のぽねこミステリ館

のぽねこミステリ館

PR

Profile

のぽねこ

のぽねこ

Calendar

2009.01.17
XML
ミシェル・パストゥロー『紋章学概論』第1巻第3章

(Michel Pastoureau, Traite d'heraldique , pp. 59-65 : Livre I, chapitre III
"Le temps des herauts d'armes (vers 1320-vers 1560)")

 今回は、ミシェル・パストゥロー 『紋章学概論』 より、その第1巻第3章「紋章官の時代(1320頃-1560頃)」を紹介します。
 まず、本章の構成は次のとおりです。

ーーー

II.紋章官と14-15世紀の紋章体系
 1.紋章官
 2.14-15世紀の紋章体系
III.紋章の使用と表現
ーーー

 では、上記の構成に沿って簡単に内容紹介をしていきます。

 本題に入る前に、本章で扱う時代の概観として、14世紀後半から、兜の使用の衰退や廃止などによって、戦場での紋章の役割は小さくなり、識別のしるしとしての役割はトーナメントに限られてきます。一方で、紋章は日常生活で使うモノにも広まってきます。

I.紋章権droit au armoiriesと紋章学の能力

 紋章は(貴族など)一定の社会層に保有された―すでに 第1巻第2章 などでも述べられたように、そういう考えは誤りで、紋章は社会の全ての人が保有できました。 15世紀半ばには、バルトルBartoleという人物も、紋章に関する概論の中で、他人のものを流用しないのであれば、紋章は自由にもつことができると言っています。たしかに、15世紀には、ポルトガル王や英王などが、紋章の保有を貴族のみに限ろうとしますが、少なくとも権利としては、その他の社会階層の人々も紋章を有することができたといいます。
 また、14世紀には、自由採用とならんで、譲渡concessionという、紋章を得る手段が生まれてきます。もともとは贈り側の紋章(あるいはその一部)を譲渡するというかたちでしたが、後には全く異なる紋章を譲渡するという慣行も広まるとか。そして、譲渡による紋章というのは、名誉としての性格を持っていたと考えられます。



 紋章官は、当初は単なる伝使でしたが、トーナメントの発展とともに、その重要性を増していきます。トーナメント参加者の盾(紋章)を見分け、武勲を説明したりするという、現在のレポーターのような役割を果たすようになります。
 なおここでは、"marche d'armes"というものについても若干の言及があるのですが、いまはまだ理解不足です(試訳も挙げていましたが、誤訳でしたので、原語のみを掲げておきます)。
 ところで、紋章官は、この時代の紋章の発展に対して大きな影響を与えます。紋章体系がより厳格に整備されていくのです。そうすると、少なくとも理論的には自由な構成が禁じられてしまい、浜本隆志先生の『紋章が語るヨーロッパ史』でも触れられていたように、かえって複雑になっていきます。そんな中で、盾(紋章が描かれる場)の外に、あまり紋章規則にしばられない、紋章の要素が生まれてくることになります。ここでは、兜飾り、支え(support. 盾を囲み、支えているように見える図柄)、「バッジ」(badges. 紋章とは違って、装飾的モチーフとして自由に用いられる記章。たとえば、ヨーク家の白バラも「バッジ」だそうです)が挙げられています。
(※「バッジ」は、より良い訳語が既にあるのかも知れませんが、勉強不足です)

III.紋章の使用と表現


 個人、あるいは家系の中での紋章の変更には、気まぐれのほかにも、いくつかの理由があります。父方の紋章を放棄して母方の紋章を採用したり、第二子以降が差異化(家系の紋章の一部に図柄を加えたりするという規則)を望まずに自分の家の紋章を放棄したり、結婚や同盟にともなって紋章を部分的あるいは全体的に修正したり…。
 特に興味深かったのは、自分の政治的立場の変更を表明するという事例です。たとえば、皇帝派(ギベリン)に属していたある人物は「赤字に金の鷲」(鷲は皇帝の紋章です)を持っていましたが、教皇派(ゲルフ)に移り、紋章もライオンの描かれた青地のものを採用します。青はフランス王の色ですが、その人物は政略的結婚によってフランス王と関係を深めていたともいうのですね。
 さて、同じ人物あるいは家系が同じ紋章を持っていたとしても、その表現方法は多様であり得たといいます。紋章を作る職人さんに、「大筋を尊重するように」要求はしても、その細部については割合気まぐれも許されたとか。その後、混同が生じた具体的な図柄について紋章用語が列挙されるのですが、ここでは細かい話は省略します(理解不足もあり)。分かりやすいのでいえば、動物の図柄について、舌や爪など小さなところが消えたりもする、といった感じの話です。

   *   *   *

 すでに時代は、私が専門に勉強してきた時代よりも後の話になってきました。けれどもパストゥロー氏の記述は(いろいろ邦訳を読んで予備知識があるというのもありますが)割合読みやすく、内容もまた興味深いので、楽しく読み進めることができます。
 本章は、本書の中でも、短い章の一つです。いちばん短いかもしれません。そういうこともあり、訳出を始めたら一気に済ませてしまおうと、しばらく帰宅後は本章の訳出にかかっていました。
 なお、紋章官の役割については、上の記事では省略した部分もありますけれど、浜本隆志先生の『紋章が語るヨーロッパ史』36-42頁も併せて読むと理解が深まります。

(この記事作成にあたっての参考文献)
・浜本隆志 『紋章が語るヨーロッパ史』 白水uブックス、2003年
・ミシェル・パストゥロー(松村剛監訳) 『紋章の歴史―ヨーロッパの色とかたち―』 創元社、1997年





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2009.02.28 08:22:56
コメント(4) | コメントを書く
[西洋史関連(外国語書籍)] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Keyword Search

▼キーワード検索

Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: