コロナで海外に行けなくなり、昨年は結局一度もパスポートを使わなかった。
新しく書くこともなく、昔ここに書いた記録を整理しているうちに、フェイスブックに書いたからいいや、と放置している旅行記がいくつかあることを思い出した。ところが、読み返そうにも、書き込みがなかなか見つからない。検索をかけても見当たらず、何千万人、もしかすると数億人の書き込みが毎日あるのだから、どこかに埋もれて消えてしまっても仕方ないのかもしれないが、少なくとも自分にとっては、備忘録として書いた意味がないじゃないか、と憤りながら何度も探し回っていたら、なんとか見つかったので、ここにアップしておくことにした。ここなら、あとから見つけやすい。
以下は、 2015
年 8
月下旬の記録である。
ドイツ行きの備忘録 その1。
初日、出発の朝。
日曜早朝で駅までのバスが出ていなかったし、足の裏の怪我を悪化させたくなかったのでタクシーを予約し、朝 5 時に駅に向かう。一番安い京成スカイアクセス線経由で成田空港第一ターミナルには 8 時前に到着。搭乗予定は 9 時 55 分発のルフトハンザ FH711 便だった。チェックインカウンターは既に長蛇の列だったが、何かおかしい。やがてその日には飛ばず、翌朝の 8 時 40 分に変更になったと知る。使用予定の機材がフランクフルトから飛んでこなかったそうだ。フランクフルト空港であった事故に巻き込まれたという説明だったが、後から調べてもそれらしい情報はみつからなかったので、真偽の程は定かではない。
FH711
の乗客は全て振り替えか一日遅れで出発することになり、代替チケットの手配をカウンターでやっていたので行列は遅々として進まない。一日遅れを受け入れた人にはミールクーポンと宿泊チケットは出ていたようだが、私はその日着の便か、翌日早朝着の便でなければ、元々ドイツ行きを決めた理由である VDP
ドイツ高品質ワイン醸造所連盟のグローセス・ゲヴェクス試飲会に間に合わない。これは招待制の着席形式の試飲会で、 VDP
によればとても長いウェイティングリストがあるそうだ。そこに 2
日間の会期のうち、 1
日だけなら参加出来ると連絡があったのが約 3
週間前だった。もっと早ければ 9
万円台から航空券があったのだが、その時点で直行便の往復航空券は最低 13
万円以上。ちなみに、中東系の航空会社を利用しても 11
万円以上だったし、一日早い便はさらに高価なチケットしかなかった。いわば、最後の一枚、ラストチャンスと思って買った航空券だったのだが、それで私にとっては未だかつて無い、不測の事態に遭遇した訳である。
不測の事態といえば、昨年一度ルフトハンザのチェックインカウンターで「予約がありません」と言われたことがある。この時は DWI
ドイツワイン基金のプレスツアーで、先方が手配していて E
チケットもあったのでそんな筈はない、と主張。結局共同運航便の全日空のカウンターでチェックイン出来たので、事なきを得た。
さて、 FH711
に話を戻すと、御用聞きのように回ってきた係員によれば、その日の便はもう既に満席だという。それはそうだろう。チケットを購入した点から予想出来た。数時間の遅れなら、到着日の夜に予定されていた VDP
ナーエのウェルカムイヴェントを諦めるだけですむかもしれないが、翌日発となると話は違う。午前 10
時にはヴィースバーデンで予定があるので、なんとかそれに間に合わせたい、と伝えると、空席はないと思いますが一応探してみますのでそのままお待ち下さい、と言う。もちろん、私の前には既に少なく見積もって 100
人-ジャンボジェットの乗客だ-が既にカウンターで交渉しており、彼らは皆、本当は予定通りドイツへ行き、なるべく早く目的地に着きたいと願っているのだ。
約 3
時間以上遅々として進まない行列の中で待ち続け、ようやく私の順番が回ってきた。先程と同じことを繰り返すと、「探してみますのでお待ち下さい」と係員の女性は言った。これがドイツなら恐らく「申し訳ありません Es tut mir Leid
」の一言でとりつく島も無かっただろうと思う。やがて彼女は戻ってくると、日曜日なので中東系の便も全部埋まっている、と申し訳なさそうに言う。いよいよだめかと諦めかけた時「香港経由の全日空深夜便で、現地早朝 5
時台着ならとれるかもしれません」という。一縷の望み、希望の光が差してきた。深夜便なら前回ドイツに行った時も使った。「そ、それでお願いします!」とすがりつくように頼むと、わかりました、とうなづき、 10
人近い同僚達が端末を叩いているカウンターの一画に向かった。そして戻ってくるなり「午後 2
時台羽田発の直行便に空席が出たそうです」と言うではないか。真に奇跡としか言いようがない。「チケットを振り替えましたので、このままリムジンバスで大急ぎで羽田に行って下さい」と指示された。その時既に 11
時 45
分頃。チェックイン締め切りまで約 1
時間半強。羽田まで道が混んでいると 1
時間半くらいかかることもありますから急いで下さい、とバスのクーポンを握らされ、大急ぎで予約してあった Wifi
を借り受けて、 3
時間以上耐えたトイレを済ませて、これまた足の裏の痛みに耐えながらスーツケースを引きずって、リムジンバス乗り場に行くと羽田の国際線ターミナル行きはあと 20
分出ないという。ヤバい。しかし、不思議と乗り遅れることはないだろうという気がした。ここまで来たらなんとかなるだろう。
幸い道は空いていた。羽田の駐車場付近で少し渋滞したが、約 1
時間強で国際線ターミナルに到着。バスを降りる直前に羽田のチェックインカウンターから「いまどちらですか」と電話があり「今行きます、大急ぎで行きます!」と答えながら、やっぱり待っていてくれたんだ、流石全日空ありがとう!と心の中でうれし涙を流した。カウンターは既にクローズされていたが、電話の件を伝えるとすぐ通じて、スーツケースを係員が手持ちでどこかへ持っていった。しかし、私の名前はどうやらウェイティングリストに載っているだけの状態だったらしい。しばらくして「空席がないので今回だけ特別です」と、プレミアムエコノミーにアップグレードしてくれた。ありがたい。出発便の遅れは最小限に出来た上に、なんという幸運。
時間がないのでご案内します、と係員にエスコートされてゲートに到着したのは午後 2
時少し前、丁度搭乗が始まった頃だった。うれしさのあまり間違えてビジネスクラスの列に並び、係員にエコノミーの列に並んで下さいと追い出され、プレミアムでもエコノミーはエコノミーなんだと改めて知る。しかし、ゲートでもう一度不測の事態が起こった。渡されたばかりの搭乗券をスキャナに通すと赤いバツ印が現れ、そばにいた係員が「座席イシューです」と緊張した面持ちで同僚に告げたのだ。だめなのか、やっぱりだめなのか …
?
少し青ざめながら話を聞くと「プレミアム・エコノミーも満席ですので、ビジネスクラスにアップグレードします」と言うではないか。うわぁ、なんて一日だ!地獄から天国へ昇った気分だった。ビジネスクラスなんて 10
年、いや 20
年振りか。昔会社に勤めていた頃、一度だけロンドンからの帰国便がビジネスクラスだった。しかし、あの頃に比べると今は格段に進歩しているようだ。座席はフルリクライニングしても後ろの人を気にする必要がなく、しかも細かに姿勢を調整出来た。モニターも 15
インチの PC
並みに大きいし、ヘッドホンもボーズ製で持参したノイズキャンセリング付きのを使う必要もなかった。着席するなりシャンパーニュのウェルカムドリンク (Jacquart Brut)
で、食事もちゃんとした白磁の食器で前菜と主菜、デザートが別々に運ばれてくるし、ワインも白はファルツの Dr.
ベッカーの 2014
ヴァイスブルグンダー „Blanc de Blanc“
とアルトアディジェのホーフシュテッターの De Vite 2013
だった。赤も真っ当な赤が 2
種類 (2009 Château Leboscq, Cru Bourgeois, Medoc/ 2012 Aconcagua Syrah, Arboleda, Chile)
。飛行機の中で食器のたてるカチカチという音が物珍しく、離陸して間もなく出て来た昼食で、朝からパン一切れとお握り 2
個で耐えた空腹を満たし、ワインで心も満たしてフルリクライニングして熟睡した。なんという幸せ。足の裏の痛みも少し和らいだ気がした。
正直なところ、これまでプレミアム・エコノミーやビジネスクラスなど必要なければ縁もない、と思っていたが、今後は少し考えるかもしれない。この快適さはクセになりそうだ。もっとも、お金がないのでマイレージでも貯まらなければ乗らないだろうけれど。ドイツには夕方 6
時頃に着いて、少しばかり痛む足を引きずりながら-靴の中に小石が入ったような痛み-電車でヴィースバーデンに向かう。夕暮れのドイツは涼しく、垂れ込めた雲からいつしか雨粒が落ちてきた。駅に着いた頃には本降りになっていたので、タクシーでホテルに向かう。歩けば 20
分くらいで行けるらしかったが、この状態で無理はしたくなかった。
ホテルで靴下を脱いで包帯をほどくと、足の裏の傷は少し化膿していたが思っていたほどではなく、水で洗浄して消毒して化膿止めを塗り、滅菌ガーゼをあてて包帯を巻いた。そして翌日からの試飲の日々に備え、早めに寝た。
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