された部屋に入った。「よ、飲むか?」「あぁ。」ヴィクトルは、JJから雌の紅玉が入手出来ないと知った時、微かに手の痺れを感じた。「貴様、はめたな。」JJは王と交渉する為、ヴィクトルを連れて都にある城に来ていたが、王は南の離宮で休暇中だった。上手く交渉が出来ると思っていたJJだったが、ヴィクトルと共に彼は牢に繋がれてしまった。「馬鹿だな。」「うるせぇ!」何とか牢から脱出した二人だったが、雌と子供達の命を盾にとられ、なす術がなかった。「畜生・・」「目を閉じていろ。」ヴィクトルは、“神風”を起こし、城から脱出した。「ねぇユウリ、大丈夫?」「うん、大丈夫・・」JJ達が雌の救出作戦を考えている間にも、勇利の容態は徐々に悪化していった。「樹里、シーツ換えておいて。」「ねぇ、ヴィクトルに頼めばいいじゃん、そうしたら・・」「駄目。ヴィクトル様には心配かけさせたくないんだ。」「でも・・」「お願い。」樹里と勇利がそんな事を話していると、渋面を浮かべたヴィクトルが部屋に入って来た。(うわぁ、機嫌悪そう・・)「ヴィクトル様、どうされたんですか?また、JJが失礼な事を?」「あいつは存在自体が迷惑だからな。」ヴィクトルは、そう言うと勇利を見た。「ユウリ、いつまで意地を張っているつもりだ?俺が言っている意味、わかるな?」「え・・」「ユウリをいじめるな!」樹里はそう言ってヴィクトルの部屋から出ると、自分とJJの部屋へと入った。「俺、わかんない!何でヴィクトルはユウリを抱いてやんねーの?」「色々と複雑なんだよ、大人ってのは。」「ガキ扱いすんなっ!」その日の夜、ヴィクトルは悪夢を見た。子供の頃、父に殺されかけた悪夢を。「ヴィクトル様?」「お前は俺に、何を望みたいの?」「僕は、ヴィクトル様と一緒に居たい・・それだけです。」翌朝、勇利は意識不明の状態に陥った。「もう、このまま・・」“お父さん、しっかりして!”目の前で父を喪った悲しみ。大事な存在を失った苦しみ。そんな思いを、二度としたくない。「ユウリは誰にも渡さない。」その時、JJはヴィクトルの髪が紅く染まるのを見た。「最初から、こうすれば良かったね、ユウリ。俺は、絶対にお前を失いたくないんだ。」ヴィクトルはそう言うと、勇利の上に覆い被さった。ヴィクトルと結合した勇利は、その七日後に意識を取り戻した。だが、勇利は記憶を失っていた。「落ち着け、ユウリ!俺がわからないのか!?」「嫌~!」勇利は、己の名さえ忘れてしまっていた。「なぁ、冗談だよな?」「猫族の言葉、しゃべってみな?」「んと・・えと・・」言葉がたどたどしい勇利を見た紅牙族の雄達は、困惑した。「これは・・」「マジでヤバイぜ・・」「ねぇユウリ、ヴィクトルの事、わからないの?あんなにヴィクトルの事、大好きだったじゃん!」「わかんないよ・・」厩で樹里と馬の世話をしながら、勇利が樹里とそんな事を話していると、JJが厩に入って来た。「樹里、長が呼んでる。」「わかった。」勇利は馬の世話をしながら、自分の名前を思い出そうとしていた。「名前・・僕の・・」「ユウリだ。」厩に、銀髪の男が入って来た。「お前の名だ。」男―ヴィクトルは、鋭い刃物のような“気”を纏いながら、勇利の腕を掴んだ。ヴィクトルは、数時間前に長と話した内容を思い出していた。「俺がユウリと結合したから、ユウリが記憶を失ったって!?」「あんたは呪術師だ、我々にはわからない術を使う。それに、死者が蘇生された時、生前の記憶を失うという。」「何だって・・」(俺が、ユウリを・・)「長は、俺がお前を蘇生させたとさ。今ここに居るユウリは、俺が知っているユウリじゃないって。」(怖い、この人・・)「お前の記憶は、俺が・・」(怖い!)恐怖の余り、勇利は黒豹に姿を変え、厩から逃げ出した。「うおっ!?ユウリ、どうした?こいつに何かされたか?」「お前と一緒にするな、ユウリ、こっちへ来・・」ヴィクトルがそう言って勇利を見ると、勇利はJJに抱きついた。「あ、こいつお前が怖いんだよ。」暫く勇利は、JJ達と同じ部屋で寝る事になった。「何だかわかるような気がするなぁ、あいつの“気”、刃物みたいに鋭くて怖いもん。」「陰陽師なんざ、俺達妖にとっては天敵そのものだからなぁ。」JJはそう言いながら、自分に抱きつく勇利を見て嬉しそうな顔をしていた。(ガキの頃から手なづけて来たっていうのに、あいつにとっちゃきついよなぁ。)勇利が記憶喪失になってから、一月が過ぎた。「いいか、今日は俺とお前の関係を話す。」「か、関係?」「お前と俺は、約二十年前に出会い、長い空白期間を経て、再会した・・おい、何で逃げる!?」「だ、だって、追い掛けて来るから・・」勇利は恐怖の余り、木の上に登ってしまった。「降りて来い、ユウリ!話を聞けと言っているだろう!」「い、嫌だっ!」勇利は足を滑らせて木から落ちたが、そのまま逃げてしまった。その日から、勇利とヴィクトルの“追いかけっこ”が始まった。「まぁた、酷い顔してんなぁ。」JJはそう言うと、顔に勇利の爪で引っ掻かれた傷があるヴィクトルを見て、ニヤニヤと笑った。「いい加減諦めろよ、記憶を取り戻すのは至難の業だって、お前にもわかっているんだろう?ま、同族の俺達がユウリの面倒を見てやるから安心しな。あ、それともユウリなしで寝るのは辛いってか?」「うるさい!」「で、どうやってユウリの記憶を取り戻すんだ?」「ユウリの“精神内”に潜る。」「そ、そんな事、成功すんのか!?前は、成功したけどよぉ・・」「やってみないと、わからないだろう?」(自分でも、良くわからないけどね。)ヴィクトルは、城攻めについて紅牙族の雄達と揉め、城攻めに加わる気がない事を彼に話した。「あ~あ、誰かさんに冷たくされて、いじけちゃったんだろうな。」JJはそう言ってヴィクトルにあてつけるかのように、彼の前で勇利とキスをした。ヴィクトルはJJの頭を壁にぶつけた後、そのまま人気のない湖へと向かった。「あいつ、こっちの気も知らないで・・」そんな事を思いながらヴィクトルが独り言を呟いていると、そこへ勇利がやって来た。「僕の所為で、ごめんなさい・・」「俺は、昔からこの力の所為で利用されたり、怖がられたりした。それに、沢山失ったものが多い。」「そ、そう・・」勇利はそう言ってヴィクトルに背を向けて歩き出そうとした時、誤って凍った湖に落ちてしまった。「ユウリ!」―馬鹿、暴れるな、人が助けてやっているのに!「わぁっ!?」洞窟の中で目を覚ました勇利は、ヴィクトルと自分が裸である事に気づいた。「まだ動くな。」「あの、それ・・」「お前に引っ掻かれて、毒が少し躰に回って来た。」「毒?」「猫族の爪には毒があるんだ。お前との追いかけっこで慣れたが、凍死寸前の躰にはきつい。」「あの、どうすれば・・」「中和してくれ。」「中和?」「傷口に口をつけるんだ。出来ないなら、いいさ・・」「やる・・ユウリの所為だから・・」ヴィクトルは、勇利にキスをして、勇利の”精神内“に潜ろうとしたが、失敗した。それから、JJはヴィクトルが城攻めに加わる事を知り、驚いた。「どんな心変わりなんだよ、あいつは?」「もしかして、ユウリが頼んだのかも。」湖で助けてくれた日から、勇利はヴィクトルの事が気になってしまった。そして、城攻めの日が来た。「じゃぁ、行って来るぜ。」「留守番なんてつまらないよ、一緒に連れて行ってよ!」「駄目だ、村で大人しく待ってな。」JJと樹里がそんな話をしている頃、勇利はヴィクトルと話をしていた。「それ・・」「お前の耳飾りだ。なくさないように身につけた。行って来る。」ヴィクトル達が紅牙の村を発った頃、城では大臣達が南の離宮から帰って来た一人の呪術師を迎えた。「これはこれは、ユーリ=プリセツキー殿、随分とお早いお帰りで・・」「城の“気”が乱れてるな。俺に隠し事なんて無駄なんだよ、ばぁか。」そう言って大臣達の前に現れたのは、金髪に美しい翡翠の瞳をした少年だった。「これの所為だろ?」ユーリはそう言うと、城内に残っていた残留思念を呼び出した。すると、二人の男がユーリの前に現れた。一人は、紅牙族の雄。だがもう一人の男は・・「どうしたの、ユウリ?ヴィクトルの事が、気になる?」「そんなんじゃないよ・・」樹里にそう言いながらも、勇利はヴィクトルに会いたくて堪らなかった。「追い掛けよう、ユウリ!」「今から?」「今から追い掛ければ、間に合うよ!」 勇利と樹里はヴィクトル達を追い掛け、彼らと共に城責めに加わった。「え~、俺行けないの!?」「もしユウリに何かあったら、お前が唯一の雌候補だ。言っている意味、わかるな?」「うん・・」「じゃぁ、行って来る。」 樹里は城へと入って行くJJ達を見送った。「結界に侵入者・・あいつら、人質を奪いに来た。」「兵を早く集めよ!」「心配ねぇよ。俺の結界は誰にも破られねぇし。」(馬鹿な奴ら、俺の結界から逃れられねぇし。) ユーリがそう思いながら笑っている頃、ヴィクトル達は迷路の中に居た。「なぁ、ここおかしくねぇ?」「そうだな・・」(何だ・・まるで・・) ヴィクトルがそう思いながら鏡の中を覗き込むと、突然それに大きなひびが入った。「うわぁ~!」「皆、大丈夫か?」「あぁ・・」 謎の空間に巻き込まれ、ヴィクトル達は謎の黒い霧に包まれた。 JJ達の様子が少しおかしい事に、ヴィクトルは気づいた。「どうした?」「シラクチヅル・・猫族だけに効く麻薬よ。」 そう言ったJJ達は、何かに怯えていた。「どうした?」「嫌、来ないでっ!」 勇利が突然怯えたので、ヴィクトルは祭文を唱えた。「飲み込め、少しはマシになる。」 勇利はヴィクトルから渡された護符を飲み込むと、幻覚を視なくなった。「世話が焼ける連中だ。」 ヴィクトルはそう言うと、ユーリの結界を破った。「結界が破られた・・」「な、なんですと!?」(こいつ、未分化か・・丁度いい。)「ちょっと、行って来る。」(僕、どうしてここに?さっきまで、みんなと・・)「おいお前、そこで何をしている!?」「白の塔から抜け出して来たな、来い!」 兵士達に連れられて勇利がやって来たのは、人質が監禁されている白い塔だった。 そこには、麻薬で魂を奪われ、涙を流す雌と子供達の姿があった。(何、ここ・・) シラクチヅルの、黒い霧に包まれた勇利は、気を失った。 終わらない悪夢の中で、勇利は涙を流していた。 そんな中、ヴィクトル達は、“白の塔”へと辿り着いた。「何だ、これ・・」「ユウリ!」 ヴィクトルは、何を流している勇利の頬を叩いたが、反応は無かった。(おかしい、まるで、“壁一枚”隔てているかのような・・) ヴィクトルは、勇利の“精神内”に潜入し、勇利を救い出した。「ヴィクトル様・・」「ユウリ?」(まさか、記憶が戻っ・・)「お前か、俺の結界を破ったのは?」 そう言ってヴィクトルを睨んだのは、一人の少年だった。「誰だ、てめぇ?」「ユーリ=プリセツキー、今はこの城の全権を預かっている。ていうか、人の遊び場にズカズカ入ってくんじゃねーよ。」「遊び場ぁ?」「ま、退屈しのぎには良かったぜ。」「テメェ~!」 少年の言葉に激昂したJJは、少年に向かって妖火を放ったが、彼はすぐさまJJに反撃した。「ここ、俺の結界内だって忘れてねぇ?」 そう言ったユーリの髪は、赤くなっていた。「お前、人間じゃ・・」「人間なんて、こっちを怖がるか利用する事しか知らねぇ、下等動物さ。」 ユーリがJJにそう得意気に話していると、ヴィクトルがユーリを抱き上げた。(こいつ、俺の結界を、まるで自分のものみたいに・・) ユーリは、ある事に気づいた。「お前・・俺と同じ“匂い”がする。」「ユーリ様、大変です!南の離宮に・・」「クソが。ここはひとつ貸しだ。」「お前、妖狐か?妖狐は普通、魔界に棲むと聞くけど?」「半端なんだよ、半分人間だから。お前と同じでな。」 無事人質達を救出したJJ達は、南の離宮へと向かうユーリの龍を見た。「あれは・・」「妖狐族は生まれつき龍と契約できる力を持っている。元々は龍族だったという言い伝えがある。」「へぇ。」 雌達が戻り、紅牙の村に活気が戻った。 だが―「いい加減、機嫌直せよ、ユウリ!俺が抱いてやるから、いいだろう!」「バカ、ユウリはね、ヴィクトルじゃなきゃ駄目なのっ!それ位わかってやれよっ!」 樹里はそう言うと、JJの顔に蹴りを入れた。「ユウリ、俺だ、開けてくれ。」「畜生~!」「ユウリは、ヴィクトルしか見ていないんだからさぁ、諦めろって。」「でもよぉ~」「多分、ヴィクトル気づいちゃってるよ、自分の気持ちに。」「ヴィクトル様、これ・・」「証だ、専属契約更新の。」 ユウリの事が大好きだって事にね。 唐土から遠く離れた京では、ある男がヴィクトルへの復讐にその胸を滾らせていた。「う・・」「僧正、また発作ですか?」「放っておけ。」 ヴィクトルから呪詛返しを受け、男―オタベックは法力を失った。(おのれ・・ヴィクトル・・)「オタベック、法力は戻ったか?」「いえ・・」「朕はお主を頼りにしているぞ、オタベック。一刻も早く、法力を取り戻してくれ。」「はい、主上・・」 オタベックは、そっと額の傷に触れた。 それは、ヴィクトルによってつけられたものだった。(俺は、あの男を許さない・・あいつが、血の涙を流すその日まで。) その頃、唐土ではちょっとした騒動が起こっていた。「はぁ、伴侶になる?お前とユウリが?」「そうだよ、ナイスカップルだろ!」「どちらが雄になるの?」「じゃんけんで決める!」 樹里とユウリの言葉を聞いたJJとヴィクトルは、同時に笑い出した。「ヴィクトル様、真面目に聞いて・・」「好きにすれば?でも、俺は男とは寝ないからね。」「ヴィクトル様~!」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年04月10日
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素材は、かんたん表紙メーカー様からお借りしました。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 遥か昔、妖狐と雷獣は共存していたが、いつしか互いに国を治めるようになってからは、宿敵同士として憎しみ合うようになっていった。 月を神とする、雷獣の一族・紅牙族。 炎を神とする、妖狐の一族。 両者の間には、幾度となく血が流れた。 憎しみは末代まで引き継がれ、それは互いの国が繁栄した現在に至っても、変わらない。 そんな中、紅牙族の王家に生まれた王女・火月と、人間と妖狐との間に生まれた妖狐族の皇太子・有匡との縁談話が持ち上がった。「まぁ、どうしてあの子が?」「体のいい厄介払いでしょう。ほら、だってあの子は・・」「姉様、有匡様からお手紙が届いたの!」 火月の義姉・美琴がそんな事を侍女達と話していると、そこへ火月がやって来た。「まぁ、良かったわね、火月。」「有匡様とお会いできる日が楽しみだわ!」 火月はそう言うと、屈託の無い笑みを浮かべた。 まだ幼い彼女は、自分と有匡の婚姻が、この国の将来を左右するものであるという事を知らずにいた。―火月様が・・―あんな子に、炎宵国の皇太子妃が務まるのかしら?―国王陛下も、色々とお考えがあるのでしょう。―それにしても、“あれ”はどうなっているのかしら?―さぁね・・ 女官達が噂をしているのは、火月の双子の兄・アルハンの事だった。 アルハンは、生まれつき病弱で、その上ある事情を抱えており、それ故に王宮の奥深くにある塔に監禁されている。 火月は、アルハンの元に毎日通っては、その日あった事を話していた。 その日も、彼女は自分宛に届いた有匡の手紙を扉越しにアルハンに読み聞かせていた。「有匡様って、どんなお方なのかしら?早くお会いしたいわ!」「きっと火月なら、幸せになれるよ。」「ありがとう、アルハン!」 扉越しに聞こえる、妹のはしゃぐ声が、アルハンの心を沈ませた。(いいなぁ・・火月は、何もかも持っていて・・) 生まれてすぐ、ある事情から塔に監禁された自分と、王女として何不自由ない生活を送っている火月。 同じ顔をしているのに、どうして自分だけが・・「アルハン、どうしたの?」「何でもないわよ。」「じゃぁ、また明日ね!」「あぁ・・」 火月が塔から出て、王宮内にある自室へと戻ろうとしていると、廊下で女官達が何かを囁き合っていた。―ねぇ、あの噂は本当なの?―北方の蛮族が攻めて来るって・・―嫌ぁね。―火月様のご婚礼が控えているというのに・・「父様、北方の蛮族が攻めて来るって、本当なの?」「まぁ火月、一体何処でそんな話を聞いたの?」「女官達が話していたの。」「大丈夫だ火月、この国はわたし達が守るから、お前は安心しなさい。」「はい、父様!」 そんな話を火月が家族と話していた頃、彼女の縁談相手である有匡は、中庭で剣術の稽古に励んでいた。「ま、参りましたっ!」「ここに居たのか、有匡。」「父上!」 稽古用の木剣を執事に手渡した後、有匡は偵察から帰って来た父・有仁に抱きついた。「ますます剣の腕を上げたな。」「はい、いつか父上のような立派な兵士になりたくて、日々稽古に励んでおります!」「そうか、わたしは頼もしい息子に恵まれて幸せだな。」 そう言って有仁が笑った時、そこへ彼の妻・スウリヤがやって来た。「帰って来たのか、有仁。」「ただいま、スウリヤ。」 スウリヤは、第二子を妊娠中だった。「母上・・」「有匡はますますお前に似て来たな、有仁。」「そうか?ならば、もうすぐ産まれて来る子は、お前に似て美人だろうな。」「男だったらどうする?」「どちらでもいいさ、健康に産まれてくれれば。」「そうだな。」 そんな和気藹々とした雰囲気の中、有匡達の元に一人の兵士がやって来た。「陛下、北方で反乱が起きました!」「わかった、すぐ行く。」「父上・・」「そんな顔をするな、すぐに戻って来る。それまで、母上達を頼んだぞ。」「はい・・」 泣き喚き、どうか行かないでくれと父に縋りつきたいのを必死に堪え、有匡は笑顔で父を見送った。 北方の蛮族が反乱を起こし、反乱軍が炎宵国の王都・ティエンカに迫って来るのは時間の問題であった。「荷物は必要最低限の物だけを詰めて持ってゆけ!」「母上、どうしても王宮を離れなければならないのですか?」「有匡、そんな顔をするな。お前はいずれこの国の王となるのだから。」「でも・・」「さぁ、行くぞ!」 有匡とスウリヤ達は王都を離れ、東部にある離宮で避難生活を送る事になった。 そんな中スウリヤは、第二子である神官を出産した。「おめでとうございます、元気な皇女様ですよ!」「そうか。」 スウリヤは、腕に抱いた娘に、“艶夜”と名付けた。「可愛い・・」「これからは親子三人、力を合わせて頑張らねばな。」「え?」「皇后様、申し上げます!皇帝陛下が・・」 有仁の訃報が届いたのは、スウリヤが神官を出産した直後の事だった。 有仁の葬儀は、王都でしめやかに営まれた。(父上、どうして・・) 有仁を喪い、有匡は悲しみに沈んでいた。 一方、火月の十歳の誕生日パーティーが盛大に開かれ、各国から祝いの品々が引っ切り無しに届いた。そのパーティーには、有匡が国賓として招かれていた。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年04月09日
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表紙素材は、このはな様からお借りしました。「黒執事」の二次小説です。平井摩利先生の「火宵の月」パラレルです。原作とは若干設定が違っています。作者様・出版社様とは一切関係ありません。シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。「チッ、遅かったか・・」セバスチャン=土御門=ミカエリスは、野猫族によって喰い殺された民達を見て、そう言った後舌打ちした。毎夜の如く鎌倉に現れ、人の血肉を喰らう野猫族調伏の為、京からやって来たセバスチャンだったが、ことごとく野猫族に裏を掻かれ、その尻尾すらも掴めなかった。(紅い月・・確か、紅い月は魔力を高めるとか・・)セバスチャンがそんな事を思っていると、微かな妖気を感じた。「何者だっ!」気配を感じたセバスチャンが筮竹を投げると、木陰から一人の少年が現れた。「済まない、驚かせるつもりはなかった。」そう言った少年は蒼銀色の髪をなびかせ、蒼と紫の瞳でセバスチャンを見つめた。「お前、セバスチャン=ミカエリスだな?」「そうですが、あなたは?」「お前にお願いがあって来た。」「わたしに、お願いですか?」「僕を孕ませろ!」「わたしは男に、子を産ませる術など持っていませんが?」「違う・・僕は、男でも、女でもなくて・・」「と、いいますと?」「僕の一族は、60年に一度の変化期を迎えると、伴侶に合わせて雌雄どちらにもなれる両性体で、未分化なんだ。」(両性体?未分化?よくわかりませんが、妖の類ですか・・)「運が悪かったですね、わたしは今、機嫌が悪いのですよ。」「お、おい、待て・・」「行け、式神!」「やめろ、僕は、うわぁぁ~!」セバスチャンに青龍で脅され、少年は石段から転げおちていった。(随分と呆気ないものですね・・)セバスチャンがそう思いながら石段から転げ落ちた少年の方を見ると、そこには黒豹が転がっていた。(これは、一体・・)セバスチャンは、黒豹の左耳を飾っている蒼玉の耳飾りを見た途端、“過去の記憶”が脳裏によみがえった。―お前の涙、とても綺麗だ。池に落ちた猫を助けたセバスチャンは、その猫の涙が美しい蒼玉へと変わるのを見た。「あなた、野猫族ですか?」「野猫族?」「知らないのですか?近頃、この近辺に出没し、人の生き血を啜る化物ですよ。」「確かに、僕は野猫族だが・・妖力や腕力が低くて、仲間から馬鹿にされて・・」「あなたのようなおっちょこちょいの妖、見た事がありませんからね。」「そ、そんな・・」「そういえば、あなた、まだ名前を聞いていませんでしたね。」「シエル・・蒼い空という意味で、シエル。」これが、セバスチャンとシエルの出会いだった。「シエル、何故あなたはわたしの子を産みたいと?」「だってお前、鬼の子なんだろう?陰陽師・セバスチャン=土御門=ミカエリスの名は、妖の世界でも有名だ。」「まさか、それが理由ですか。だとしたら、他の男に抱かれなさい。わたしにとって、異類婚とは忌むべきものですからね。」「嫌だ、お前じゃないと嫌なんだ!」「落ち着きなさい。シエル、あなたの傷が治るまで、ここに居てもいいですよ。」「いいのか?」「ええ・・傷が治るまで、わたしを“その気”にさせたら、考えてあげてもいいですよ。」「えっ・・」「ふふ、冗談ですよ。」その日の夜、セバスチャンは中々眠れずにいた。“だってお前、鬼の子なんだろう?”あの少年―シエルの言葉を受け、セバスチャンは目を閉じながらあの黒猫の事を思い出していた。帝を惑わした鬼と、それを退治する筈だった陰陽頭だった父との間に生まれ。父親を亡くし、母からは捨てられ、周囲からは気味悪がられた。―鬼の子だ!―怪しげな力を使う化物め!―近づくんじゃないよ、頭から喰われちまうよ。いつも、独りだった。独りで、寂しかった。そんな中、セバスチャンは池で溺れていた黒猫を助けた。黒猫は、蒼と紫の瞳をしていた。黒猫の涙は、たちまち美しい蒼玉へと変わっていった。『お前の涙、とても綺麗だ。そうだ、お前の名は蒼玉(そうぎょく)にしよう!』黒猫―蒼玉は、セバスチャンにとって初めて出来た友達だった。だが、蒼玉は遠縁の伯父によって捨てられ、セバスチャンは彼と共に京へ向かった。(あれからもう20年か・・蒼玉は、流石に死んでいるでしょうね・・)そんな事を思いながらセバスチャンが寝返りを打とうとした時、何者かの気配がした。「何者!?」「済まない、驚かせて・・」「シエル、どうして・・」「そ、それは・・」「もしかして、夜這いですか?」セバスチャンの問いに、シエルは乾いた笑い声を上げた。セバスチャンは、シエルの額に札を貼った。「これは?」「動きを封じる魔除けの札です。」「お前、最低だなっ!」にほんブログ村二次小説ランキング
2024年04月07日
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素材は、てんぱる様からお借りしました。「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。※シエルが女装しています、苦手な方はご注意ください。「それにしても、王妃様は本当に殺されたのかしら?」「そんな事、大きな声でいうものじゃないわよ!」「でもねぇ・・」 王妃が謎の死を遂げた事により、その死はセバスチャンによる毒殺なのではないかという噂が王宮内に飛び交っていた。「それにしても、セバスチャン様は都に若い娘を囲んでいるそうよ。」「若い娘?」「ええ、何でもセバスチャン様が身請けなさった妓生で、まだ十三だとか。」「子供じゃないの!」「彼女は、書画や舞踏・音曲などに秀でていて、大妃様も一目置かれている存在だとか。」「へぇ・・」「セバスチャンが、側室を迎えただと?」「世子様・・」「ただの噂ですわ、どうぞお気になさらず・・」「いや、もっと詳しく聞きたいな。」ヒョンジャは、そう言って自分に頭を下げる女官達を見た。「はぁ・・」 シエルは、今日も玄琴を奏でながら、セバスチャンが来るのを待っていた。 あれから―王妃が死んでから、セバスチャンは王宮内で雑務に追われているようで、この四日位この宮殿に顔を出さなかった。(外に女でも出来たんだろう。まぁ、僕はこんなんだし・・) シエルがそう思いながら玄琴を奏でるのを止めた時、一人の女官が彼の元へとやって来た。「あなたが、シエル様ですか?」「あぁ、そうだが・・お前、何処の女官だ?」「わたくしは、世子様の使いで参りました。シエル様、世子様がお呼びです。」「世子様が?」(世子様が、僕に一体何の用だろう?) そんな事を思いながらシエルがヒョンジャの元へと向かうと、彼は煙管で何かを吸いながらシエルを見た。「シエル様をお連れしました。」「お前はもう下がってよい。」「はい。」「世子様・・」「久しいな、シエル。」 ヒョンジャはそう言うと、シエルを己の膝上へと抱き寄せた。「そなた、セバスチャンの側室になったそうだな?」「はい。セバスチャンはわたくしによくして下さいます。」「そうか。」 ヒョンジャはそう言った後、シエルの髪を撫でた。「そなた、わたしのものにならぬか?」「それは、出来ません・・」「では、力ずくでわたしのものにしてやろう。」 ヒョンジャはそう言うと、シエルのチョゴリの胸紐を解き始めた。「お止め下さい!」「嫌じゃ。」「誰か~!」「人払いしておる故、ここに居るのはわたしとそなただけ。」 シエルはヒョンジャから逃れようとしたが、彼はビクともしなかった。「何をしているのです?」「おや、来たか。」 鬼のような形相を浮かべながら自分の方へとやって来るセバスチャンを見て、ヒョンジャはほくそ笑んだ。「シエルから離れなさい。」「いつもは澄ましている癖に、そなたもそのような顔をするのだな?」「あなたの目的は何なのです?」「そなたの色々な顔を見てみたいのだ。」 ヒョンジャは、シエルを抱き上げると、彼を寝室へと運んだ。「シエルに何をする?」「セバスチャン、シエルを取り戻したくば、そなたは戦場で武功を立てよ。」「貴様、最初からそのつもりで・・」「母をわたしから奪った仕返しだ、セバスチャン。安心しろ、お前が戦場から戻って来るまで、シエルはわたしが大切に預かっておく。」「セバスチャン!」「シエル!」 互いに手を伸ばそうとしたセバスチャンとシエルは、内侍達によって非情に引き裂かれた。「世子様、あなたは一体何をお考えなのですか?」「言ったであろう、わたしはセバスチャンの色々な顔を見たいと。」「わたしを、殺すおつもりですか?」「殺しはせぬ。そなたは大切な人質だからな。」 ヒョンジャはそう言うと、シエルの右目を覆っていた眼帯を外した。「美しい色の瞳だ。」「お止め下さい!」「何故、隠す事がある?」 ヒョンジャはそう言って笑いながら、シエルの髪飾りを弄った。「その髪飾りは、あいつから贈られたのか?」「だとしたら、どうだというのです?」「強気なそなたの性格、気に入っておる。わたしの周りに居るのは、わたしに媚びる者達ばかり。いつもわたしの機嫌を損ねないかどうかを考える者達。そんな輩に取り囲まれ、わたしはいつもうんざりしていた。そんな中、お前とあいつだけは、わたしに媚びなかった。」 ヒョンジャはそう言うと、シエルの髪を梳いた。「不思議な色の髪だ。銀が少し混じった蒼がある。あいつは、夜の闇のように艶やかで美しい髪を持っている。」「世子様の御髪も、美しいではありませんか。」「わかっておらぬな、そなた。どれだけ褒められようとも、己より優れた容姿や能力を持つ者に嫉妬するというのが人の常というものだ。」 ヒョンジャは、シエルに初めてセバスチャンと会った時の事を話した。セバスチャンとヒョンジャが初めて会ったのは、ヒョンジャが七歳の時だった。その日、セバスチャンとヒョンジャはそれぞれ母親に連れられて、王が開いた詩作の会に出席した。名妓と謳われたセバスチャンの母は見事な詩を何篇もその場で発表し、またセバスチャンも詩を即興で披露して、周りから絶賛された。―やはり王様が惚れ込んだだけの事はある。―美貌と才覚を兼ね備えた者が側室とは、余りにも惜しい・・―家柄と美貌だけでは・・ ヒョンジャは、怒りと屈辱で顔を歪ませた母の顔を、未だに忘れる事が出来なかった。 セバスチャンは、詩作だけではなく、書画や音曲、剣術などが出来た。 ヒョンジャは彼に負けぬようそれらに励んだが、天賦の才を持ったセバスチャンが彼に敵う筈がなかった。『ヒョンジャ、どうしてあなたは・・』 いつしか、母は自分を責める事が多くなった。彼女は、世子であるヒョンジャよりも、庶子であるセバスチャンの方が優れている事を認められなかったのだろう。『憎らしい・・あの女をどうしたら・・』『わたくしに、良い考えがございます、王妃様。』 母にあらぬ事を吹き込んだのは、彼女の親族だった。『あの目障りな妓生を王宮から、いえこの世から消すには・・』 セバスチャンの母は、身に覚えがない罪を着せられ、獄死した。「世子よ、安心なさい。」 邪魔な存在を消した母は、嬉しそうだった。 しかし、その母はセバスチャンに殺された。「わたしは、あいつが憎くて堪らぬ。全てを生まれながらにして持ったあいつに。しかし、あいつにもお前という弱点がある事を知り、嬉しくなった。これで、あいつにわたしと同じ思いをさせる事が出来るとな。」「やめて、離し・・」「まだお前は殺さぬ。お前は、大切な人質だからな。」 セバスチャンは、世子にシエルを人質に取られ、戦地へ赴く事になった。「そんな顔をしないで下さい、すぐに戻って来ますから。」「これ、持っていろ。」 セバスチャンが戦地へ赴く日、シエルは彼に母の形見の簪を手渡した。「ありがとうございます、この簪をあなただと思って大切に致します。」「う、うるさいっ!」「では、わたしからこれを。」 セバスチャンはそう言うと、シエルにある物を手渡した。「これは?」「わたしの母の形見で、母が父から渡された蒼玉の首飾りです。」「セバスチャン、必ず僕の元へ帰って来い!」「ええ、必ず。」 セバスチャンが向かった戦地では、異民族との戦いが長期化し、兵士達は疲弊しきっていた。「食事は皆さん、どうなさったのですか?」「そこら辺に生えている雑草で簡単な汁物や粥を作ったりしていたよ。」「そうですか・・」「ここら辺の村は、村人達を全員殺された上に食糧を略奪されちまったから、自給自足の毎日さ。」(これでは、戦いの前に兵士達が死んでしまいますね。) セバスチャンがそう思いながら山で狩りをしていると、そこへ一頭の鹿が通りかかった。 セバスチャンはその鹿を持ち帰り、その肉を鍋にして兵士達に振舞った。「あんた、その格好からして王族だろ?王族が何だってこんな所に来たんだ?」「少々、訳ありでね・・」「まぁ、王宮は色々とあるからね。」(シエル、元気にしているのでしょうか?) セバスチャンがそんな事を思いながらシエルから渡された簪を眺めていると、同じ頃シエルは溜息を吐きながらヒョンジャに宛がわれた部屋で寝返りを打っていた。(中々、眠れないな・・) シエルがそっと首に提げている蒼玉を見つめていると、誰かが部屋に入って来る気配がした。にほんブログ村二次小説ランキング
2024年04月06日
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前から食べたい食べたいと思っていて、なかなか買う機会がなかった前田精肉店のコロッケ。今日は久しぶりに前田精肉店のまえを通りかかったらコロッケを売っていたので、即買いました。サクッとした衣と、肉のほくほくとした味わいか最高でした。これで1個130円はコスパがいいし、美味しいです。
2024年04月05日
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次巻でシリーズ完結かあ。怒涛の展開とラストシーンを読み終えた後、これからどうなるの!?と思いながら本を閉じました。
2024年04月04日
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