真理を求めて

真理を求めて

2004.01.30
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
引き続き、「論座」の森本さんと田岡さんの言葉を比較してみたい。これは、自衛隊の派遣前に語られた言葉なので、今の状況を予想するような部分もある。今後のイラクの状況を語る次の言葉は対照的で面白い。

森本:考え得る今後のシナリオは二つあると思うんです。一つは、数ヶ月に渡る掃討作戦の結果、テロ勢力が少しずつ衰退し、治安がゆっくりと回復され、アメリカがほぼ考えていたとおりの統治システムが6月までに出来るという、好ましいシナリオです。もう一つは、域外からテロ勢力が入ってきたり、あるいはイラクの中で同調する勢力が増えて、掃討作戦がなかなか功を奏しないと言う状態が続き、犠牲が増えるというシナリオです。日本は、前者のシナリオを前提に、イラクの復興人道支援に協力するため、地域、活動内容を決めて派遣しようとしているわけです。しかし、もし後者のシナリオが動くことになった場合は、どこかで自衛隊の活動の見直しをやらないといけない。いくら任務を与えられているからと言って、状況が変化すれば決断が変わるのは当然であって、派遣計画そのものをあまりかたくなに考える必要はなく、復興支援が出来るような状態ではないと言う客観情勢が出来たら、その時は派遣活動や内容を見直すというプロセスがなければいけないと思います。

考えられ得る情勢を想定して、そのそれぞれの場合に整合性のある行動は何かと言うことを検討している。実に学者らしい態度だと思う。派遣を取りやめる場合も想定しているので、実際に派遣されたという事実から考えると、森本さんの評価では、政府は、前者のシナリオをとったと考えることが出来るのだろうか。僕は、政府は始めに結論ありきという姿勢で、派遣という結論を出すために論理を構築したのであって、現状を判断して結論を出したのではないと思っている。だから、政府にとって、前者のシナリオは願望であって、客観的な現状認識をしたのではないと思う。

実際には前者のようになると言う予想は、きわめて確率が低いのではないだろうかとも思う。そこのところを森本さんは語らない。あくまでも可能性の一つとしてあげるだけだ。もちろんそうならない場合もあげて、自衛隊を送らない可能性もあると語るのは、学者としての良心の表れだけれど、あくまでも同等の可能性のように語るのは、やはり立場が見えてくる言い方ではないかと思う。

これに比べて田岡さんの言い方は実に明確だ。ズバリと結論づけている。

田岡:イラク特措法の期間は「4年」だが、「さらに4年延長できる」とあるから、私は防衛庁の人に「8年の長期戦を見越したのか。先が見えていてけっこうだ」と言ったんだけれども。それぐらい長期になって、結局はうまくいかないだろう。対ゲリラ戦では、一時制圧に成功したかと見える時期があって、手をゆるめると再燃、結局撤退という筋書きが多い。ベトナムでは地上部隊派遣の4年後に削減、「ベトナム化」の話が出た。今回は開戦後半年で、もう「イラク化」と削減の話が出る。今年11月に大統領選挙があるからね。アメリカでは「exit strategy」を論じていますが、これは日本語の「逃げ支度」で、これから自衛隊が行くというのは計画倒産で商品を運び出そうとしてる会社に新規融資をするような形だ。

最後のたとえが実に面白い。石油でもうけようと思ったアメリカが、その思惑がどうもうまくいかないので、損にならないうちに金目のものだけを取っていって、尻ぬぐいをさせに自衛隊を呼んだという感じだろうか。弱みのある日本は、それを拒否できずに、損することが分かっていながら「新規融資」という自衛隊派遣をしなければならなくなっている。実にイメージ豊かなたとえだなと思う。

ここまでの事実は田岡さんが解釈するとおりだ。問題はこの先だろう。森本さんが語る可能性の一つとして、占領統治が6月までにうまくいき、イラクの人に歓迎されるような自衛隊の活動が行われれば、損をしても将来的な得を取ることにつながる可能性もまだ残されている。しかし、それは戦争状態が終わって、占領統治システムができあがり、それがうまくいくという前提があってのことだ。サマワ以外でのすさまじい戦闘のニュースを見ると、これが実現される可能性に疑問を抱かずにはいられない。

むしろ、田岡さんが語るように、アメリカはこれ以上の損はたまらないと言うことで逃げ出す用意をしているのではないかという感じもしてくる。「ベトナム化」と同じ「イラク化」が進行しているのではないかという気もしてくる。今の状況は、どちらの予想が当たったかはまだはっきりしていない。これからの情勢がどうなるかを見守っていかなければならないが、僕は田岡さんの予想の方が、やはり現実を整合的に受け止めていると感じるな。



森本:イラク特措法の法律上の規定としては、通常国会が始まる前に基本計画が了承され、自衛隊の一部が防衛庁長官が作る実施要項に基づいて派遣されたあと、国会で承認される必要がある。もしその承認が得られなかった場合には自衛隊を撤収するわけです。それだけではとどまらず、内閣不信任案が提出され、政権が崩壊する可能性もある。自衛隊を出しておいて撤収するという国際的な恥をかくだけでなく、国内政治上も非常に大きな危機を迎えてしまう。どの部隊を出すかと言うより、むしろ問題はタイミングです。本来は国会で承認を得て自衛隊を出すのが原則なのですが、その時期が日米関係に大きな影響を与えるようなタイミングかどうかを見極めないといけない。その見極めこそが、政治的判断の最も重要なところです。先に行われた総選挙で民主党が議席を伸ばし、その後の経緯にかんがみれば、きちっと通常国会で議論をしてから部隊を送り、そのことについてアメリカにきちんと説明をしなければならない。手続きを踏んでから自衛隊を出すのでないと、払うべき政治的リスクがあまりにも大きすぎると思います。

この意見には、田岡さんも同意見だと言うことを語っている。自衛隊を出す以上は、撤退することは出来ないと言うことだ。成功のシナリオのうちに終わらせないとならないということで、始めに結論ありきという行動だから、これはものすごく難しいわけだ。

しかし、今の状況を見ると、森本さんが危惧した状況になりつつあるのではないだろうか。ちゃんとした議論もなく、まず派遣ありきと言うことで、現状の分析も甘い中で、ひょっとしたら最悪のタイミングで派遣してしまったのではないだろうか。いつ帰れるかも分からない中で、自衛隊はイラクへ行ってしまったのではないだろうか。見通しを間違えたという風に見える中では、自衛隊は帰ってくることが出来ない。何かのミスが生じたとき、そのミスを取り返すまでは自衛隊がイラクに居続けなければならなくなるのではないか。かつての戦争の泥沼の歴史を繰り返すのではないか。

この問題と同じように始めに結論ありきという論理の破綻と、行動の矛盾を表すニュースを見つけたので、これだけ書き足しておこう。

「<イラク問題>大量破壊兵器捜索あきらめない 米報道官
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040127-00001034-mai-int

ここには、「また報道官は、フセイン元イラク大統領に大量破壊兵器保有の「意図」と「能力」があったことは備蓄の有無にかかわらず明らかだと主張し、「フセイン政権を除去しようというブッシュ大統領の決定は正しかった」という趣旨の発言を再三繰り返した。」という言葉があるが、これは事実が見つからなかったので、事実の主張の代わりに「意図」と「能力」という観念的な存在に論点をすり替えたと言うことだろう。結論を覆すわけにはいかないので、その理由の方をどんどん変えて行かざるを得ないわけだ。この報道官は「背理法」という論理の使い方が出来ないことを表している。矛盾が見つかったら、論理的には結論を否定しなければならないんだ。大量破壊兵器があると言うことで差し迫った危機があると結論したのだから、大量破壊兵器がなかったのなら、差し迫った危機があるというのを否定しなければならない。差し迫った危機はなかったのだ。戦争の必然性はなかったのだ。それは、アメリカが恣意的に、やりたかったからやった戦争だったのだ。

「カブールで自爆テロ、カナダ軍兵士ら17人死傷
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040127-00000211-yom-int

この記事を読むと、アフガニスタンでは「アフガニスタン化」という「ベトナム化」が起こっているのかなと感じたりする。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2004.01.30 09:50:12
コメント(2) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

コメント新着

真の伯父/じじい50 @ Re:自民党憲法草案批判 5 憲法34条のロジック(02/03) 現行憲法も自民草案も「抑留」に対する歯…
秀0430 @ Re[1]:自民党憲法草案批判 5 憲法34条のロジック(02/03) 穴沢ジョージさん お久しぶりです。コメ…
穴沢ジョージ @ Re:自民党憲法草案批判 5 憲法34条のロジック(02/03) ごぶさたです。 そもそも現行の憲法の下で…
秀0430 @ Re[1]:構造としての学校の問題(10/20) ジョンリーフッカーさん 学校に警察権力…

フリーページ


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: