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cozycoach @ Re:徳川忠長 兄家光の苦悩、将軍家の悲劇(感想)(11/20) いつも興味深い書物のまとめ・ご意見など…
2018.08.04
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カテゴリ: カテゴリ未分類

 植物は多種多様な有機化合物を生合成しています。


 薬用植物の主たる成分は、


 デンプン、イヌリン、脂肪油、タンパク質、蝋、粘液、ゴム樹脂、精油、バルサム樹脂、トリテルペン、ステロイド、サポニン、カウチュック、タンニン、リグナン、リグニン、配糖体、アルカロイド、カルシウム塩


などです。


 ”植物はなぜ薬を作るのか”(2017年2月 文藝春秋社刊 斎藤 和季著)を読みました。


 動かないという選択をした植物は生き残り戦略としてどのようにして、ポリフェノール、解熱鎮痛薬、天然甘味料、抗がん薬等の薬を作ったのか、最先端の研究成果で説きあかします。


 人類はおそらく文字として歴史に残されていないくらいの大昔から、薬用植物を用いてきたと考えられています。


 モルヒネやキニーネ、ヤナギの成分から作ったアスピリン、生薬を用いる漢方薬など、人間は古代から植物の作る薬を使ってきました。


 しかし、つい最近まで、なぜ、どのように植物が薬を作るのかは解明されていませんでした。

 根源的なメカニズムがわかってきたのは、2000年代に入って植物のゲノム配列が決定されてからのことです。


 斎藤和季さんは1977年東京大学薬学部製薬化学科卒業、同大学院薬学系研究科に進学、1982年薬学博士号取得しました。


 1985年千葉大学薬学部助手、1987年ベルギー・ゲント大学研究員、現在、千葉大学大学院薬学研究院・教授、薬学研究院長・薬学部長を務めています。


 生薬学、薬用植物や植物成分のゲノム機能科学、バイオテクノロジーなどの研究と教育に携わり、日本生薬学会賞、日本植物生理学会賞、日本薬学会賞を受賞しています。


 地球の人口は、21世紀中に100億人に達するだろうと予想されています。


 薬となる植物成分に限らず、光合成に依拠した植物の自立的な生産性は、食料、燃料、工業原料を作り出し、さらに、宇宙船地球号に同乗している人類の生存を支えています。


 人類は命の源である植物のことをもっと良く理解し、上手に利用しながら、人類と植物の関係も新しい段階に進まなければならない時代に来ています。


 植物は私たち人間に優しくするために、私たちの体に良いものを作っているわけでは決してありません。


 植物は、厳しい進化の歴史の中で、極めて巧みに設計された精密化学工場によって、多様な化学成分を作るという機能を発達させて、進化の歴史の厳粛な審判に耐えてきました。


 私たち人間は少しだけ借りて使わせてもらっているに過ぎません。


 本書は、著者が長い間釈然としない思いのままでいた違和感を題材にした、いわば、もの言わぬ植物からの伝言メッセージです。


 植物はなぜ、どのように、このような多様な化学成分を作るのか、という根源的な問題を、植物の側から捉えることに重きを置いたということです。

 著者は、植物化学成分の生合成の解明の研究からスタートし、その後、植物での遺伝子組換えや、バイオテクノロジーに応用する研究に携わりました。


 さらに、2000年以降ゲノム時代に突入してからは、メタボロミクスとゲノム機能科学研究に研究領域を広げました。


 この間、一貫して、薬用植物などの多様な植物で作られる多様な植物成分の不思議さに魅せられていましたといいます。


 なぜ、植物はかくも多様な化学成分を作るのでしょう?


 どのようにして、多様な成分を作るのでしょう?


 これを作る酵素やその遺伝子は、どのように進化してきたのでしょう?


 このように特異的な化学成分=二次代謝産物は、植物にとってどのような役割や意義があるのでしょう?


 という根源的な問題に取り憑かれているそうです。


 同時に、おそらく人類の誕生とともに、このように多様な植物化学成分を薬として使い、さらに常に新薬を開発しつつある、人類の知恵の素晴らしさにも驚かされています。


 さらに、おそらく本来的に植物成分を介して相互作用している、植物と人類を含めた生命同士の関わりあいも、大きな関心事です。


 第一章では、東西での医療に関する考え方の違いも交えて、植物からの薬につて考えます。


 第二章では、薬になった植物成分について、身近な例を挙げながら解説します。


 第三章では、なぜ植物は薬を作るのかという問題について、いくつかの実例を挙げながら考えます。


 第四章では、どのように植物は薬の元になる物質を作るのか、その仕組みについて考察します。


 第五章では、このような薬になる成分を作る仕組みが、どのように進化したかについて考えます。


 第六章では、その仕組みを応用したバイオテクノロジーによる植物成分の人工的な生産について見ていきます。

 最後に、第七章では、人類はどのように植物と相互共存していくべきかについて考え、未来の展望と期待を述べています。


第一章 植物から作る薬
■古代から人類は植物が作る薬を使ってきた/チンパンジーも薬を使っている/薬の発見はセレンディピティーによる■自然からの薬「生薬」/「生薬」自然にもっとも近い薬/「生薬学」は薬学の源泉/「本草学」は薬草についての知識■薬はどのように天然物から開発されたのか?/中国最古の薬物書『神農本草経』/近代薬学はモルヒネの単離から始まった/東西の薬に対する考え方の違い/医薬学における要素還元主義/東洋における全体システム主義/医療における西洋と東洋の融合/現在では医師の9割が漢方を使っている

第二章 薬になった植物成分
■ケシを原料とする鎮痛薬モルヒネ/ケシ坊主から採れるアヘン/モルヒネの鎮痛作用/なぜ、ケシはモルヒネを作るのか?■解熱鎮痛薬アスピリンはヤナギの成分から/ヤナギの成分サリシン/アスピリンの作用を解明してノーベル賞受賞/植物の全身に危険を知らせる■タバコやコーヒーなどの嗜好品における植物成分/ニコチンは猛毒/ニコチンで昆虫や小動物を撃退/お茶やコーヒーに含まれるカフェイン/アレロパシー■天然甘昧料となるグリチルリチンを含む甘草/甘草は漢方で最も使われている生薬/甘草の主成分グリチルリチンはサポニンの一種/グリチルリチンの植物における役割■植物からの万能薬-ポリフェノール/ポリフェノールは代表的な植物成分/抗酸化作用とはどういうもの?/薬になったポリフェノール/ポリフェノールの植物における役割/乾燥と紫外線を防ぐフラボノイドとアントシアニン/タンニンの渋み戦略/植物の生長をコントロールするフラボノイド■植物から得られる抗がん薬/臨床的に用いられている四つの抗がん薬/ニチニチソウが作るピンカアルカロイド/タイヘイヨウイチイから発見されたパクリタキセル(タキソール)/キジュのエキスから作るカンプトテシン/ポドフィルム属植物からのポドフィロトキシン/毒性のある成分を作る植物への疑問

第三章 植物はなぜ薬を作るのか?
■植物の生存戦略が多様な代謝産物をもたらした/「自然の恵み、植物からの贈り物」は大きな誤解?/動けない植物の巧みな生存戦略/生命が持つべき属性/その1 同化代謝戦略-太陽エネルギーと土からの栄養による光合成/その2 化学防御戦略-様々なストレスに対する化学兵器による防御/植物の作る防御物質が薬になる理由/敵を寄せつけない強い生物活性 アトロピン ベルベリン グルコシノレート/どんな敵にも対応できる豊富なバリエーション/敵は虫や病原菌ばかりではない/葉の形や向きを変えてストレスを避けることも/化学成分でもストレス撃退/栄養が足りなくなったときも植物成分が役立つ/その3 繁殖戦略-化学成分で相手を引き寄せる/夜、放たれる甘い香り■植物は何種類の成分を作るのか?/植物成分は何種類あるのか?/地球上にある植物種の数/一種の植物種に含まれるメタボローム/地球上の植物成分の数

第四章 植物はどのように薬になる物質を作るのか?■植物は自然を汚さない精密化学工場/個人的な経験から/地球を汚さない緑の精密化学工場■一次代謝と二次代謝(特異的代謝)/一次代謝はどの生物種にも共通している/最低限生きるための一次代謝産物/よりよく生きるための二次(特異的)代謝産物/二次(特異的)代謝は何のためにある?■植物の二次代謝経路から作られる成分とは/共通の前駆体で分類される/主な二次代謝経路は五つ ①ポリケチド経路-便秘に効く大黄やアロエの成分はこの経路から ②シキミ酸経路-スパイスや心地よい香りの芳香成分を作る ③イソプレノイド経路-柑橘類やハッカ、樟脳、甘草、ジギタリスなどの多様な植物成分を生み出す ④アミノ酸経路-モルヒネ、ニコチンなどアルカロイドを生成 ⑤複合経路・抗酸化性フラボノイドやキニーネ、抗がん薬の成分を作る

第五章 植物の二次代謝と進化のしくみ■植物はなぜ、自らが作る毒に耐えられるのか?/毒性成分に対する自己耐性のしくみ/毒を液胞に隔離してしまう/細胞の外や隣の蓄積空洞に吐き出す/標的タンパク質を変異させる/カンプトデシンを作る植物の自己耐性-新しい仮説/酵素に突然変異が?/突然変異は人間の耐性がん細胞にも起きていた/カンプトデシンを作る植物の中で同じような変異が/進化の途中にある植物種/抗がん薬の耐性を予知できる?■新たに分かってきた進化のしくみ/アミノ酸代謝から分岐してアルカロイドを作る/ルピナスのスイート変種とピター変種/ビター変種だけに発現する酵素遺伝子/シダ植物でも同じ進化が起こっていた/生合成遺伝子群がクラスターとしてゲノム上に集まる/なぜクラスターを作っているのか?■進化における植物成分と摂食動物の相互協力/トウガラシのカプサイシンと鳥の奇妙な協力関係/ジャガイモの毒とアンデスのピクーニャの関係

第六章 バイオテクノロジーと植物成分
■植物のゲノム構成/植物細胞の中では/核染色体ゲノム/葉緑体とミトコンドリアのゲノム■ゲノミクスからの発展-すべてを見るオミクス/「オーム」と「オミクス」のもたらした革新的進歩/オミクスによって遺伝子機能を決める/メタボロミクスによってわかること■植物の遺伝子組換えとゲノム編集/遺伝子組換えとそのインパクト/遺伝子機能を決める逆遺伝学/私たちの生活と遺伝子組換え植物/青いバラ-夢はかなう/パープル・トマトで長生きできる?/今、話題のゲノム編集とは?■遺伝子を使って微生物で植物成分を作る/抗マラリア薬アルテミシニンを作る/甘草の甘味成分グリチルリチンを作る

第七章 人類は植物とどのように相互共存していくべきか?
地球を汚さない精密化学工場/生物多様性とゲノム多様性/生物多様性ホットスポット/新薬の6割は天然物からのヒント/遺伝資源の持続的な利用とCOP10/宇宙船地球号を支える植物-未来に向けて

参考文献一覧






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Last updated  2018.08.04 08:34:53
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