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『又蔵 (またぞう) の火(藤沢周平)』は、再読です。
といっても、「又蔵の火」のみで、他の収録作「帰郷」「賽子 (さいころ) 無宿」「割れた月」「恐喝」は、はじめて読みました。
さて、藤沢周平の特徴の一つに、斬り合い場面があると、思います。この「又蔵の火」の土屋又蔵こと土屋虎松と義理の甥、土屋丑蔵との対決は、すさまじい。
ここに至るまでの、出来事と最後の対決までをもう一度読みたくて、買って手許にある本が行方不明になり、図書館で借りました。
最初読んだ時は、この対決(仇討ち)は、討つ側、又蔵に三分の理もないと思いましたが、今回の再読では、又蔵の兄を思う気持ちを幾分かは理解できました。というより、こういう物語を書く藤沢周平の作家としての思いが少しは分かったというほうが自分の気持ちに近い。
話の骨子は、土屋家の放蕩息子、万次郎(又蔵の実の兄)を、討った丑蔵と土屋三蔵を敵(かたき)と狙う、又蔵の物語。とにかく、最後の対決場面は凄惨である。その凄惨さは読んでいただくのが一番である。

この写真は、 ここから 引用しました。有難うございます。
兄、万次郎が殺されたことについて、虎松(又蔵)と、かつて兄、万次郎と虎松が土屋家を逃げ出したとき世話をした石田が、虎松に話す・・・、
「だがな、本当は殺してやりたいぐらいは思うものよ。みんなきちんとして、それでもって世間体をつくろって生きている。辛いことがあってもこらえてだ。ところが一人だけ勝手なのがいて、思うまま、し放題のことをする。世間に後指をさされまいと気張っている家の者のことなど、お構いなしだ。これは殺したいほどのものだ。世間体をつくろうのも限りがあってな。そのうちくたびれる」 p40
また、藤沢周平を読んでいて、興味深いのは、次のようなところである。
又蔵は脇の下の菰包みと風呂敷包みを抱え直した。菰包みには、小笠原重左衛門が餞別にくれた二尺二寸四分の久道銘の刀と、無銘の小刀が入っている。風呂敷の中身は、 黒羽二重の袷 、 浅黄の小袖 、 藤色縮緬のたんな 、矢立、それに縮緬袱紗に包んだ心形刀流の目録巻物、武術免状書などである。
この時、又蔵に剣術の師、小笠原重左衛門は、それなりの支度をしていることが分かる。そのあたりの、記述に又蔵の修行態度が真摯であったことが伺われ、兄、万次郎への思いも察せられる。
さて、残る、四篇であるが、すべて、やくざの話である。そこで、はじめて見た言葉「手目」、博打でいう「いかさま」のことである。藤沢作品では「てめし」と読ませている。手許にある辞書にはこの言葉はなかった。ネットでしらべると、「手の目」という妖怪が出てくる。たぶん、これが転じていかさまになったのだと思われる。私の調べて、唯一「手目」がいかさまとして出ていた事典は「江戸語辞典」でした。

又蔵の火
藤沢周平
文春文庫
1984年11月25日 第1刷
1997年2月15日 第16刷
『手仕事の日本』 2015.10.16
『ひらがなだいぼうけん』 2015.09.26
新折々のうた2 2015.09.25