2006.05.07
カテゴリ： 夕日記
混 沌とした街灯 第2章 2006.5.7 （日)
※企画小説の第2章です。
コレ と コレ 、
更には 第1章 を先に読めば読むほど、
今後の展開が有利になります
「四郎ちゃん、お願いね」
そう言い放ち、
北京ダック、クジャク、ライオンという
常識はずれな風貌で店へ入ってきたのはみゆだった。
彼女は商社勤めの旦那を持つ、
俗に言うマダム。
旦那の稼ぎは全て自分の物欲に費やす、
ショッピング依存症マダムである。
衝動買いこそ、マダムの証。
銀座で週に2回行われるマダム教室でそう教わり、
みゆのショッピング依存度はぐんぐん上がっている。
ナッパのスカウターも壊れる勢いだ。
【そんなみゆが過去に衝動買いしたものリスト】
・カステラ5年分
・ワイパー
・シャンプー台
・高枝切りばさみ
・黄色いスイカ
・金運がUPする的なブレスレット
・助手席
・ダチョウ
どれも一般人では手が出せない代物ばかりである。
「かしこまりました、こちらの席へどうぞ」
kuruta オーナーが丁寧な言葉で席へ案内する。
「みゆ様、そのライオンの方はどうされますでしょうか」
確かにそうだ。
みゆはライオンにまたがっている。
いくらショッピング依存症患者とは言え、
ライオンを店内に置いておくわけにはいかない。
「ライオン?」
「えぇ、みゆ様のそのライオンでございます」
「そうねぇ、アフリカに返してきてくれるかしら?」
「は、はい・・・?」
「だからアフリカへ返してきてちょうだい」
「えぇっと・・・」
「冗談よ、おほほほほっ」
「は、はぁ・・・」
これは俗に言うマダムジョーク。
マダム教室ではこのジョークが常に飛び交うのだ。
理解できないこと山の如しである。
みゆは乗ってるライオンから降り、
ソファーに腰掛けた。
「タイガー、お行きなさい」
そのみゆの命令に、
ライオンは素直に従い店の外へ出て行った。
（おいおい、さっきタイガーって言ったよな?）
（あれ、完全にライオンだよな?）
（でもタイガーって・・・）
店内のホストたちはそう思わざるをえなかった。
みゆのライオンの名前はタイガー。
斬新だ、斬新すぎるネーミングだ。
例えるなら、
飼っているネコに、
“犬”と名づけるようなもので、
ペットのカメレオンに
“ウェブカメラ”と名づけるようなものである。
ソファーに座ったみゆに、
ヘルプのホストが注文を取る。
「ドリンクの方は何にされますでしょうか」
「そうねぇ、オススメは何かしら?」
「赤ワインでしたら上物が入ってますが」
「赤ワインの上物?」
「はい、赤の80年モノでございます」
「じゃあ白ワインちょうだい」
この一言が注文を取りに行ったホストを迷わせた。
（おいおい、これもマダムジョークなのか?
いや、でもさすがにこの状況では使わないだろ?
あ、この人はショッピング依存症患者。
赤ワインはもちろんだけど、
白ワインも衝動に任せてって事か?
それとも白だけって事?
あぁ・・・あぁ・・・
どっちなんだよ、俺、どうすりゃいいんだよ。
こんな事ならマダム教室、通ってりゃ良かったよ。
通信教育で習ってりゃ良かったよ。
でも高いんだよなぁ、あれ。
1時間で7万8000円ってどーゆーこと?
1時間の消費税だけで7万8000円ってどーゆーこと?）
頭の中で悩みが膨らみ、
ホストの顔はあり得なく歪み出す。
みゆはその異変にいち早く気づく。
「気持ち悪い・・・お下がりなさい」
しかし彼の耳にみゆの声は届いていない。
自分で自分の脳裏に作り出した迷路。
その出口が見つからず、
ついに彼は泡を吹き始めた。
「私はカニを注文したつもりはないわよ」
これぞ伝家の宝刀マダムジョーク。
「しかも何これ、毛ガニ? 毛ガニのつもり?」
そう言いながらみゆは、
泡を吹く彼の髪の毛を鷲づかみにし、
頭を上下に振り始めた。
ショッピング依存症患者特有の発作である。
「頭きた、今日は帰るわ!」
そう捨て台詞を吐き、
みゆは出口へ向かった。
「タイガー、タイガー島田!」
呼び出したライオンにまたがり、
彼女は歌舞伎町を去っていった。
みゆが出ていった店内は
一気に静まり返った。
ただ、ボコボコという泡の音だけが
シーンとした店内に響いている。
「おい、大丈夫か? しっかりしろ!」
泡を吹くホストにkuruta は呼びかける。
「ダメだ、二葉亭さんに連絡してくれ」
「二葉亭さんのとこの朱雅さんに連絡してくれ」
二葉亭朱雅。
日本で5本の指に入るとか入らないとか言われている、
一流の薬剤師である。
kuruta はホストの口から吹き出る泡の量から、
バファリンでは治らないと判断し、
二葉亭朱雅へ頼むことを決めたのである。
自他共に認めるその判断力は、
これまた国民何とか賞をいつ獲ってもおかしくない。
「わ、分かりました。すぐ連絡します」
そう返事をしたのはÅ優々だった。
以前、Å優々は二葉亭で働いており、朱雅とは面識がある。
『プルルルルル・・・・・』
『プルルルルル・・・・ガチャ』
「はい、こちら二葉亭」
続く
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Last updated
2006.05.09 14:48:18
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