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2009.02.27
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J=L・フランドラン(蔵持不三也/野池恵子訳)『農民の愛と性―新しい愛の歴史学―』
Les amours paysannes (XVIe-XIXe siecle) , Editions Gallimard, 1975)
~白水社、1989年~

 前回、西洋史関連の文献で 『世界で一番美しい愛の歴史』 を紹介しましたが、これを機に、買ったもののしばらく読んでなかった本書を通読してみました。
 フランドランは、近世・近代史が専門なので、私が専門に勉強している時代とはずれるのですが、性と愛の歴史の大家ですね。性の歴史の後は、食の歴史に関心を移し(これらはまた、人間の欲望の歴史ともいえます)、その成果の一つは、次の邦訳書があるので、日本語でも読むことができます。
フランドラン/モンタナーリ編『食の歴史』(藤原書店、全3巻)

 さて、本書の構成は以下のとおりです。

ーーー
序章 新しい愛の歴史学に向けて
第一章 ゲームの掟

 II 父親の権威
 III 家庭の事情
第二章 愛と結婚
 I 愛は存在したか
 II 貧しき人々の愛
 III 配偶者の選択
第三章 欲望と暴力
 I 愛の手ほどき
 II 男女交際
 III 悲劇的な愛
終章 変遷


訳者あとがき
ーーー

 本書は、16世紀から18世紀という時代を中心に、農民たちの愛と性の在り方を、史料に豊富に語らせながら描いています。
 おおざっぱにいって、第一章は結婚、第二章は愛、第三章は性を扱っていますが、これら3つは、前出『世界で一番美しい愛の歴史』の中でも、愛の歴史を論じる上で重要な領域と指摘されています。
 内容とは関係ありませんが、構成が、序章と終章を除けば3章からなり、それぞれの章が3節からなっているというのも、すっきりとした形で良いですね。



 まず、序章で本書の方法論が示されます。特に、史料の扱い方について、です。
 文学作品は有用ですが得られるのはイメージであり、より具体的な情報は統計的なデータや、裁判記録から得られます。ところがこれらもエリートの記録であって、農民たちの生の声は聞こえにくい。そこで、フランドランが注目するのが、諺や歌謡です。本書は、これらの史料をふんだんに引用しながら、農民たちの愛や性の実体を描こうとする試みです。

 第一章で興味深かった点をいくつか挙げておきます。

・本書ではしばしば、レチフ・ド・ラ・ブルトンヌという人物による『父の生涯』という作品が引用されていますが、その作品の中で、主人公エドモン・レチフは、自分の意中の人がいたにも関わらず、父の意思に従っているシーンがあります。一章II節の標題にもなっていますが、当時の父親の権威の強さがうかがえます。

・長男は家庭の中でいろいろな特権をもっていた(料理の中でも美味しいところを食べることができたり)のですが、同時に、たっぷりの婚資(女性が嫁に行くときに持参するお金)をもたらす女性と結婚するよう強制されていたとか。先にひいたエドモンの例もそうなのですが、本人が愛する女性が貧しかったら、親に反対されてしまうのです。

 第二章で興味深かった点もいくつか挙げておきます。

・第一章とは反対に、「子供たちを彼らが愛することのできない相手と結婚させたり、彼らの意思に反して宗門に入れたりする父親は、この掟に著しく背いていることになる」という史料の存在が指摘されます(有名なルイ13世の宰相を務めたリシュリューの言葉)。同じく、相手に愛情を抱くことができなければ、婚約が解消される、という事例も示されます。

・農民たちのあいだで愛情がいかに捉えられたかを示す史料として、諺や歌謡が多く例示されています。ここは読み物としても楽しいです。

・また、第一章でも指摘されていたかと思いますが、結婚する条件として、その相手とお付き合いしていることが周囲の人々の顰蹙をかっているため(妊娠したり)、その人と結婚しないともう自分は誰とも結婚できないのだ、という状況がありました。これを逆手にとり、「架空の罪を設定して」好きな相手と結婚する、という事例も多かっただろうという指摘もあります。

 第三章では、割合生々しい性の在り方も指摘されます。
 その第III節では、ちょっと話が変わり、標題通り、女性がたとえば父親不明の子供を産むような場合に、厳しく断罪されたこと(冒頭の事例では、女性は死罪とされています)などが指摘されます。ただ、女性たちにも戦う権利は残されていて、この子の父親は誰それだと、その男性を告発することもできました。これも、時代によって異なるわけですが…。

 終章は、非嫡出子の出生率、婚前妊娠率などのグラフを掲げながら、第三章の終わりの方で論じられた問題をさらに詳しく論じています。


 上にも書いたとおり、本書の対象の時代について私は詳しくなく、また本書の記述はあるテーマについてけっこうまちまちの時代の事例を挙げながら論じているため、なかなか理解ができない部分もありました。ノートもとらずにざーっと読みましたし、記事を書くにも時間がかかったため、十分な紹介とは言えませんが…。

 訳者あとがきでも指摘されていますが、本書は民俗学的な雰囲気ももちます。農民たちの愛や性を論じるにあたって、主な対象の時代である16-18世紀の史料だけでなく、19世紀、さらには20世紀の事例も紹介されているからです。
 フランドラン自身もアナール学派の歴史家といえるかと思いますが、まさにアナール学派第三世代あたりからが力を入れている歴史学と民俗学の接近を感じられる著作でした。

 理解は不十分ですが、ひとまずこの機会に通読することができて良かったです。

(2009/02/20読了)





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Last updated  2009.02.27 06:42:37
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