趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

January 22, 2008
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カテゴリ: 漢詩・漢文
小鳥篇上裴尹 劉長卿
藩籬小鳥何甚微、翩翩日夕空此飛。
只縁六▲(「隔」のみぎ+羽。カク)不自致、長似孤雲無所依。
西城黯黯斜暉落、衆鳥紛紛皆有託。
獨立雖輕燕雀群、孤飛遠懼鷹■(「壇」のみぎ+鳥。セン)搏。
自憐天上青雲路、弔影徘徊獨愁暮。
銜花縱有報恩時、擇木誰容托身處。
歳月蹉●(足+它。タ)飛不進、羽毛憔悴何人問。
遶樹空隨鳥鵲驚、巣林只有鷦鷯分。

少年挾彈遙相猜、遂使驚飛往復迴。
不辭奮翼向君去、唯怕金丸隨後來。
【韻字】微・飛・依(平声、微韻)。落・託・搏(入声、薬韻)。路・暮・(去声、遇韻)・処(去声・御韻)。(去声、遇韻)。進(去声・震韻)・問・分(去声・問韻)。木・宿(入声・屋韻)。猜・迴・来(平声、灰韻)。
【訓読文】
小鳥篇。裴尹に上(たてまつ)る。
藩籬小鳥何ぞ甚だ微なる、翩翩として日夕空しく此に飛ぶ。
只六▲(「隔」のみぎ+羽。カク)に縁つて自ら致さず、長く孤雲に似て依る所無し。
西城黯黯として斜暉落ち、衆鳥紛紛として皆託有り。
独立燕雀の群を軽んずと雖も、孤飛遠く鷹■(「壇」のみぎ+鳥。セン)の搏つを懼る。
自ら憐ぶ天上青雲の路、影を弔ひ徘徊す独り愁ふる暮べ。
花を銜み縦ひ恩に報ゆる時有りとも、木を択ぶに誰か容さん身を托する処。

樹を遶りて空しく随ふ鳥鵲の驚くに、林に巣くひて只だ有り鷦鷯の分。
主人庭中喬木を蔭とし、此の清陰を愛して棲宿せんと欲す。
少年弾を挾みて遥かに相猜み、遂に驚飛して往復に回らしむ。
辞せず翼を奮つて君に向つて去るを、唯だ怕る金丸の後に随つて来るを。
【注】天宝のはじめ、洛陽における作。

○藩籬 かきね。
○翩翩 飛翔するようす。
○日夕 朝晩。
○只 ただひたすら。
○六▲(「隔」のみぎ+羽。カク) 鳥の丈夫なつばさ。
○致 「官を辞する」意をきかせたか。
○孤雲 ぽつんと一つだけ空にうかぶ雲。よるべないもののたとえ。
○西城 町の西側。
○黯黯 くらいようす。
○斜暉 傾いた陽光。
○衆鳥 多くの鳥。
○紛紛 数多いさま。
○燕雀群 燕や雀のむれ。つまらない人物のたとえ。
○懼 おそれる。おじけてびくびくする。
○鷹■(「壇」のみぎ+鳥。セン) 猛禽。
○搏 攻撃する。
○青雲 仕官して出世すること。
○弔影 我が身の影を見て自らあわれむ。
○徘徊 あちこちさまよう。
○独愁 一人でうれえる。
○銜花 『後漢書』《楊震伝》「楊宝年九歳の時、華陰山の北に至り、一の黄雀の鴟梟の搏つ所と為り、樹下に墜ち、螻蟻の困しむる所と為るを見る。宝之を取りて以つて帰り、巾箱の中に置き、唯だ黄花を食はしむること、百余日、毛羽成り、乃ち飛び去る。其の夜、黄衣の童子有り、宝に向かつて再拝し、……白環四枚を以つて宝に与へて曰く『君が子孫をして潔白にして、位三事に登ること、当に此の環のごとくならしめん』」と。
○縦 たとい。
○報恩 ご恩にむくいる。
○択木 木を選んで止まる。出世の手がかりを求めるたとえ。
○托身 身をまかせる。
○歳月 年月。
○蹉●(足+它。タ) 空しく過ぎ去る。
○憔悴 やせて疲れる。
○鳥鵲 カササギ。
○巣 巣をかける。
○只 ただ。それだけ。
○鷦鷯 ミソサザイ。『荘子』《逍遥游》「鷦鷯深林に巣くふも一枝に過ぎず」。ミソサザイは深い林に巣をかけるが、巣をつくるのは一枝にすぎない。人も各自の分相応に甘んじることのたとえ。
○主人 裴尹をさす。
○喬木 高く大きい木。
○清陰 涼しい木陰。
○棲宿 住みつく。
○少年 若者。
○挟弾 はじきだまを指ではさむ。
○相猜 恨む。
○驚飛 びっくりして飛び立つ。
○奮翼 羽ばたく。
○怕 おそれおののく。
○金丸 黄金の弾丸。『西京雑記』巻四「韓嫣弾を好み、金を以つて丸と為し、児童常に随つて之を拾ふ」。
【訳】
小鳥の歌。裴尹に差し上げる。
垣根の小鳥そなたなぜ体そんなにちっぽけな、羽をぱたぱた動かして朝な夕なに飛びきたる。
ただ翼のみじょうぶにて自ら巣には帰らねど、空ゆくはぐれ雲に似てこれといいたるよるべなし。
西の城には闇せまり傾く夕陽すでに落ち、多くの鳥は一斉におのが古巣に帰るなり。
独りスズメやツバクロの群をばつねに侮れど、一羽で飛べばタカなどの襲いくるのにビクビクす。
ああ大空の雲はるか、おのが影見てなぐさめて空をふらふら飛びめぐり独り愁えるこの夕べ。
たといこの先いままでの恩に報いる時あるも、木を択ぶにも我が身をば托する処あるやらん。
時はむなしく過ぎ去りて飛べどもなかなか進まずに、翼は疲れ力無くいったい誰をば訪れん。
樹を遶りて空しく随ふ鳥鵲の驚くに、林に巣くひて只だ有り鷦鷯の分。
殿のお庭の高い木を蔭とたのんで、その枝の涼しい木陰に身を寄せて宿を仮ろうと思います。
若者指に弾挾み遥かに我をうらやめば、遂に驚き飛びたちてあちらこちらと逃げ回る。
殿に向って飛びゆくに別に遠慮はいたさねど、若者はなつ黄金の弾丸我が身の後ろから迫りくるをただおそる。





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Last updated  January 29, 2008 10:24:03 AM
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