のぽねこミステリ館

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2009.01.25
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~角川文庫、2007年~

 鷺沢萠さんのエッセイ集です。久々に、鷺沢さんのエッセイを読みたくなり、一気に3冊買ったのですが、はじめに、これを読んでみました。
 すでに記事には何度か書いているかもしれませんが、私がはじめて、いわゆる「ミステリ」以外で買ったのが、鷺沢さんの 『海の鳥・空の魚』 という短編集だったように覚えています。同時期くらいに江國香織さんの『つめたいよるに』も買ったので、ちょっと記憶が混じっているかもしれませんが…。
 2004年、あのニュースに接したときの衝撃は、いまでも忘れられません。

 …さて、本書文庫版は、つまり鷺沢さんの没後に出版されました。どうしても、ある種の感慨を抱きながら読んでしまいましたが、笑いあり、そして胸に沁みるようなエッセイもあり、味わい深い一冊だと思います。

 冒頭に収録されている、「笑顔という魔法」というエッセイ。この話から、じーんときます。好きな言葉を、文字色を反転して引用しておきます。「 笑顔は生活の潤滑油、などというのは使い古された言い方だ。けれど、差しあたって何もできないなら、笑っていないよりは笑っているほうがいいと思う 」( 16
 「プレイン&クレイン」という話も、人の温かさを感じられる一編です。飛行機の中で鶴を折ることになった、というお話です。

 鷺沢さんのおばあさんにあたる方が韓国人だったということもあってか(ちょっと記憶があいまいだったので、Wikipediaでの鷺沢萠の項を参照しました)、在日韓国人や、もっと広く国民の在り方、言葉の問題に関するエッセイなども、考えさせられ、興味深く読みました。
 たとえば、アジア系でありながら、生まれも育ちもアメリカ、という方が、日本にきて、日本人と間違えて声をかけられながら、うまく応えられない、とか。日本でも「外国人」、アメリカでもマイノリティーという…。日本で生まれ日本で育つ大多数の「日本人」には、なかなか想像がつかない状況ですが、そのせいか、私自身も含め、このような人の多様性を考慮できない想像力の欠如した人々も多いかもしれない、と思いました。というのも、私自身、このエッセイを読むまでは、こうした問題は普段考えもしませんでした。別のエッセイでもふれられている、ある在日韓国人に対するある店員さんのような対応をしてしまったかも知れません。少なくとも、本書を読んで、視野を広げよう、と一歩前進できたように思います。
 これはまた、「ことばという宗教」というエッセイに触れられていることですが、アメリカでは過去に大きな人種差別があったからこそ、少なくとも今日ではそうした問題には敏感である、ということ。「 一国の首都の知事が差別語をヘーキのヘーザで公けの場で口にし、しかも謝罪もせず、その上それが大した問題にもならない、という国に較べればよほど立派である 」と、鷺沢さんは言います。まったくその通りだと思います。悲しいですね…。

 と、とりとめのないことをつらつらと書いてしまいましたが、興味深い一冊でした。

(2009/01/19読了)


※2月1日訂正
・鷺沢のひいおばあさんが韓国人と書いていましたが、おばあさんの誤りでした。記事の方は訂正しました。失礼いたしました。





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Last updated  2009.02.01 15:43:03
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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