Laub🍃

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2012.09.17
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カテゴリ: .1次メモ
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 結論から言うと。


 光の源はただの街灯でした。

 なんで草むらの中に突然街灯があるんだろうとか、その先が突然崖になっていて侵入者への罠ですかコレって思わずに居られない事とかは取り敢えずおいておこう。


……あー。うん。なんか、近付いたら光に呑まれてそれは実はワープホールで、僕は柾目ちゃんの元へ真っ直ぐに急降下とかそういうの期待してたわけじゃないけど、でもなんか、ちょっとがっかりというかなんというか……。





 だけど、多分やっぱりこの街灯は、この風景から抜け出すための一つの手段なんだろうと思う。
 感覚では数時間も経っていないから(最も僕の時間感覚が夢の時間感覚に合っているかどうかも分からないけど)あと数時間もすれば夜が明けて、草が一気に萎れるとかまた違った状況になるのかもしれないけど、闇に向かって歩いて行ったら突然落とし穴があってその道が柾目ちゃんに直通しているのかもしれないけど、まず目の前のものから片付けないと。



「ぐっ……」



 底に何があるか分からない。街灯でも届かない深い深い谷に恐怖が募るのを柾目ちゃんの為と思う事で抑圧する。……いや、いくらなんでも柾目ちゃんが崖から落ちたら即意識がなくなるようにしてるとか崖の底に棘を沢山配置してるってことはないだろう。柾目ちゃんの為に作られたこの空間、侵入者とか敵の想定でもしてない限りそんなものを作る必要はない筈だ。





 やっぱり、恐怖には勝てなかった。

 柾目ちゃんが大事にしているかもしれない草を引っこ抜くたびにちくちくと罪悪感。ごめん、本当にごめん。
 でもこれは草への罪悪感じゃなくて、柾目ちゃんへの罪悪感に過ぎない。きっとそんな僕を柾目ちゃんは、この世界の柾目ちゃんは、一緒に居て楽しいとは言ってくれないんだろう。



 綺麗に根元まで抜けた草。

 そういえば庭の草むしりを申し付けられた柾目ちゃんはお母さんにばれないように山に運んで植え直していた。昼から夕方までずっと手伝ったっけ。お礼として渡されたリンゴジュースはおいしかった。あの時の柾目ちゃんは笑っていたけど、僕にどこか済まなそうにしていた。
「……あたしさ、あたしがおかしいことは分かってるんだ、分かってるんだよ。他の人からしたら下らないこだわりだ。それでもあたしはそのこだわりを守れれば「あたしが楽しい」からやってる。……けど、扠首は違うだろ?楽しくないなら、やらなくていいよ」

苦みの残る笑み。

「……手伝うよ。

 楽しそうな柾目ちゃんを見ているのが「僕は楽しい」から」

茶番だった。たぶん柾目ちゃんは僕がそういうのを予想していただろうし、僕はこう言えば柾目ちゃんがもっと心を開くだろうとも思っていた。



 ……綺麗に抜けた草を綱のようにする。リアルな草じゃない、丈夫な綺麗な草。
 何本もの草でできたロープを腰と街灯の根元に結わえつけて、そろりそろりと地上から姿を消していく。足元の浮遊感、ぎしりと鳴るけれどそれでも解いて植え直せば元の姿に戻れるようにその形を保っている草。



 徐々に視線の中の地面が上がっていく。息が荒くなる、地上との決別への畏れ。

 行かなくちゃ辿り着かなくちゃ柾目ちゃんを助けなきゃ。

 完全に視界が崖の側面だけになる。





 そこにふっと、疑問が追加される。


 そういえば、崖沿いにひたすら歩いて行ったらどこについていったのだろう?


 数メートル先の街灯を見上げ、続いてその隣に目を移す。
やはりというかなんというか、真っ暗で何も見えない。

 草のロープが終ったら、それでも底に着かなかったら、また昇って、危ないかもしれないけどそっちに行ってみようか。






 そう思っていた数分後、僕はそれが無駄な事だと知る。



何故なら。


「……孤島かよ」

草の地面は崖に囲まれていたから。

そして僕は、



その崖がまるごと空に浮いていることを知ってしまったから。






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最終更新日  2015.06.12 02:56:26
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