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2007.08.24
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~光文社文庫、2006年~

 吉敷竹史シリーズの短編集です。ノベルス版『吉敷竹史の肖像』に収録された「光る鶴」「吉敷竹史、十八歳の肖像」の二本の短編に加え、書き下ろし短編「電車最中」の3編が収録されています。
 まずは、内容紹介から。

「光る鶴」2002年秋。吉敷竹史がはじめて一人で逮捕した人物、藤波の告別式に出席した吉敷は、藤波にお世話になったという青年、昭島悟に声をかけられる。彼の義父―昭島義明は、26年前の「昭島事件」の容疑者で、既に死刑判決を受けていた。現在、悟たちが再審請求をしている段階だった。藤波は、悟に告げていたという。東京からくる刑事の吉敷が、きっと「昭島事件」を解決してくれると。
 26年前の6月13日。女性4人が住む河田家で、昭島と交際していた敏子以外の三人が殺されていた。敏子は、6月14日午前0時20分頃、交番にかけつけ、事件を知らせたという。彼女は、犯人は昭島だと警察に語った。そのすぐ後、昭島は近くの女子大学で焼身自殺をはかっていた。
 問題は、昭島と思われる男が、敏子が交番にかけつける前に、線路に赤子が横たえられていることをその交番に通報していることだった。赤子は、血に塗れた布で包まれていたという。その赤子―悟を、いつ昭島が発見し、いつ通報したのか。検察に軽視されているこの点をついていき、昭島のアリバイを証明することが、彼の冤罪を晴らすための唯一の手段である。吉敷は、残された休暇の一日で、昭島のアリバイを証明するために奔走する。

「吉敷竹史、十八歳の肖像」1966年(昭和41年)。吉敷は、東京のC大学に入学した。大学紛争もたけなわの時期で、吉敷自身は闘争に加わることはなかったが、運動に参加していた一人とは友人になれた。しかし、その友人が殺されてしまう。その後、実家の経済状況が悪化したという知らせも届く。絶望感におそわれる吉敷だが、誰が友人を殺したのかを明らかにしなければ、その後、どんな仕事もできないと感じ、犯人にせまろうとする。

「電車最中」2000年6月。鹿児島県警の留井警部補は、一見簡単そうに思えた事件に頭をかかえていた。市役所建設企画課長の男が銃殺されていた。4年前にダム工事をめぐって被害者と対立していた暴力団組員が容疑者と思われたが、証拠がない。唯一の証拠は、現場から持ち去られていた湯飲みと、湯飲みに付着していた最中。その後の調査で、その最中は市電の形をした最中だと分かったが、このお菓子を売っている店が、どうしても捜査線上に浮かんでこないのだった。



 解説を読んで知ったのですが、表題作「光る鶴」は「秋好事件」を下敷きにしている作品のようです。『涙流れるままに』に続いて、冤罪事件を扱った作品ですね。あるいは、シリーズは違うものの、『犬坊里美の冒険』も冤罪事件を扱っていました。本作では、死刑囚となった昭島義明さんの人柄が印象的でした。彼の過去の行動には同情の余地のない部分もあるのですが、事件そのものに関しては、同情できるというか、そういう要素がありました。

「吉敷竹史、十八歳の肖像」は、吉敷さんが刑事になるきっかけとなる事件を語る話です。権威主義ともいうべき日本人のあり方を問うています。「真実」や「正義」よりも、肩書きとか権威とかを大切にする風潮は島田さんの多くの作品で批判されていますが、あらためて考えさせられ―というか、自分のあり方を見直すきっかけになります。

「電車最中」は、事件自体はもう別によいですね。『灰の迷宮』(感想は こちら )事件で吉敷さんと行動をともにした留井刑事が主人公です。『灰の迷宮』を読んだときに、留井刑事に好感をもっていたので、これは嬉しいですね。

 ノベルス版『吉敷竹史の肖像』には、事件年譜やエッセイなども収録されているようで、それがないのは残念でした。個人で作っていた吉敷シリーズ事件年譜に自信がなかったので、そちらで確認したいと思っていたのですが…。ノベルス版も、いつか購入したいです。
 ただ、文庫版は、そういう小説以外のファンサービスの部分を除いた一冊になっていて、実は吉敷シリーズの短編のみを収録する短編集は本書がはじめてです。「展望塔の殺人」など、吉敷さんが活躍する短編もあるのですが、そうした過去の短編は、ノンシリーズの短編と一緒に収録されていたのでした(なので、このブログの島田さんの作品一覧では、『展望塔の殺人』はノンシリーズの項目に挙げています)。そういう意味では、嬉しい一冊ですね。





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Last updated  2007.09.09 19:44:12
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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