趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

September 26, 2010
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カテゴリ: 国漢文
【本文】故源大納言、宰相におはしける時、京極の宮すどころ、亭子の院の御賀つかうまつりたまふとて、「かかる事をなむせんとおもふ。ささげもの、ひとえだせさせてたまへ。」と、きこえたまひければ、鬚籠(ひげこ)をあまたせさせたまうて、としこにいろいろにそめさせ給ひけり。
【注】
・故源大納言=源清蔭。陽成天皇の皇子。884…950年。彼が宰相(=参議)だったのは925…939年。
・京極の御息所=尚侍藤原褒子。藤原時平の娘。宇多天皇の退位後にお仕えし親王を三人生んだ。
・鬚籠=編み残したさきがヒゲのように出ている竹細工のかご。
・としこ=俊子。大江玉淵の娘で、藤原千兼の妻。千兼と清蔭は義兄弟。
【訳】いまは亡き源大納言さまが、参議でいらっしゃった時、京極の御息所さまが、宇多上皇の六十歳のお祝いをして差し上げるというので、「こんなことをしようと思います。プレゼントを容れる籠に造花の枝をつけるので、作らせてください。」と申し上げたので、ヒゲコを沢山つくらせなさって、俊子に命じて色とりどりに染めさせなさった。

【本文】しきもののおり物ども、いろいろに染め、縒り、組み、なにかとみなあづけてせさせたまひけり。
【訳】ヒゲコに敷く織物を、色々に染め、縒り、組み、なにかにつけ、俊子に任せて用意させなさった。


【訳】その品々を、九月末日に、残らず急いで完成させた。

【本文】さて、その十月ついたちの日、この物、いそぎ給ひける人のもとにおこせたりける、(*)

ちぢのいろに いそぎしあきは すぎにけり いまはしぐれに なにをそめまし
その物急ぎ給うける時は、まもなく、此よりも彼よりも云ひかはし給うけるを、それより後は、その事とやなかりけむ、消息せうそこもいはで、十二月の晦日になりにければ、
かたかげの船にや乘りし白浪の騷ぐ時のみ思ひ出づる君
かたかげの ふねにやのりし しらなみの さはぐときのみ おもひいづるきみ
となむいへりけるを、そのかへしをもせで、年越えにけり。
【訳】そうして、その十月一日に、この用意した品物を、急いでおられた人の所に届けさせた、(俊子がその品物に添えて詠んだ歌)
 色とりどりに急いで木々の葉を染めた秋は過ぎてしまった。いまは冬の十月を迎えて染めるものも無いので、時雨れによって何を染めたらよいのかしら。
その品物を急遽必要となさていた時には、ひっきりなしに、当方からもあちらからも連絡を取り合っておられたのに、それ以後は、そんな事も忘れてしまったのだろうか、手紙のやりとりも無く、十二月の末になってしまったので、俊子が、
 片帆を掛けた小舟にでも乗っているのでしょうか、白波が騒々しい時だけ私を思い出すあなた。


【本文】さて、きさらぎばかりに、やなぎのしなひ、ものよりけにながきなむ、この家にありけるを折りて
あをやぎの いとうちはへて のどかなる はるびしもこそ おもひいでけれ
とてなむ、遣り給へりければ、いと二なく愛でて、後までなむ語りける。
【訳】そうして、翌年の二月ごろに、柳の枝で枝垂れて、ひときわ長いのが、この家にあったのを折りとって、それに源宰相が
糸のように細長い青柳の枝が長々と伸びた、のどがな春の昼間になって、やっと大役を果たしてた安堵感から、あなたのことを思い出しましたよ。





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Last updated  September 26, 2010 08:12:01 PM
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