趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

April 3, 2009
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カテゴリ: 国漢文
【本文】
七日になりぬ。おなじみなとにあり。
【訳】
もう正月七日になってしまった。依然としておなじ港すなわち大湊にいる。

【本文】
けふは、あをむまをおもへど、かひなし。ただ、なみのしろきのみぞみゆる。
【注】
●あをうま 陰暦正月七日の儀式で、宮中の庭に引き出された青毛(青みがかった黒い毛)の馬を、みかどが御覧になったあとで、宴を行った。青馬を見るとその年の邪気が除かれるという中国の故事にもとづく。のちには白馬を用いるようになった。
【訳】


【本文】
かかるあひだに、ひとのいへの、いけとなあるところより、こひはなくて、ふなよりはじめて
、かはのもうみのもことものども、ながびつにになひて、つづけておこせたり。
わかなぞけふをばしらせたる。うたあり。そのうた。
 あさぢふの のべにしあれば みづもなき いけにつみつる わかななりけり 
いとをかしかし。
【訳】
こんなことを考えながら過ごしていたところ、他人の家で、池という名がついている所から、池につきものの鯉は無くて、鮒をはじめ川の産物も、海の産物も、あるいはそれ以外の産物を、長櫃にいれて、かついで、つづけざまによこした。
その中に入っていた若菜が、今日が七日だということを知らせた。それを見て歌を思いついた。その歌
一面にチガヤが生い茂っているような野原であるから、水もない池で摘んだ若菜なのだなあ。

【本文】

【訳】
この池というのは、土地の名である。身分も教養もある人が、男に付きしたがって、下ってきて住みついたのでる。

【本文】
このながびつのものは、みなひと、わらはまでにくれたれば、あきみちて、ふなこどもは、
はらつづみをうちて、うみをさへおどろかして、なみたてつべし。

この長櫃の品物は、その場のみんな、子供にまでやったので、じゅうぶん満足して、船の漕ぎ手たちは、ごちそうに腹鼓をうって、海をさへびっくりさせて、海が波を立ててしまいそうだ。

【本文】
かくて、このあひだに、ことおほかり。けふ、わりごもたせてきたるひと、そのななどぞや。
いま、おもひいでん。
【訳】
こうしている間に、いろんなことがあった。
今日、弁当箱を伴に持たせてやってきた人がいたが、その名はなんだったかしら。

【本文】
このひと、うたよまんとおもふこころありて、なりけり。
とかくいひいひて、「なみのたつなること」と、うるへいひて、よめるうた。
 ゆくさきに たつしらなみの こゑよりも おくれてなかむ われやまさらん
とぞよめる。いと、おほごゑなるべし。
【訳】
このひとが訪ねてきたのは、歌を詠もうとおもう魂胆があってやってきたのだなあ。
あれやこれやと、とかく色々しゃべって、「波が立つようですなあ」と、愚痴をこぼして、詠んだ歌。
 あなたがたの行く先に立つ白波の、その音よりも、あとに残されて泣く私の泣き声がまさるだろうか。
と詠んだ。きっとこの人の泣き声はさぞ大声なのにちがいない。

【本文】
もてきたるものよりは、うたはいかがあらん。このうたを、これかれあはれがれども、ひとりもかへしせず。しつべきひともまじれれど、これをのみいたがり、ものをのみくひて、よふけぬ。このうたぬし、「まだ、まからず」といひて、たちぬ。あるひとのこの、わらはなる、ひそかにいふ。「まろ、このうたのかへしせん」といふ。おどろきて、「いとをかしきことかな。よみてんやは。よみつべくは、はやいへかし」といふ。
【訳】
持参した品物にくらべて、歌の出来栄えはどんなものであろうか。この歌を、この人もあの人も称賛するが、一人も返歌をしない。返歌を詠むことができる人も混じっていたけれども、持参したものばかりを絶賛し、頂きものを飲食しているいちに、すっかり夜が更けてしまった。この和歌の詠み手が「まだ、帰るわけではありませんよ。」といって立ち上がった。ある人の子で、まだ子供であるのが、こっそり言った。「ぼくが、この歌の返歌をしよう」と。びっくいして、「非常に愉快だなあ。本当に詠めるのかい。詠めるのなら、はやく言ってごらん」と言った。

【本文】
「席をたちぬるひとをまちてよまん」とて、もとめけるを、よふけぬとやありけん。やがて、いにけり。「そもそもいかがよんだる」と、いぶかしがりてとふ。このわらは、さすがに、はぢていはず。しひてとへば、いへるうた。
 ゆくひとも とまるもそでの なみだがは みぎはのみこそ ぬれまさりけれ
となんよめる。かくはいふものか。うつくしければにやあらん。いとおもはずなり。「わらはごとにては、なにかはせん。おむな・おきな、ておしつべし。あしくもあれ、いかにもあれ、たよりあらば、やらん」とておかれぬめり。
【訳】
「席を立ってしまった人が戻るのを待って詠もう」というので、探したが、夜が更けてしまたからであろうか、そのまま立ち去ってしまった。「そもそも、どんなふうに詠んだの」と、不審に思って尋ねた。この子供、そうはいってもやはり、恥ずかしがって言わない。無理やり尋ねたところ、しぶしぶ口に出した歌。
 去りゆく人も留まる人も、別れの辛さに袖が涙川につかったようにぬれる、その川の水ぎわばかりがどんどん濡れていくなあ。
と詠んだ。小さい子が、こんなふうに大人顔負けに和歌を詠むものだろうか。幼いからであろうか、とても以外であった。「子供の詠んだ歌というのではしょうがない。年配の女性でも男性でも署名してしまいなさい。子供が詠んだ歌を大人が詠んだことにしてしまうことが、相手に悪かろうが、どうだろうが、そんなことはどうでもいい。ついでがあったら、この和歌を送ってやろう」というので、とって置かれたようだ。





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Last updated  April 4, 2009 05:34:30 PM
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