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小説「ゲノムと体験が織りなす記憶」 第 16 話
ではなくて、今回から勝手ながら前のタイトルに戻します。
そして文中でも触れていますが、あまり前後を考えないで
書きます。言うならば「ショート・ショート」というあの形式に近くなるかと・・・なので「以前に読んだ気がする」こともあり得ますのでその辺をどうぞお汲み取り下さい。
小説 「 scene clipper 」 again 第 16 話
リョウは意を決したように、と言えば多少大げさに聞こえるが、性格的に彼は目上の人、特に尊敬する人物に対して慎重になる傾向がある。
「青木さん、ここから東京まで、あまり時間がありませんし、お考えのようにこれから直接お会いする機会は限られてくると思いますので、順番や内容を検討することを避けて思い出したままに僕の体験したことをお話しさせていただこうかと考えますが如何でしょう」
青木氏はリョウの予想通り頷いた。
「それで結構です。元々私の方がお願いしたこと。君に任せますよ」
「ありがとうございます。口幅ったい言い方で恐縮ですが、私の体験は、普通の方々の一般的な常識では測れない場合を含みますので、その点ご了承ください」
「君に普通ではない何かを感じたから、聞かせてもらいたいのです。もしかしたら、途中で口をはさむ事が有るかもしれないが、それ以外に君を迷わせるつもりはない。どうか思いのままに語り聞かせて欲しい」
リョウは青木氏の誠意ある申し出に感謝して頭を下げた。
「それではお言葉に甘えて・・・最初に思い出したことから・・・」
(いきなりこの話か・・・でもあれこれ考えている時間はない・・・)
「いきなりですが、あるお寺の、あれは新築落慶法要にお邪魔した時のことです。
そのころ交流のあった知人に誘われて関東の西のはずれの方にあるお寺さんに出掛けました。
法要が始まる前に境内の中とか裏手の庭、これは立派で、庭園と呼べる類いの様相でして、まだ木の香が匂う本堂や鐘楼、一切経堂を拝見して裏庭に回りますと、細長い池がありました。そこには立派な鯉がゆらゆらとゆっくり泳いでいました。
少しの間眺めていますと、木版の乾いた音が聞こえてきました。
そばに今日この法要に誘ってくれた知人とその妹さんがいましたが、知人曰く「あれは相当に硬い木を長く寝かせて作ったのだろうな。何とも言えない響きがあるね」
私も同意して聴いてましたら、今度は本堂内部から鐘の音がしました。余韻は長く続きそう・・・そう感じた次の瞬間にそれは起こったのです。
このままだとその内降り出すかもしれないと思うほどの雲が低く垂れ込んでいたのですが、本堂の大屋根の上空を覆う雲にポッカリと孔が空いて尚且つ広がって、多分直径で10メートルほどもあったでしょう、そこから陽光がまるでスポットライトのように本堂の大屋根を照らした・・・
あまりの光景に声も出せずにいるところへ、今度は何処からともなく20~30羽の鳩が飛来し本堂の大屋根の陽光が照らしだしたところへ静かに舞い降りてきて停まったではありませんか、ぼくらは驚くというか言葉を失って互いの顔を見合って「何だこれは!」と、彼の妹さんは声も出せずにいるのがわかりました」
そこまで一気に話してリョウはつばを飲み込んでしまった。
「それは一体・・・」
青木さんだけでなく、ケンさんもそして隣で聞いていたマリも
信じられない、という顔をしているが無理もない。
「俄かには信じがたいですよね、われわれ当事者でさえ・・・半信半疑、いや殆ど狐に騙されたとしか・・・しかし、更に驚いたのは、あろうことか見渡してみると、その光景に肝を飛ばしているのは我々のみの様子!
中に入れなかった、一般の参詣者は我々3名が見るその光景に全く気づいてないらしい。
「ご住職のお経声は相変わらず素晴らしいわね」とか「いや、立派に新築成って私らも鼻が高いよ」などと呑気に談笑しているではありませんか!そのことに更に驚愕した私と知人はまたも顔を見合わせて「いったいこれはどうなって・・・」知人は我慢できなくなったのか、周囲の人達に
「あんたら、あの光景が見えてないのか?」と詰問し始めたのです。
その都度返ってくる返事は
「君は一体なにを言ってるんだ?しっかりしなさい」
ついに諦めた知人は妹さんの様子がおかしいのに気づいた。
「○○美、どうかしたのか?何を言ってる?」
すると妹さんの悲鳴のような声が我々二人の耳を打った。
「あれは、おにいちゃん、映画の撮影かなにかでしょ?そうよね」
「○○美、なにを言ってる!お前にも見えているんだろ?」
「何が?・・・」
私は次第に気持ち悪くなってきました。知人の表情にもそれが伺えたように記憶しています。
「おにいちゃん、あれ見て!すごいよ・・・」
「ん?何のことだ?」
「あれよ、池の鯉。さっきまであちこちで好きに泳いでいたのに今は・・一か所に集まって本堂の方に頭を向けてゆらゆら揺らめきながもじっと大人しくしている・・・不思議ねえ」
知人と私は妹さんの言われることが本当だと知って、更に驚いたものでした。他の光景は激しく首を振って否定していながら、鯉のことは見たままに認識している。
「もう気味が悪いの一言につきる出来事でしたね」
「確かに薄気味悪い話だね・・・ところでその後どうなったんだろう、それらの現象は?」
確かに・・・周りの視線もケンさん、マリ、若い衆もみんな同じ気持ちでいるようである。
「・・・ちょっと待ってください・・・あれ?あの後どうなったんだ?」
マリがリョウの腕を掴んで「しっかり・・・して」
とつぶやいた。
小説 「scene clipper」 again 第17話 2025.09.20 コメント(6)
ただのデブ0208さんのこと 2025.08.18 コメント(4)