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May 3, 2024
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カテゴリ: 文化

大川小学校 津波裁判を追って

映画「生きる」の寺田和弘監督に聞く

東日本大震災( 2011 3 月)による津波にのまれ、児童 74 人(行方不明者 4 人含む)、教職員 10 人が犠牲となった宮城県石巻市の大川小学校。映画「『生きる』大川小学校 津波裁判を闘った人たち」(配給・きろくびと)には、この惨事を引き起こした原因を知りたいと立ち上がった遺族の延べ1 0 年に渡る映像が記録される。寺田和弘監督に映画に込めた思いを聞いた。

誹謗・中傷にさらされた原告ら――

「日本人の意識」を問いたい

世論を動かし裁判所を動かす

〈災害当日、大川小の児童らが公邸から移動を始めたのは地震発生から約 50 分後。その直後、津波が児童らを襲った。なぜ被災は避けられなかったのか。児童の遺族が県や死を訴えた裁判では、 2018 4 月、仙台高裁が好調等の「組織的過失」を認定。翌 19 10 月、県と市の上告は棄却され高裁判決が確定した〉

――作品の前半では提訴に至る記録、それを振り返る遺族が丁寧に映し出されていますね。

裁判を起こすことで原告遺族は誹謗、中傷され、脅迫もされました。多くの津波犠牲者がいるなか、なぜ大川小の遺族だけに損害の賠償が、といった批判も起きています。映画を作る前提には、こうした批判の背景にある「日本人の法意識」を問いたいとの思いがありました。それには裁判に至る経過を知ってもらうことが必要だと考えました。

また、遺族がなぜ裁判を起こすに至ったのか。そうした疑問は市や教育委員会による保護者説明会、第三者検証委員会で起きていた事実が知らされていないことからくるものでした。遺族に寄り添えない行政の態度が両者の溝を回復できないほど深めていました。それらを知ることで、原告遺族の思いは必ず理解してもらえると思います。

――原告遺族自らが津波被害の検証に取り組み、撮影した映像も使われています。

裁判を闘うなか、それはとてもつらい作業だったと思います。安全な場所に避難さえすれば、子どもたちは助かっていたことを遺族自身が明らかにするものだからです。

今回の裁判を担当した吉岡和弘弁護士は、この裁判は絶対に勝たなければならない裁判だといつも話していました。しかし、そのためには世論を動かし、裁判所を動かさなければならないと考えていたようです。それは専門家ではできないことです。原告遺族がやり切る以外になかったのでしょう。そして、その記録はその作品ではなくてはならないものになっています。

子どもの命 生きる思いが

―—タイトルとなった「生きる」には、どんな思いが込められているのでしょうか。

撮影を続けるなか、この映画を原告遺族が前を向き、「生きる」ストーリーとして描いてよいのか、自分の中でも葛藤が続いていました。そのなか、元原告代表の今野浩行さんが高校生に自らの体験を語る最後の撮影を迎えました。

子どもを失い、生きる希望を見いだせずにいた今野さん。しかし、このとき、私は彼が「生きたい」と語るのを聞きました。今、薬を飲んでいる自分は生きようとしているのかなと思う、そう彼は語っていたのですが、私には「生きたい」と聞こえたのです。

翌日、別の遺族に聞くと、「私の家族もそうですが、それは亡くなった子どもの命を生きるという思いじゃないですか」と話されました。恥ずかしいことに私は籔下遺族の思いに気付くことができていませんでした。そして、それが「生きる」というタイトルにつながったのです。

――大川小の遺族には原告に加わらなかった遺族もおられます。そこはどう進められたのでしょうか。

今回の映画をつくるに際し、原告以外の遺族への取材は行っていません。報道の基本姿勢からすれば、子どもを亡くした遺族の深い悲しみに対し、原告の遺族であれ、そうでない遺族であれ、その心の奥深い部分に迫ることが大切かもしれません。しかし、この作品では「日本人の法意識」を問うことをテーマに掲げてきました。そこにさまざまな配慮を加えれば、その問題意識はぼやけてしまうでしょう。こうした手法には批判もあると思いますし、それは受け止めなければならない批判だと思いますが、私は今回そうした選択をしなかったということです。

遺族に寄り添った高裁判決

闘った記録を未来へつなぐ

――最後に読者にメッセージを。

津波裁判を追った作品ですが、それでも、この映画には夢があると私は思っています。事件後、遺族は市や教育委員会、検証委員会の対応に心を痛めましたが、高裁は遺族に寄り添う姿勢を示してくれました。遺族の陳述に涙した書記官もいたそうです。

映画の最後に吉岡さんとともに裁判を担当した斎藤雅弘弁護士が、亡くなった児童に呼びかけるように「お父さん、お母さんたち、こんなに頑張ったんだよ。安心してね」と涙を流し語るシーンがあります。これは原告遺族に寄り添ってきた彼だからこそ流れた涙です。つらさや教訓ももちろん共有してほしいのですが、この作品には、原告遺族と共に闘った記録、軌道を未来へつなぐ希望があります。それをぜひ感じ取ってほしいと思います。

てらだ・かずひろ 1971 年、神戸市生まれ。テレビ朝日・ ABC {サンデープロジェクト」特集班ディレクターを経て、 2011 年から(株)パオネットワークで番組制作に取り組む。本作が長篇ドキュメンタリー映画初監督作品となる。

【文化・社会】聖教新聞 2023 2 7






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Last updated  May 3, 2024 05:24:16 AM
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匿名希望@ Re:大聖人の誓願成就(01/24) 著作権において、許可なく掲載を行ってい…
匿名です@ Re:承久の乱と北條義時(05/17) お世話になります。いつもいろいろな投稿…
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