趣味の漢詩と日本文学

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February 22, 2008
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カテゴリ: 漢詩・漢文
登呉古城歌 劉長卿
登古城兮思古人、感賢達兮同埃塵。
望平原兮寄遠目、歎姑蘇兮聚麋鹿。
黄池高會事未終、滄海横流人蕩覆。
伍員殺身誰不冤、竟看墓樹如所言。
越王嘗膽安可敵、遠取石田何所益。
一朝空謝會稽人、萬古猶傷甬東客。
黍離離兮城坡陀、牛羊踐兮牧豎歌。
野無人兮秋草緑、園為墟兮古木多。

荒阡斷兮誰重過、孤舟逝兮愁若何。
天寒日暮江楓落、葉去辭風水自波。
【韻字】人・塵(平声、真韻)。鹿・覆(入声、屋韻)。冤・言(平声、元韻)。敵・益・客(陌韻)。陀・歌・多・柯・禾・過・何・波(平声、歌韻)。
【訓読文】
呉の古城に登る歌 
古城に登り古人を思ふ、賢達を感じ埃塵を同じうす。
平原を望み遠目を寄せ、姑蘇を嘆き麋鹿を聚む。
黄池高会事未だ終らざるに、滄海横流して人蕩覆す。
伍員身を殺すに誰か冤せざる、竟に墓樹を看れば言ふ所のごとし。
越王胆を嘗めて安んぞ敵すべけんや、遠く石田を取るに何の益する所ぞ。
一朝空しく謝す会稽の人、万古猶ほ傷む甬東の客。

野に人無くして秋草緑なり、園は墟と為りて古木多し。
白楊蕭蕭として故柯を悲しび、黄雀啾啾として晩禾を争ふ。
荒阡断えて誰か重ねて過らん、孤舟逝きて愁ひを若何んせん。
天寒く日暮れて江楓落ち、葉は去り風に辞して水自から波あり。
【注】

○黄池 河南省封丘県の西南に在り。『春秋左氏伝』《哀公十三年》「公、単平公・晋の定公・呉の夫差に黄池に会す」。
○伍員 春秋時代、楚の伍子胥。名は員。父兄が楚の平王に殺されたため、敵対する呉をが楚を討つのを助けた。のちに、賄賂を受けたとして夫差に死を命じられ、「自分の死後に首を城門にかけよ。この目で越軍が攻め込んできて呉を滅ぼすのを見届けてやる」という言葉を残して死んだ。
○越王嘗胆 呉王夫差に敗れた越王句践が、屈辱を忘れぬよう、にがい胆をなめて、苦労のすえ、恨みを晴らしたこと。
○石田 石ころだらけの畑。役に立たない物・やせた土地のたとえ。『左氏伝』《哀公十一年》「志を斉に得るは、猶ほ石田を獲るがごとくなり。之を用ゐる所無し」。
○甬東 浙江省寧波市。
○離離 穀物がよく実っているさま。『詩経』《王風・黍離》「彼の黍離離たり」。
○坡陀 起伏があり、平でないさま。
○牧豎 牛飼い・羊飼いをしている子ども。牧童。
○白楊 ハコヤナギ。『古今注』巻下「白楊は葉円らかにして、青楊は葉長し」。『文選』《古詩十九首》「白楊何ぞ蕭々たる、松柏広路を夾めり」。又「白楊悲風多く、蕭々として人を愁殺す」。
○黄雀 スズメの一種。雄は体の上体浅黄にして緑を帯び、雌は上体かすかに黄にして褐色の条紋あり。
○啾啾 擬声語。
○禾 粟や稲の穂。
○江楓 川のほとりのカツラ。楓は中国に自生するマンサク科の落葉高木で、葉は三裂し、秋に紅葉し、果実に翼あり。
【訳】
呉の古城に登って詠んだ歌。 
古びた城に登りきていにしへ人を思いやる、同じ土をば踏みしめて賢人達に感動す。
平原はるかに望み見て、姑蘇を嘆くかシカの群れ。
黄池のほとりの高尚な宴も未だ終らぬに、滄海東に流れ去り人は酒食におぼれゆく。
伍員わが身を殺せしは誰か冤せざる、墓所の樹木に目をやれば言ったとおりに首がある。
胆を嘗めたる越王に敵するものもあらざらん、遠く石田得るとても何の役にもたつまいに。
会稽の人に別れ告げ、昔しのぶ甬東の客。
城の周辺起伏あり黍は豊に生いしげり、牛羊あゆみ牛飼いは牛追い歌をうたいおり。
人無き野には秋の草、庭園いまや廃墟にて古木ばかり今もあり。
白楊風に葉を鳴らし枯れたる枝を悲しむか、黄雀のみがチュンチュンと稲穂あらそい騒々し。
草生い茂り荒れはてて誰も跡とう人もなく、小舟いっそう去りゆきてこの寂しさをいかにせん。
おおぞら寒く日は暮れて、川辺の楓葉を落とし、風に吹かれて枝を去り、さざ波の上に舞いおりる。





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Last updated  March 1, 2008 08:34:40 PM
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