趣味の漢詩と日本文学

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September 24, 2010
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カテゴリ: 国漢文
【本文】
亭子院(ていじ)の帝(みかど)、いまはおりゐたまひなんとするころ、弘徽殿(こきでん)のかべに、伊勢の御(ご)の書きつけける、  
 わかるれど あひもをしまぬ ももしきを 見ざらむことの なにか悲しき
とありければ、みかど御覧(ごらん)じて、そのかたはらにかきつけさせたまうける、
 身ひとつに あらぬばかりを おしなべて ゆきかへりても などか見ざらむ
となむありける。
【注】
・亭子の帝=宇多天皇。菅原道真を登用して藤原氏の台頭を抑え、政治を 刷新した。のちに醍醐天皇に位をゆずった。在位887…897年。退位後、住まわれた邸宅が亭子の院。
・弘徽殿=後宮の一。皇后・中宮・女御などの居所。

・わかるれど=天皇が譲位なさると、その妃たちも宮中を去るのが当時の習慣だった。
【訳】宇多天皇が、天皇の位から降りなさろうとする頃に、弘徽殿の壁に、伊勢の御が書きつけた歌、
 別れることになったが、殿方とは異なり会うことも惜まない、いつでも目にすることのできた宮中を、見なくなるであろうことが、どうしてこんなに悲しいのでしょうか。
と詠んだところ、天皇がその歌をごらんになって、そのそばにお書きつけになった歌、
 皇居を去るのはわが身一つだけではないが、私の妃だった方たちのことは全て、季節が過ぎゆき新しい年が立ちかえっても、どこに住まわれようと尋ねて行き、面倒を見ないことがあろうか、いや、面倒を見ますよ
とお詠みになった。
そんなに宮中を見ないことが悲しいのなら、あなたが仕えるのがわたしの身一つではないというだけのことなのに、どうしてあなたは並々の人のように、一旦宮中を出て行っても、帰ってきて次の天皇にお仕えしてでも、再び宮中を見ないのだろうか。





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Last updated  September 24, 2010 10:50:17 PM
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