趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

March 23, 2009
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カテゴリ: 国漢文
【本文】
廿六日。なほ、かみのたちにてあるじし、ののしりて郎等までにものかづけたり。
【注】
●なほ 依然として。前日にひきつづき、ということ。
●かみのたち 国守の官舎。
●あるじ 饗応。接待すること。
●ののしり 従来「ののしる」は「大声でさわぐ」という意味でとらえられてきたが、小松英雄は『古典再入門』において、「ああだこうだ言う」という新見を出した。
●郎等 おともの者。家来。
●かづけ 「かづく」は、慰労のために目下のものに衣類や反物のたぐいを与える。

二十六日。この日も依然として国守の官舎で後任の国守が接待し、「長い間お疲れさまでした」とか「まあ、お飲みなさい」とか「ご馳走を召し上がれ」などと、いろいろなことを言って家来にまで慰労の品々をとらせた。

【本文】
からうたこゑあげていひけり。やまとうた、あるじも、まらうとも、ことひとも、いひあへりけり。からうたは、これにえかかず。やまとうた、あるじのかみのよめりける。
  みやこいでてきみにあはんとこしものをこしかひもなくわかれぬるかな
となんありければ、かへるさきのかみのよめりける。
  しろたへのなみぢをとほくゆきかひてわれににべきはたれならなくに
ことひとのもありけれど、さかしきもなかるべし。とかくいひて、さきのかみ、いまのも、もろともにおりて、いまのあるじも、さきのも、てとりかはして、ゑひごとに、こころよげなることしていでいりにけり。
【注】
●からうた 漢詩。
●いひ いふ」には、詩歌を口ずさむ意がある。
●まらうと 客人。

●これにえかかず。 「え…ず」で、不可能を表す。従来「仮名文字しか女性は書けないので漢詩文を書くことが出来ない」とか「漢詩のことはよくわからないので書けない」などといったような解釈がなされているが、そうではあるまい。そう考えてしまうとあとの二十七日の記事に「からうたども、ときににつかはしき、いふ」とあるように、漢詩の内容を理解して評価している記事があることや、正月十七日の記事に「さをはうがつ、なみのうへの月を。ふねはおそふ、海のうちのそらを」などと唐の賈島の漢詩が書いてあることと矛盾する。ここでは、「あまりたいした作品も無いのでここに書き留めることはできない」という意味であろう。
●しろたへのなみぢ 海路の旅が危険であったことが効果的に表現されている。
●さかしき 「さかし」は、気が利いているようす。
●もろともに 一緒に行動するようす。
●おりて 座敷から地面におり立って。

●こころよげなること 上機嫌な言葉。 
【訳】
漢詩を声をあげて朗詠した。また、和歌を、主人も、客人も、ほかの人も、詠み合った。漢詩はこれといった作品も無いのでここに書くわけにいかない。和歌を、送別の宴の主催である国守が詠んだ。
  都を出発してあなたに会おうとやってきたのに、遥遥やってきた甲斐もなくもう別れてしまうのだなあ。
と詠んだところ、その返歌として、帰京する前任の国守が詠んだ歌。
  しろたえの布のように真っ白い波の立つ危険な波路を遠く行き来して私に似た目に遭うはずのものは他の誰でもないあなたなであり、私のことをよく理解できるのはあなたなのに。
主人と客人以外の人の作品もあったけれども、気が利いた作品はないようである。あれやこれやと和歌を詠み合って、前任の国守も、現任の国守も、一緒に座敷から降りて、現任の国守も前任の国守も、手をとり合って、酔いに任せて昂揚して発する言葉に、調子のいい言葉を言って挨拶を交わして別れ、前任の国守は退出し、現任の国守は官舎へと入ってしまった。






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Last updated  March 25, 2009 09:02:43 PM
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