趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

March 17, 2011
XML
カテゴリ: 国漢文
【本文】同じ女に、陸奧国の守にて死にし藤原のさねきがよみておこせたりける。病いと重くしてをこたりける頃なり。「いかで対面たまはらむ」とて、

からくして 惜しみとめたる 命もて あふことをさへ やまむとやする

といへりければ、
【注】
・同じ女=第百十八話の「閑院のおほい君」。源宗于のむすめ。
・藤原のさねき=従四位上、陸奥の守をつとめた藤原真興のことかという。
・おこたる=病気がよくなる。
・からくして=やっとの思いで。ようやく。
【訳】同じ女に、陸奧国の守で死んだ藤原真興が、作って送ってよこした歌。ちょうど病気が非常に重かったのが、すこしよくなった頃だ。「なんとか対面していただきたい」というので、



といってやったところ、


【本文】おほい君かへし、

もろともに いざとはいはで しでの山 などかはひとり 越えむとはせし

といひたりけり。
【注】
・しでの山=冥土すなわち死後の世界にあるという険しい山。『宇津保物語』《国譲・上》「見し世にぞかくも言はまし嘆きなく死出の山路をいかで越ゆらむ」。
【訳】大君の返歌、
いっしょに、さあ、まいりましょう、とは言わずに、死出の山路を、どうしてあなたは一人で越えようとなさったのですか

といってきたとさ。


【本文】さて、きたりける夜も、えあふまじきことやありけむ、えあはざりければ帰りにけり。さて、朝に男のもとよりいひをこせたりける、

あか月は なくゆふつけの わび声に おとらぬ音をぞ なきてかへりし

・ゆふつけ=にわとり。
・音(ね)をなく=声をあげて泣く。
【訳】そうして、会いにやってきた夜も、会うわけにいかない事情があったのだろうか、会うことができずに帰ったとさ。そして、翌朝に、男の所からいってよこした歌、
泊めていただくことができなかったため、一緒に暁を迎える別れも無かったわけですが、暁に鳴く一番鶏の声に劣らぬような大きい声をあげて、泣いて帰ったことですよ。


【本文】おほいきみ、かへし、



【訳】大君の返歌

暁の、目が覚めていた耳で、たしかに聞きましたが、鶏の声以外は、声はしなかったわよ。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  March 17, 2011 06:58:53 PM
コメント(0) | コメントを書く
[国漢文] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: