趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

January 22, 2011
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カテゴリ: 国漢文
【本文】三条の右のおとど、中将にいますかりける時、祭の使にさされていでたまうけり。
【注】
・三条の右のおとど=藤原定方。内大臣藤原高藤の子。平安中期の歌人。官は従二位、右大臣に至り、三条の右大臣と呼ばれる。(873……932年)
・中将=藤原定方は、(906……911年)右近衛権中将をつとめた。
・祭の使=。京都の賀茂神社で旧暦四月の中の酉の日に行われた祭りの際に、朝廷からヌサをたてまつるために派遣された使者。近衛の中将などが、この任にあたった。
【訳】三条の大臣こと藤原定方様が、中将でいらっしゃった時に、賀茂の祭りの奉幣の勅使に指名されて出かけなさったとさ。

【本文】かよひたまひける女の、絶えてひさしくなりにけるに、「かかることなむいでたつ。
扇もたるべかりける、ひとつたまへ」といひやりたまへりけり。
【訳】夫として通っておられた女が、定方様の訪問が途絶えてひさしくなってしまった時に、定方様が「このたびこのような事態が起きて出発する。扇を持っておられたはずだから、一つください」と言っておやりになったとさ。



ゆゆしとていむとも今はかひもあらじうきをばこれにおもひよせてむ

とあるをみていとあはれとおぼして、返し、

ゆゆしとて忌みけるものをわが為になしといはぬは誰がつらきなり
【注】
・よしあり=由緒がある。また、奥ゆかしく風情がある。
・きよげなり=綺麗だ。
・ゆゆし=不吉だ。賀茂の祭りは夏に行われるが、それに必要ということは、祭りが済めば不要になるということ。もともと扇は秋には不要になる。秋は和歌では男が女に飽きる「飽き」と掛けて用いられるため、秋になって捨てられる点が、男が飽きて捨てられる女を連想させるので不吉だということ。
【訳】由緒ある家柄のしっかりした女だったので、きっとうまく用意して寄越すだろうと思っておられたところ、色彩なども非常に綺麗な扇で、香などをたきしめて香りなども非常によい状態にして寄越した。その扇の裏返した端のほうに書きつけてあった歌、

祭りが終わればすぐ用済みになるのが不吉だからといって、贈るのを避けたとしても、結婚してすぐ用済みになったようにあなたに捨てられた私には、いまさらなんの甲斐もないでしょう。せめてこの扇に恨みつらみの思いをこめた歌を書いてあなたに贈りましょう。
と書いてあるのを見て、ひじょうに済まなかったとお感じになって、そこで作った返歌

不吉だといって避けていた扇を、わたしのために「そんなもの無いわ」と言わないで、わたしのところにその不吉なものを贈って寄越すのは、いったい誰が冷淡なのだろう。(あなたのほうこそ、私に対して冷たいのじゃありませんか?)





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Last updated  January 22, 2011 07:42:00 PM
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