PR
Keyword Search
Calendar
Comments
装丁は書物を形づくることやその方法をいい、一般的には本を綴じて表紙などをつける作業を指します。
装幀と書かれることもありますが、正しくは装い訂める=よそおいさだめる意味の装訂のこととも言われます。
書画の表具を意味する幀が好まれ、装訂の略用表記の装丁とともに定着しています。
”装丁、あれこれ”(2018年1月 彩流社刊 桂川 潤著)を読みました。
本に生命を吹き込む、装丁という仕事にまつわるあれこれを紹介しています。
広義には、カバー、表紙、見返し、扉、帯、外箱のある本は外箱のデザイン、また製本材料の選択までを含めた、造本の一連の工程またはその意匠を意味します。
装幀を担当する専門家のことを装幀家、装丁家と呼び、装幀と本文のデザインなどを含めた図書設計を行う専門家のことを図書設計家と括る場合もあります。
桂川 潤さんは1958年東京生まれで、立教大学大学院文学研究科前期課程修了の装丁家・イラストレーターです。
キリスト教系NGOや研究所の勤務を経て、1995年からブックデザインの仕事をはじめ、2010年に第44回造本装幀コンクール日本書籍出版協会理事長賞を受賞しました。
本書は”出版ニュース”の連載コラム”装丁”に掲載された2012~2017年分をまとめたものです。
明治までは、造本作業は単に製本と呼ばれ、明治末年頃からの出版文化の発展とともに、装い釘じるという意味の装釘が使われ始めました。
装釘は、装い釘うつを意味する熟語として、中国古代より存在した熟語です。
1920年代後半からは、釘との連想を避けて装幀と表記することが多くなりました。
1946年に発表された当用漢字表には幀・釘ともに入っていなかったため、1956年の国語審議会報告では装幀、装釘には装丁が置き換えられることとされあした。
しかし、装幀や装釘も一般に用いられています。
装幀とブックデザインという言葉は、同じ意味で使われることもそうでない場合もあります。
ブックデザイン、カバーデザイン、カバーイラストレションと分けて表記されている場合は、ブックデザインはカバーを除いた書籍本体のデザインのみを意味します。
著者は、装丁家と名乗っても、まず何の仕事か理解してもらえないといいます。
ブックデザイナーと言いかえると少しは通じるけれど、今度は、本のデザインって、いったい何をデザインするんですか、と訊ねられるそうです。
奥さまは、ご主人がこの仕事をするまで装丁という職能を知らなかったそうです。
本の顔と姿かたちを誰が考え出すのかと訊ねると、そんなの自然に出来ると思っていたと返されて、絶句したとのことです。
言われてみると、いっさいの作為を感じさせず、自ずから生じたように映る装丁こそ、理想の装丁かも知れません。
編集者が装丁した本には、通常、装丁者名が記されません。
編集者装丁はテクストに寄り添う装丁であり、そのゆかしさに独特の魅力がありました。
しかし、時代とともに書物の量産化・商品化が進み、装丁にも広告デザイン的なテクニックや鋭い批評性が求められるようになりました。
さらに、多忙を極める編集者からは、装丁に携わる余裕が奪われました。
結果、装丁家が編集作業から独立した書物の演出家として脚光を浴び、百花線乱のブックデザインが奸を競うようになりました。
多機能端末が登場した2010年以降、書籍電子化の波を受けて、紙の本と装丁は消えてしまうのかと、あちこちで訊ねられたそうです。
しかし5年を経た今(原稿執筆時点)、出版状況はいっそう厳しいけれど、紙の本はどっこい生きています。
魅力的な本屋やブックカフェが話題を呼び、ブックイベントが各地で催され、本と装丁の面白さに惹かれる人が以前より増えたように感じるそうです。
世の流れは未だ油断なりませんが、存外一本調子ではなさそうだといいます。
装丁論と出版文化論を通じて、本をめぐる真摯なる問いである、理想の装丁とは何かを徹底的に考えようとしています。
「理想の装丁」装丁備忘録2012-2017
2012年 電子本は、これから?/本から離れようつたってそうはいかない/《ソウテイ》あれこれ/なぜリアル書店で本を買うのか/やはり本屋が面白い/3・11後のデザインの可能性/「ゆるい」装丁の時代/日本の電子出版を創ってきた男たち/本と電子書籍の定義は?/電子書籍の「表と裏」/”モノ”から。コト”へ、物”から語り”へ/PDF写真集の試み
2013年 紙の本ならではの装丁/物である本の儚さ/二枚腰のしたたかさか求められる装丁家/「本の気配」を感じるということ/「本の未来」について/仕事の域を超えてゲラ読みに熱中した一冊/映画『世界一美しい本を作る男』を観て/坂川事務所の集大成
2014年 電子カレンダーと手帳/本を舞台に真剣勝負/韓国の書籍装頓と装禎家/装丁はモノから切り離せない/制約を楽しむ/世の流れは「手書き」へ/「偶然の装丁家」/リアルな本の存在意義/菊地信義の批評性/鈴木成一の仕事/紙の本と電子本を知り尽くした山田英春/二冊の写真集
2015年 変幻自在の「和田ランド」/祖父江版『心』/『工作舎物語』/デザイナーの仕事/中小出版、当面はPDFで電子出版?/韓国のブックデザイン/ミシマ社のブックデザインに注目/『書影の森』(みずのわ出版)について/一箱古本市に参加して/エンブレム問題とブックデザイン/坂川栄治流/小さな出版社のもっとおもしろい本
2016年 年末進行のアルゴリズム/本の顔は背である/ブックデザイン派の装丁/ミシマ社と春風社/昨今のラフ、カンプ事情/西日本の個性的な書店・版元巡り/広告出身のブックデザイナー/BBOは地域の祭りに成長/俳句と装丁/本とは何か/「鈴木…久美さん。おーっ!」/鳥海鯛の書体
2017年 花森安治の装釘集成/加藤典洋さんの三冊/身体としての書物/「世界のブックデザイン」展から/紙の本は美しくなければ…/装丁のいい本は中身もいい/佐藤正午本の装丁/韓国の本屋事情/タラブックスの本づくり/たかが帯、されど帯/装丁家ふたりのエッセイ/17年のキーワードは「地方」
〈予感〉を包み込む
私が装丁家になった理由/現実と異界をつなぐ扉/予感を包み込む
あとがき/初出一覧/人名索引/事項索引