趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

December 23, 2007
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カテゴリ: 漢詩・漢文
*平声による押韻と仄声による押韻があり、換韻があるようなので、七絶三首連作と考え、分けて示す。
江樓送太康郭主簿赴嶺南 劉長卿
  其一
對酒憐君安可論、當官愛士如平原。
料錢用盡卻為謗、食客空多誰報恩。
  其二
萬里孤舟向南越、蒼梧雲中暮帆滅。
樹色應無江北秋、天涯尚見淮陽月。
  其三

青山落日那堪望、誰見思君江上樓。
【韻字】論・原・恩(平声、元韻)。越・滅・月(入声、月韻)。流・州・楼(平声、尤韻)。
【訓読文】
江楼にて太康郭主簿の嶺南に赴くを送る。
酒に対して君を憐ぶ安んぞ論ずべけんや、官に当たりて士を愛すること平原のごとし。
料銭用い尽くして卻つて為に謗られ、食客空しく多くして誰か恩に報いん。
万里孤舟南越に向かひ、蒼梧雲中暮帆滅す。
樹色応に江北の秋無かるべし、天涯尚ほ淮陽の月を見る。
駅路南のかた桂水の流れに随はば、猿声は絶えず炎州に到らん。
青山落日那ぞ望むに堪えん、誰か君を江上の楼に思ふを見ん。
【注】

○太康郭主簿 未詳。「太康」は、河南省太康県。「主簿」は、記録・帳簿を管理する下級役人。
○嶺南 嶺外。嶺表。五嶺以南の地。広東・広西省およびベトナム人民共和国北部一帯。
酒に対して君を憐ぶ安んぞ論ずべけんや、當官に当たりて士を愛すること
○平原 平原君。戦国時代趙の武霊王の子、趙勝。平原(山東省徳州市の南)に封じられ、食客数千人を養った。(?……前二五一年)
○料銭 俸禄。

○卻 あべこべに。
○為謗 悪口を言われる。
○食客 中国の戦国時代に、特殊技能・才能があるので客分として召し抱えられていた者。
空しく多くして誰か恩に報いん。
○万里 非常に遠い道のり。
○孤舟 ただ一艘の舟。
○南越 秦末漢初にあった国。今の広東・広西省壮族自治区にあった。
○蒼梧 今の湖南省寧遠県の山。かつて帝舜が南方に視察に行きここで没したという。
○応A きっとAにちがいない。
○無江北秋 南方では長江以北と異なり、紅葉などが無いということ。
○天涯 空の果て。
○淮陽 江蘇省淮陽県。
○駅路 街道。宿駅から宿駅に通じる道。
○桂水 広西省漓江の異名。
○猿声 サルの鳴き声。さびしいものとされる。
○炎州 「蛮州」は、今の貴州開陽県。
○青山 青く見える山。
○落日 沈む夕日。さびしいものとされる。
○那 どうして。反語表現。
○江上 川のほとり。
【訳】
川べりの高殿で太康の郭主簿が嶺南に赴任するのを見送る。
酒酌み交わし赴任する君の身のうえ言葉にはとても尽くせぬわが思い、官に当たりてすぐれたる人材好むそのさまは平原君にことならず。
俸給すでに尽き果ててかえって人にそしられて、食客の数多かれど恩に報いる者も無し。
遠くはなれた南越の地に小舟こぎいだし、蒼梧の空の雲のはて夕暮れ舟の帆は消える。
樹木の色も江北の秋とことなり南方の木々に紅葉無かるべし、空の果てには淮陽の月の姿を見るばかり。
街道ずっと桂水の流れに沿って南下せば、猿の無き声絶えぬうち炎熱の地に到るらん。
青き山の端沈み行く夕陽を一人眺むれば友を失うさびしさに堪えざるものは我が心、あたりに人の影もなく川のほとりの高楼に君を送るを誰が知ろう。





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Last updated  December 23, 2007 09:49:20 AM
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