・ドイツで一番クールなワイン
DWI
のパヴィリオンでは「ドイツで一番クールなワイン」と題したコンテストで選ばれた
20
本が展示されていた。国外ではまだあまり知られていない、若手醸造家達によるドイツワインのクリエイティヴな側面をアピールするために、
385
本の応募ワインの中からラベルデザインと醸造コンセプトと専門家による試飲をもとに
20
本を選出。
DWI
のサイトに発表して、そこを訪れた約
5000
人が投票して順位を決めた。ペット・ナット
3
本、オレンジワインが
1
本含まれた入賞ワインはいずれも斬新なエティケットデザインが人目を引く。その中に一本、左目のまわりにポップな星が描かれた聖母マドンナに「
Liebfraumilch Pfalz
」と金文字をあしらったエチケットがあった。
1990
年代まで最も輸出量の多かったドイツを代表するワインで、あの悪名名高い、ドイツワインは安くて甘いだけというイメージをひろめた張本人だ。なぜいまさらあえてリープフラウミルヒなのか。ふと思いついて、生産者であるハンメル醸造所のブースに立ち寄ることに した。
・リープフラウミルヒの復興
ファルツのハンメル醸造所は
1723
年に設立された家族経営の醸造所で、約
100ha
と比較的大きな葡萄畑を所有している。「ある日の午後」と、髭面で強面の経営醸造責任者クリストフ・ハンメルは言った。「ふと思いついてリープフラウミルヒについて調べてみたんだ。ドイツワインの評判を貶めた張本人と言われているけれど、
100
年前はビクトリア女王やドイツ皇帝フリードリヒも好み、シャトー・ラトゥールやマルゴーよりも高価な銘酒だったことがわかった。それなのに、なぜ今これほど評判が悪いのか。安くて甘いからだ。ではリープフラウミルヒとは何か。その定義はワイン法にあるのだが、リースリング、ミュラー・トゥルガウ、ケルナーもしくはジルヴァーナーを
70
%以上用いた、残糖
18g/ℓ
以上のワインと定められている。それなら残糖
19g/ℓ
の、ほぼオフドライで高品質なリープフラウミルヒを醸造したらどうだろうかと考えた。
100
年前にそうであったはずの味わいを、当時と同じ情熱と愛をこめて造ったら。ほかの国の物真似ではない、モダンでありながら長い伝統を誇るワインを造ったら、それは意味のあることに違いないと思った」。
ハンメルの狙い通りにワインは評判を呼び、
2016
年は
800
本だった生産量を
2017
年は一気に
20
万本に増やした。それはアロマティックで、クリーンで飲みごたえのある、まっとうで素直に楽しめるオフドライの白ワインだった。
リープフラウミルヒの復活を目論むクリストフ・ハンメル氏。
・ヴォルムスのマドンナ
では一方、本家本元のリープフラウミルヒの現状はどうなっているだろうか。同じホールの反対側に出展している P. J.
ファルケンベルク社のブースを訪れてみると、ちょうどオーナーのヴィルヘルム・シュタイフェンザント氏の姿があった。 1786
年に創業されたファルケンベルク社は、 19
世紀前半にヴォルムスのリープフラウエン・キルヒェンシュトゥックの葡萄畑を購入し、リープフラウミルヒのブランド名で販売して大成功を収めた。しかし 20
世紀に入って模倣者が後を絶たず、 1909
年に「リープフラウミルヒ マドンナ」の商標を登録して現在に至る。シュタイフェンザント氏は創業者ペーター・ヨゼフ・ファルケンベルクから数えて 9
代目にあたる。
「いや、今はもうオーナーじゃない。 2016
年に会社は売ったよ」と開口一番シュタイフェンザント氏は言った。「その代金でリープフラウエン・キルヒェンシュトゥックの葡萄畑 3.5ha
とリープフラウエンシュティフト醸造所を会社から購入した。妻のカタリナ・プリュムと一緒に経営している」「モーゼルの Joh. Jos.
プリュム家の娘さんですか」「そうだ。 2015
年に結婚して、去年娘が生まれた。フィリッパと言う名だ。妻はいつか娘に日本を見せたいと言っている」と顔をほころばせた。シュタイフェンザント氏は 64
歳。カタリナさんとは 25
歳の年の差がある。 2017
年 12
月に有能な醸造家として知られるハイナー・マレトンを迎え、 2018
年から栽培をビオロジックに転換し、醸造もこれまでのステンレスタンクから木樽に切り替えるという。今後注目されることは間違いないだろう。
シュタイフェンザント氏(右)とハイナー・マレトン氏。
シュタイフェンザント氏の醸造所のブースは、古巣のファルケンベルク社のブースの近くにあり、シュタイフェンザント氏の後任となった二人の経営者のひとりで、まだ 48
歳と若いティルマン・クインス氏の話も聞くことが出来た。クインス氏によれば現在日本市場でのマドンナの販売は 1989
年の約 10%
で、その原因は経済環境の悪化と赤ワインブームの影響がいまだに残っていることにあるという。しかし品質はこの 15
年間で大幅に向上しているそうだ。
クインス氏は日本には輸入元であるサントリー㈱とのクオリティミーティングで毎年一度は訪れており、プロヴァインの 2
週間前にも京都と大阪を訪れたばかりだという。「ドイツワインは和食の完璧なパートナー。和食のためなら死んでもいい」と笑った。
普段ならばアポイントメントをとるだけでも苦労しそうな人でも、プロヴァインならば気軽に立ち話をするようにして容易に話を聞けるのも、その魅力であり実力かもしれない、と思った。
ファルケンベルク社代表の一人、ティルマン・クインス氏。
(以上)
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