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ストラディヴァリとグァルネリは、ともに17~18世紀に活躍したヴァイオリン製作者です。
過去に幾度も本物かどうかの聴き比べが行われましたが、著名な音楽専門家でも見事に外しまくり、現代のものとの間に音色の違いはないという結果が出ています。
にもかかわらず、ストラディヴァリの相場は下がるどころか上がる一方でした。
なぜこんなことが起こるのでしょうか。
”ストラディヴァリとグァルネリ ヴァイオリン千年の夢 ”(2017年7月 文藝春秋社刊 中野 雄著)を読みました。
1挺数億円で取引され、スター・ヴァイオリニストは必ずどちらかを使っているといっても過言ではない銘器の不思議を解明しています。
中野 雄さんは1931年長野県松本市生まれ、東京大学法学部卒業、日本開発銀行を経てオーディオ・メーカーのトリオ役員に就任しました。
その後、代表取締役、ケンウッドU.S.A.会長を歴任し、昭和音楽大学、津田塾大学講師を務めました。
現在は、映像企業アマナ等役員、音楽プロデューサーとして活躍し、LP、CDの制作でウィーン・モーツァルト協会賞、芸術祭優秀賞、文化庁芸術作品賞など受賞しました。
アントニオ・ストラディバリ(1644年 - 1737年)は、イタリア北西部のクレモナで活動した弦楽器製作者です。
弦楽器の代表的な銘器である、ストラディヴァリウスを製作したことで知られています。
ニコロ・アマティに師事し、16世紀後半に登場したヴァイオリンの備える様式の完成に貢献しました。
1680年にクレモナのサン・ドメニコ広場に工房を構えると、若くして楽器製作者としての名声を得ました。
2人の息子と共にその生涯で1116挺の楽器を製作したとされ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、マンドリン、ギターを含む約600挺が現存しています。
グァルネリは、イタリア、クレモナ出身の弦楽器製作者一族であり、
アンドレーア・グァルネリ (1626年 - 1698年)、ピエトロ・ジョヴァンニ・グァルネリ (1655年 - 1720年)、ジュゼッペ・ジョヴァンニ・バッティスタ・グァルネリ (1666年 - 1739年)、ピエトロ・グァルネリ (1695年 - 1762年)、バルトロメオ・ジュゼッペ・“デル・ジェズ”・アントーニオ・グァルネリ (1698年 - 1744年)
が知られています。
単にグァルネリといえば、バルトロメオ・ジュゼッペ・“デル・ジェズ”・アントーニオ・グァルネリの制作した弦楽器を指すことが多いです。
アントニオ・ストラディヴァリとバルトロメオ・ジュゼッペ・“デル・ジェズ”・アントーニオ・グァルネリの二人の製作した楽器が、この世界で至高の逸品とされています。
その秘密に迫るべくこれまで数え切れないほど多くの、学者、研究者、職人たちが日夜研究を続けてきました。
しかし、その秘密なるものを応用して、往年の巨匠二人のような作品が誕生したという話も、量産化に成功したという話も聞いたことがありません。
その間に銘器の価格は高騰を続け、1挺の値段はいまや数億円となっています。
日本人では高嶋ちさ子氏がストラディバリウス・ルーシーを2億円で、千住真理子氏がストラディバリウス・デュランティを2~3億円で購入しているといわれています。
現代最高クラスの名手たちから今なお愛され続けています。
その美しい音の秘密はヴェールに包まれ、世界中の職人や科学者がなんとかその謎を解き明かそうとしのぎを削ってきました。
音楽家は、自分の持っている楽器の性能を超える演奏をすることが出来ません。
ヴァイオリンにしても、ピアノにしても、あるいは、管楽器、打楽器にしても、あらゆる楽器には、製造過程で造り込まれた潜在的な音楽表現能力が内在しています。
これは人間を含めた生物の世界と同じで、遺伝子の存在と似ていると言ってもいいでしょう。
一人ひとりは容貌が異なり、体格が異なり、運動能力も智力、性格も異なります。
長い人生行路の中で、努力や教育訓練によって智力も運動能力も大きく変えることはできますが、そこに天性の個体差の壁というものがあることは誰にも否定できません。
人間と他の動物との差、人間という生き物それぞれの個体差を貴らしたのは、もしかしたら神の意思かもしれないですが、音楽を奏でる楽器に個体差を付与したのは人間です。
ヴァイオリンを作るか、ピアノを作るか、フルートを作るかを決めるのは、当該の楽器を製作する楽器製作者の意思です。
ヴァイオリンを作る、ピアノを作るといっても、どんな音のする、どのような音楽表現力を持つ楽器を作るのかというのは製作者の目的意識と製作能力によるのです。
目的意識とか製作能力というのは、極めて不可解かつ説明困難な人体現象です。
何故ヴァイオリン属なる弦楽器がわれわれ音楽愛好家の関心を呼ぶかといいまと、第一にはその価格-そして、その価格の安定性です。
ストラディヴァリウスとかグァルネリとかいう銘器の大部分には、その楽器を蒐集・保管した貴族、富豪、趣味人や、演奏に使用した音楽家の名前がつけられています。
往年のコレクターや名演奏家の名前以外にも、ヴァイオリンの銘器にはさまざまな特徴的な名前が付けられています。
これらの銘器の所在は一流の楽器店主なら常時把握していて、所有者が手放す瞬間を虎視耽々と狙っています。
有名な楽器はその履歴とともに立派な図鑑に収められており、贋作を掴まされる惧れまずありません。
ただし近年、銘器の価格は異常という言葉以外では表現できないほどの急騰ぶりを見せています。
神田侑晃さんの2002年の著書には、ストラディヴァリウスとデルジェスの価格は2億円前後とされていますが、いまでは10億円以上すると言われています。
ヴァイオリンという楽器の価値を決めるのは、製作者によって楽器本体に埋めこまれた音楽表現能力です。
ヴァイオリンのなかの銘器は、古今の芸術家の作品と同じように、限られた歴史上の才能によってこの世に産み出されたものです。
作品を産み出す才能自体が、人類の歴史上、限定されたものと考えられます。
ヴァイオンについて、常に古今の芸術作品と、その創作の秘密に想いを致さなければ、市場で取引きされている途轍もない価格について理解することはできません。
さらに厄介なのは、この芸術作品-実は音楽を演奏する道具に過ぎないということなのです。
プロローグ~二大銘器は何故高価なのか/第1章 ヴァイオリンの価値とは何か/第2章 ヴァイオリンという楽器Ⅰ~その起源と完成度の高さ/第3章 ヴァイオリンという楽器Ⅱ~ヴァイオリンを構成する素材と神秘/第4章 アントニオ・ストラディヴァリの生涯と作品/第5章 グァルネリ・デル・ジェスの生涯と作品/第6章 閑話休題/第7章 コレクター抄伝/第8章 銘器と事故/最終章 封印された神技/エピローグ