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2007.10.21
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~講談社ノベルス、2007年~

 これはすごい。ものすごく面白かったです。
 第26回メフィスト賞受賞作、石黒耀(あきら)さんのデビュー作です。もともと、2002年にハードカバーで出版されていましたが、 2007年10月にノベルス化されました。
 火山の噴火が主題の物語ということで、ハードカバー版が出たときはさほど興味ももたず、ノベルス版も、日本地質学会表彰受賞ということで、新しい世界も開けそうだし、メフィスト賞はなるたけ読みたいしくらいの気持ちで買ったのですが… 読んで良かったです。久々にすごい作品に出会えた気分です。
 …と、前置きが長くなりましたが、内容紹介と感想を。あるいは、ネタバレとなる部分もあるかもしれませんので、ご注意ください。

 20XX年5月。旧与党を打倒し、政権を握った日本共和党から選出された総理大臣、菅原は、南九州は加久藤(かくとう)カルデラで起こるだろう破局的噴火にそなえ、極秘にK作戦を立ち上げた。出来る限り、噴火の被害に対応できるよう、原発や自衛隊などに、極秘に指令を与えていた。
 国立日向大学工学部防災工学担当の助教授・黒木は、火山オタクで、火山学者にもその名を知られるようになっていた。彼が宮崎県の地方紙に連載していた「宮崎を造った火山の話」は、菅原にも感銘を与えていた。そのこともあり、黒木はK作戦のメンバーとなる。
 6月18日。噴火が起こると予測されていた霧島火山に、黒木と、新聞連載に協力していた担当の岩切は向かう。まだそれがくるとは思ってもいなかったのだが…噴火が起こる。

 破局的噴火は、未曾有の規模で、火砕流は鹿児島まで達する。短時間のうちに、何十万、何百万という人々が犠牲になっていく。火山灰は空を覆い、日本中が二次被害にあうのはほぼ確実、気候変動により、世界中に影響を与えることも確実と思われた。
 円の価値は暴落するが、菅原は、最悪の事態に備えて準備していた「最後の手段」に頼るのは欲さず、「神の手作戦」にかける。

 黒木先生と岩切さんの、極限状態でのドライブ。日本の壊滅をくいとめるべく、全力をそそぐ菅原大臣。こういった主要人物が魅力的なのも嬉しいですし、彼らの行動―命運に、どきどきしながら読み進めました。
 日本の都市計画がまったく無計画であることを暴露している点は、最近読んだ島田荘司さんの『都市のトパーズ2007』など、島田さんの都市論を連想しました。しかし、たしかに、過去の行政のあり方ばかりでなく、日本人の心性自体も考えなければならないのかな、と思いました。政府のあり方を批判しながらも、劇的に状況を変えるようなことにはなかなかなっていないですよね…。
 いかに、日本が災害にもろいのか。分かっていながら、改善が十分になされていないのか。あらためて感じました。「九州の破局噴火地帯にも、東海地震の震源域の真上にも、中央構造線の活断層脇にも原発が建って」いるというのは…。
 戦後、急速な経済復興をとげ、無理な土地計画がなされてきましたが、それはたまたまその間に大きな震災がなかったから。目先のことしか考えずにきているのだなぁと思わずにいられないですね。
 と、いわば過去の反省や批判の念もありつつ、第二に、火山の恐ろしさが痛感されます。ヴェスヴィオ火山の噴火によるポンペイ埋没は有名ですが、その他、歴史的に重大な影響を火山が与えているのだなぁ、と勉強になります。本書のあたまの方では、黒木先生の授業風景が描かれているのですが、その後の地の文などでも、火山や噴火などについて勉強になります。
 最後に、火山(あるいはその噴火)を、日本神話、あるいは「創世記」「ヨハネの黙示録」などの聖書の読解に適用している論点がとても興味深かったです。一部、イザナキが桃の実を投げた部分については、「桃には意味がない」と切り捨ててあって、歴史学あるいは民俗学大好きな私にはちょっと残念でしたが…。そこの象徴性を考えたりするのが面白いと思うのですが、それはそれとして、火山あるいは噴火によって、日本神話や聖書のいろいろな部分(さらには、根幹の部分)が説明されているのはやはり面白いですね。比較神話のようなこともされていて、文系肌の方も飽きないかと思いました。
 あらためて、黒木先生と岩切さんがかっこよかったです。途中、こんな事態でケンカになったら、噴火とその被害の描写だけで苦しいのに、さらに苦しくなるから勘弁!…と変なことを考えたのですが、ケンカが起こることもなく、安心しました。真理さんをめぐって、なにかあったのではないかと不安になる部分があったので、そんなことを考えたのですが。
(ちょっと反転) 『都市のトパーズ2007』は悲劇的な結末でしたが、凄惨な状況を描くにもかかわらず、本書『死都日本』は救いが描かれていて、読む分には気持ちが楽になりました。実際にこんな事態になると、こんなラストにはならないでしょうけれど…。 (ここまで)






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Last updated  2007.10.21 06:59:24
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