趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

September 25, 2010
XML
カテゴリ: 国漢文
【本文】帝、おりゐ給ひて、またのとしのあき、御ぐしおろし給ひて、ところどころ山ぶみし給ひて、おこなひたまひけり。
【注】
・帝=ここでは、宇多上皇。
・御ぐしおろし=かしらおろし=頭髪をそって出家すること。
・山ぶみ=山歩き。山には寺や神社がある。
【訳】帝が退位なさって、翌年の秋、頭を剃って出家なさって、あちこち山歩きなさって、仏道修行なさった。

【本文】備前の掾(ぜう)にて、橘良利(たちばなのよしとし)といひける人、内におはしましける時、殿上にさぶらひける、御ぐしおろしたまひければ、やがて御ともにかしらおろしてけり。
【注】
・掾(じょう)=地方の三等官。


【本文】人にもしられたまはで、ありき給ひける御ともに、これなむおくれたてまつらでさぶらひける。
【訳】人にも知られなさらぬように、各地の山を歩きなさるお供として、このかたが遅れ申し上ることなく、ぴったりと付き添っておそばにお仕えした。

【本文】「かかる御ありきしたまふ、いとあしきことなり。」とて、うちより「少将、中将、これかれ、さぶらへ。」とて、たてまつれたまひけれど、たがひつつありきたまふ。
【訳】「こんなふうに出歩きなさるのは、大変よくないことです。」というので、宮中から「ボディーガードとして少将や中将など、あの者もこの者も、帝を警護せよ。」といって、差し向け申しあげなされたが、相変わらずおかまいなしに山歩きなさった。

【本文】和泉のくににいたりたまうて、日根といふところにおはします夜あり。
【訳】あるとき、和泉の国にお出ましになって、日根というところにおいでになった夜のことです。

【本文】いとこころぼそう、かすかにておはします事を思ひつつ、いとかなしかりけり。
【訳】帝がとても心細く、さびしそうにしておられるのを、橘良利をはじめ従者たちは、どうしたものかと考えながら、とても悲しくせつなかった。

【本文】さて、「日根といふことを、うたによめ。」とおほせ事ありければ、この良利大徳(だいとく)、
 ふるさとの たびねのゆめに 見えつるは うらみやすらむ 又ととはねば
とありけるに、みな人泣きて、えよまずなりにけり。その名をなん、寛蓮大徳といひて、のちまでさぶらひける。

・「たびね(旅寝)」という文字列の中に、地名の「ひね(日根)」が詠み込まれている。
【訳】ところで、「日根という地名を、和歌に作れ」と、帝よりご命令があったので、この良利大徳が、「故郷が旅寝の夢に見えたのは、私を恨んでいるのであろうか、出家して二度と帰らない決心をしているわけだから」と詠んだところ、その場にいた者すべて泣きだして、あとの人は和歌を詠めなくなってしまった。良仁は、出家してのち、その名を寛蓮大徳といって、帝がお亡くなりになったのちまで、長生きして帝の後世を弔ったとさ。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  September 26, 2010 07:02:07 PM
コメント(1) | コメントを書く
[国漢文] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: