”名も知れぬ人たちへ”・【転11】

・・・来年は一緒に行こうなと私から言いたい・・・

退院は娘の行事,"合唱祭"の次の日。
バレエの発表会(別の地区の発表会に参加)の当日。

妻は,どんどん痩せてくる。抗がん剤の副作用はやっぱり怖い。
でも今の医学では,どうにもならない・・・ということをいつも頭の中でつぶやく。

娘と私は,退院おめでとうって言いながら妻へ近づく。
もちろん車椅子を持参しながら・・・。
時間は午前10時ころだったろーか。
その足で病院から1時間くらい北の方角に行った市街地で娘のバレエ発表会が
行われる文化会館へ。

私は初めて行く場所であったためナビの案内でゆっくりと走る。
妻の体調はあまりよいものではなかったためもあるが。
途中でコンビニにより弁当を買って食べた,妻はほんの少しはしをつけただけ。
でも,娘とバレエの話でもちっきりだった。娘の通っている教室以外で踊るのは,
すごーく恵まれている,出たくてもでれない人もいる。

その発表会会場に到着した。妻は動けそうもないため車の中で待つことにした。
私は荷物を持ち,娘を楽屋まで送りとどける。もう楽屋は女の子たちの声でいっぱいだ。
その中に娘がなんの躊躇もなく溶け込んでいく。
ガンバレと言って,手を振りながら楽屋を後にする。

妻の待つ車へ急ぐ。
『どうだい?車の中だと疲れるだろ?』
『うん,でも大丈夫だよ・・・』
『昨日の合唱祭,すごかったー。おまえの言うとおりだな,圧倒されたよ』
『でしょう?でも優秀賞だったんだよね,残念だったねー』

・・・”来年の合唱祭一緒に行こうな”って言えなかった・・・
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