映画に恋してる

映画に恋してる

2008.03.19
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カテゴリ: 映画館で観た映画




日の当たる白いポーチに出て
男はおもむろに
靴底の汚れを気にした。



たったそれだけの仕草で
私たちは全てを悟る。
静寂の中に漂う
異様なまでの緊迫感。



コインの表裏という
彼にしか解らない奇妙なルール。

決めるのはあなただから」
搾り出すような
それがたぶん
彼女の最期の言葉だっただろう。



必要か、必要でないかは
全く彼には意味をなさず
殺人は
ただ起きてしまうこと。
そこにはいささかの戸惑いも躊躇もない。



男はどこにも属さず
どこから来たかもわからず

どこかへ去って行く。
理不尽なまでの邪悪さで。



もはや正義の力だけでは
何も変えられない世の中なのか。
奪われたたものを取り戻そうとすると、




私たちはあまりにも
多くの
殺しを目撃しすぎてしまった。




2008-1.JPG





観終わってふと気づいたのは
この映画にはBGMがなかったってこと。
もしかしたら
あったのかも知れないけれど
何でだろう・・・
どうやっても思い出せない。


静寂の中に続く
はりつめた異様なまでの緊迫感。
実際のところ
音楽なんて全く必要なかっただろう。
ハビエル・バルデム演じる
「人間離れした」殺人鬼の怖さに比べたら
音楽で煽る恐怖など
きっと、とるに足らないと思えるから。


フツーの人間とは全くリンクしない思考回路。
自分だけに明瞭な哲学。
何の変更も加えずただ几帳面に
請け負った「任務」は遂行される。


彼にとっては、鍵穴も人間の体も同じこと。
邪魔であればただ
ぶち抜くだけのもの。
高圧ボンベ付の道具を
人目につくのもかまわず持ち歩く。
だがそこには快楽も苦悩も存在しない。



最初の殺しのシーンの不気味さには
いきなり度肝をぬかれたけれど
物語後半から多くなる
「見せ過ぎない」演出にも引き込まれた。
足元だけを見せる描写が、
観ている側のイマジネーションをかきたてる。



殺しの瞬間はあえて映さず
電話をしながらソファに足を乗せ
広がる血だまりを避けたのは
別の殺し屋、カーソン殺害の時。


モスの妻の元に赴いた時も
会話の後に殺しのシーンはなく
外に出て靴底の汚れを気にした
ただそれだけの仕草。


わずかな期待を抱いていた。
彼女は果敢にも立ち向かったから。
そのことがもしかしたら
この血も涙もない殺人鬼の
ルールを変えることになるかもと
信じたかった。


殺しの瞬間は描かれなかったが
彼の仕草で全てが判った。
その瞬間を目撃した以上に
おそらく激しい絶望感・・・。




先がまったくわからない。
胃のあたりがギュッと痛くなる感じ。
老保安官は正義の名の下に
殺し屋をきっと追い詰められると信じていたし
大金を持って逃亡するモスも
どうにか逃げ切るつもりでいたに違いない。
私も心のどこかで
そう願っていた。
転がる死体の先には
きっと報いがあるに違いないと。



詳しくは書かないけれど
あのラスト近く・・・
一瞬目を見張った、報いは下った!という
思いもむなしく
普通では理解できない展開。
この不条理さは言葉では尽くせない。
キモチはやはりざわついたまま。



思えば、「理不尽さ」こそが、
シガーの正体だったのだ。
老保安官でなくても、嘆いてしまう。
NO COUNTRY FOR OLD MEN
この国(アメリカ)にはもう居場所などないんだと。










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Last updated  2008.04.10 22:27:19
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あかまっちゃん2004 @ Re:アース  EARTH(01/17) ようやくDVDで見ました。ただ、プロジ…
Christophor@ ... [URL= <small> <a href="http://www.qerig…
セビセビ @ 七光り うおぅ。。 なぜかは分りませんが、禁止…
亜美tsugumi @ おおっ トムクルーズというキーワードに釣られま…
Jessie @ Re:親の七光りって言うけれど・・・   夏恋の映画独り言♪(04/24) ね!たしかにジュリアに目もとがそっくり…
sweet sue @ 本当だ! 笑顔がキュートなところそっくり! 目元…
ねこんちゅ @ 七光り おはようございます。 七光りは日本も…
マリーmypink @ 使っちゃえ!七光り~(笑) こんにちは~~ うわっ!目元がそっく…
夏恋karen @ Heikさん へ ★Heikさん、おはようございます♪ >そ…

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