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2008.07.23
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島田荘司『嘘でもいいから殺人事件』
~集英社文庫、1987年~

 隈能美堂巧(くまのみどたくみ。通称タック)さんが主人公のユーモア・ミステリです。本書の内容を思い返してみると、音楽を演奏するシーンはともかく、全体的に島田荘司さんらしくない、という印象があります。不可解な謎は、これぞ島田さん!というくらいわくわくするのですが…。それだけ作風が広いということですね。
 ではでは、内容紹介と感想を。

ーーー
 1980年夏。やらせがひどいことで有名なディレクター、軽石三太郎があまりにひどいやらせ番組を流したことから、彼の首はついにとびかかっていた。軽石のもとでサードADとして働くタックは、首をつなぐための企画を考えさせられることになった。そんな中、タックの友人(華族の家柄)の田村が猿島という無人島に幽霊屋敷とも呼ばれる別荘を相続することになったという話を聞く。これだ!ということで、軽石ら一行は、猿島へ向かうことになった。
 番組制作の方は、結局はそこでも無茶苦茶なやらせだったが、一行には大きな問題がふりかかる。台風のため、島から出られなくなったのだった。
 屋敷には、田村とその婚約者、そして公認会計士の向井がいた。撮影一行は、軽石にタック、タックとバンドを組むターボ、西村カメラマンにビデオ・エンジニアの篠塚。一行は、予定以上に屋敷に泊まらせてもらうことになる。
 屋敷には、戦時中の申年に、密室状況から男が消えたという話が伝わっているという。そして、申年の人間に対する殺人予告ともいえる紙が現れ、彼らを驚かせることになる。その予告の実現か、西村エンジニアが密室状況の中消えてしまう。

ーーー

 軽石三太郎の言動に腹が立って腹が立って、こてこての憎まれキャラです。先に記事を書いた筒井康隆さんの「乱調人間大研究」( 『暗黒世界のオデッセイ』 所収)でいえば、その第二章の典型といったところでしょうか。
 一方、警察関係者の三人もとても面白かったです。やっぱり、中でも毒島さんでしょう。彼の悲惨な過去と残念な服装もすごいですが、女性嫌いの彼を女性たちがよってたかってからかうのがすごかったです。…いやはや…。
 軽石の下で働くタックとターボの苦労もなかなか壮絶ですが、タックが彼に逆らえないのには若干自業自得の面も…?それにしても、ブタに金粉塗ったり、猛暑の中ゴリラの着ぐるみで走り回ったりと、ドタバタぶりはとても楽しいです。
 …と、事件とは関係ないところで大盛り上がりの本書ですが、事件の謎も魅力的です。そして解決編も。
 上にも書きましたが、島田荘司さんの幅広い作風の一つにふれられる、楽しい一編でした。

*なお、隈能美堂巧さんは、御手洗潔シリーズの短編「疾走する死者」( 『御手洗潔の挨拶』 所収)





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Last updated  2008.07.23 06:40:14
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Re:島田荘司『嘘でもいいから殺人事件』(07/23)  
yasukun0402  さん
島田荘司さんの初期の作品は、ホントいろんなジャンルに挑戦していますよね。これも楽しい作品ですよね。 (2008.07.23 21:52:12)

yasukun0402さんへ  
のぽねこ  さん
コメントありがとうございます。
本当に幅広いですよね。御手洗シリーズのようなバリバリの本格が受け入れられにくかったというのもあるかもしれませんが、いろんな作風にふれられるのは嬉しいことです(そして、どれも面白いのがすごいです)。
そうですよね。かなり笑えて、楽しい作品でした。 (2008.07.24 07:06:01)

Re:島田荘司『嘘でもいいから殺人事件』(07/23)  
torezu  さん
遅ればせながら、こちらからもTBさせていただきました。本作品は間延びしたというか、緊張感がないというか、やらせもここまで来れば立派!と思いました。
疾走する死者でのリンクも嬉しかったです。読み始めてまず思ったのが、タックがここにも!でした。(笑)
いつものドキドキ感はなかったのですが、こういう小説も良いですね。刑事が頼りないというのが、また面白かったです。
最後にやらせのタックで終わるというのが、島田さんらしいというか何というか…
本書は楽しませていただきました。w (2008.07.25 11:50:08)

torezuさんへ  
のぽねこ  さん
コメント&TBありがとうございます。
間延びなどなど、他の作品には批判の言葉になりそうな感想が、ここでは誉め言葉になるのがすごいですね(笑) 楽しい間でしたね。
本土の警察側は、なぜあの三人を寄越したのか、疑問にもなりますね…(笑)
事件は残念でしたが、他の部分は思い出すだけでにこにこなれるような、楽しい作品でした。 (2008.07.25 20:33:43)

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