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2007.03.22
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筒井康隆『バブリング創世記』


 9編の短編が収録されています。以下、簡単に紹介と感想を。

「バブリング創世記」 ドンドンはドンドコの父なり―この一文から物語がはじまります。擬人化された擬音語がどんどん子供を生んでいきます。ときどき、ヤスタカが生まれたり、メンドリが生まれたりするのですが、とりあえず、ぱっと見た感じ、カタカナの羅列が続きます。それでも、ラストはうまいと思いました。
「死にかた」 とつぜん会社にオニがやって来ます。オフィスの人々が、それぞれオニに殺される直前にどうふるまうのか、ということが描かれています。自分の語彙のなさが残念ですが、面白かったです。この短編集の中でも、印象に残る一編でした。
「発明後のパターン」 こちらはショートショートですね。なんとも…。
「案内人」 日本の観光地は、どれも観光地のパロディになってしまった。そう考えた男が、ひなびた田舎を訪れ、たまたま知り合った男に山を案内してもらいます。主人公の男性が幾度も危険な目にあうのにもはらはらしながら読み進めたのですが、こちらもラストがうまいです。
「裏小倉」 小倉百人一首のパロディです。高校のときには全て覚えさせられましたが、結局百人一首は覚えていないのですが、それはそれとしてとにかく面白かったです。たとえば、三つ目はこんな感じ。

あしびきの やまでらのこの ひだりての ながながしてを ひとがかむなり


 歌自体も意味不明なのが多いのですが、さらに<通訳>が直訳調に訳していて、そこがさらに面白いです。好き嫌いはあると思いますが、私はこういう趣向は大好きなので、大いに笑いました。仕事帰りに電車の中で読んだのですが、笑いをこらえるのが大変でした…。
「鍵」 シリアスな雰囲気の物語です。徹夜で原稿をあげたフリーのルポ・ライターが、手持ちの鍵から、その鍵の場所を思い出し、その場所を訪れ、さらに別の鍵を見つけ、さらにその鍵の場所を訪れ…という物語。本書の解説を書いておられる井上ひさしさんも、「鍵」を絶賛しておられますが、面白いです。やはりラストがいいですね。
「廃塾令」 一家が何のテレビを見ようか、その意見が対立しているほのぼのしたところから物語がはじまります。「廃塾令」は、一家が見る(筒井康隆の)SFドラマです。母親に塾をいくつも掛け持ちさせられている小学生が殺されます。自分の子供を塾に通わせることができない男が犯人でした。塾をめぐって子供がどんどん死んだことから、文部省(当時。一太郎賢いですね、文部省とうったら、いまは文部科学省だと教えてくれました。あえて文部省とうったのですが…)は廃塾令を発表します。しかし、それに反対する人々も出てきて、テレビでは討論が行われます(そういうドラマです)。文庫が出たのがもう25年も前ですが、これでもかと子供に勉強させる人間はまだまだいるんでしょうね。あなた方は誰のことを考えておられるのですか、と問いたいですね。子供を、自分の虚栄心を満たすために利用する人間にはなりたくないものです。
「ヒノマル酒場」 居酒屋で飲んでいた常連たちが、テレビに近所が映っているのに気付きます。どうも、UFOが映っているらしい。さらに、宇宙人が出てきて、その居酒屋―ヒノマル酒場にやってきます。店の人も客も、みなこれはマスコミのどっきりだと思い、マスコミの言葉も宇宙人の言葉も信じません。割とどたばたですが、こちらも痛烈なマスコミ批判ですね。
「三人娘」 なんとも不快な話でした。きまじめな課長をやめさせ、自分が課長になろうとする男が、品行のよくない三人娘を利用して、課長をノイローゼにしようと企みます。その男も三人娘も不快でたまりませんでした。

 「三人娘」ではやたら不快と書きましたが、物語としてはとても面白く読みました。全体として、面白い作品でした。個人的には「裏小倉」が大好きです。「廃塾令」もいいですね。





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Last updated  2007.03.22 21:27:12
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