2009.06.25
テーマ： 最近、読んだ本を教えて！(24672)
カテゴリ： 本の感想（た行の作家）
土屋賢二『われ笑う、ゆえにわれあり』
お茶の水女子大学哲学科教授、土屋賢二先生の第一エッセイ集です。
いろんなブログで先生のエッセイの面白さが語られていて、興味があったのもありますが、実は土屋先生が岡山県出身と知ったのも、エッセイを手に取るきっかけになったのでした。ミーハーな私…。
さて、まずは本書の目次を紹介した上で、印象に残ったエッセイについてつらつらと感想を書いてみます。
ーーー
献辞
はじめに
今日からタバコをやめられる―でなくても禁煙をやめられる
愛ってなんぼのものであるか？＜会議主義的恋愛論＞
わたしのプロフィール
人間を定義するのは不可能である
あなたも今日から老化が楽しめる
汝みずからを笑え
あなたも今日からワープロが好きになる
洗濯の概念＜大きい顔をされないための概念分析＞
わたしはこうして健康に打ち勝った
女性をとことん賛美する＜超好意的女性論序説＞
女性にも欠点はある
学生との対話
健康診断の論理と心理
デタラメな日本紹介記事に抗議する
人気教授になる方法
何も考えないで楽しく生きる方法
「ふみの恩返し」―解説に代えて― 柴門ふみ
実は、本書より先に、続編の『われ大いに笑う、ゆえにわれ笑う』を読んでいます（そのときはばたばたしていた時期で、感想を書けないままになっていました）。本書が、私にとっては二度目の土屋先生のエッセイですが、独特のユーモアのセンスです。ものすごい深読みというか、デカルト的に全てを疑ってかかっておられるというか…（そういえるほど私はデカルトの哲学を理解できているわけではありませんが…）。そういえばタイトルもデカルトの言葉のもじりですね。
「助手との対話」「学生との対話」は、助手や学生の正論（？）と土屋先生の理屈（？）のギャップが楽しいです。
これは楽しいと思ったのは、「愛ってなんぼのものであるか」です。まず、人の見た目によって、同じような性質（性格）であっても評価が変わると論じたあと、見た目と評価の対照表が掲げられています。たとえば、外見の良い男は「決断力がある」なのに、外見の悪い男は「軽率な」。外見の良い男が「ファッションのセンスがいい」であっても、外見の悪い男は「かっこばかり気をつかう」。などなど、この表だけでも楽しいです。
そしてもう一つ表があって、それは、男性に求められる内面的性格と、女性がそれを求めるほんとうの理由（？）の対応表です。たとえば、「気前がよい」の裏には、「わたしのためにお金を使ってくれる」、という気持ちがあるという…。こちらの表も楽しいです。
「あなたも今日から老化が楽しめる」は、表現を変えるだけでこうも印象が変わるのか、と面白い表現が満載です。たとえば、「若さを失う」。失う、は貴重なものをなくしてしまうというニュアンスがあるので、「若さを失う」というのはネガティブな表現になります。これに対して、より中立的な（？）表現として、（反転） 若さから解放される、老いを獲得する （ここまで）などが提案されています。
「涙の満腹」は、単純に笑える話ですね。続編の餃子の話も面白いですが、土屋先生の飲食店ネタは楽しいです。こちらでは、なかなか注文を取りに来てくれない、自分が注文した品がなかなかこないというところから始まって、最後は注文品に具を入れ忘れられたことについて語られます。
「デタラメな日本紹介記事に抗議する」は、私は裏返しの日本人のある種の性質批判として読みました。かたちとしては、日本人にはなじみのないある国が、偏見に満ちた日本人論を書いているので、怒りをもってそれを邦訳して紹介します、という体裁になっています。が、鋭い日本人論が織り込まれているように思います。
その中の教育の項目で、特に納得した二箇所を、文字色を反転して引用しておきます。
「 最近では主体性や個性を重視する教育が叫ばれているが、実際には、ほんとうに個性的な人間や主体的な人間がいたら、「自分勝手な人間」とか「協調性のない人間」として排斥されるだろう 」
「 […]中には自分からはっきり悪人だと主張しない者もいて、そのような人の犯罪が毎日のようにニュースで全国に報じられている。ニュースによるとほとんどの犯罪は、政治家、医者、警官、実業家によってなされている。これらはほとんど一流の教育を受けた人々なのである。日本の教育がどんな人間を作っているか、これでも分かるであろう 」
最後の、「何も考えないで楽しく生きる方法」は、タイトルと裏腹に、本書の中でも一番哲学的な、勉強になるエッセイでした。
そして、柴門ふみさんによる解説が素敵でした。ちょっとした回想録なのですが、軽く目がうるんできたのでした。
『われ大いに笑う、ゆえにわれ笑う』も、また再読した際に記事を書きたいと思います。
お茶の水女子大学哲学科教授、土屋賢二先生の第一エッセイ集です。
いろんなブログで先生のエッセイの面白さが語られていて、興味があったのもありますが、実は土屋先生が岡山県出身と知ったのも、エッセイを手に取るきっかけになったのでした。ミーハーな私…。
さて、まずは本書の目次を紹介した上で、印象に残ったエッセイについてつらつらと感想を書いてみます。
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献辞
はじめに
今日からタバコをやめられる―でなくても禁煙をやめられる
愛ってなんぼのものであるか？＜会議主義的恋愛論＞
わたしのプロフィール
人間を定義するのは不可能である
あなたも今日から老化が楽しめる
汝みずからを笑え
あなたも今日からワープロが好きになる
洗濯の概念＜大きい顔をされないための概念分析＞
わたしはこうして健康に打ち勝った
女性をとことん賛美する＜超好意的女性論序説＞
女性にも欠点はある
学生との対話
健康診断の論理と心理
デタラメな日本紹介記事に抗議する
人気教授になる方法
何も考えないで楽しく生きる方法
「ふみの恩返し」―解説に代えて― 柴門ふみ
実は、本書より先に、続編の『われ大いに笑う、ゆえにわれ笑う』を読んでいます（そのときはばたばたしていた時期で、感想を書けないままになっていました）。本書が、私にとっては二度目の土屋先生のエッセイですが、独特のユーモアのセンスです。ものすごい深読みというか、デカルト的に全てを疑ってかかっておられるというか…（そういえるほど私はデカルトの哲学を理解できているわけではありませんが…）。そういえばタイトルもデカルトの言葉のもじりですね。
「助手との対話」「学生との対話」は、助手や学生の正論（？）と土屋先生の理屈（？）のギャップが楽しいです。
これは楽しいと思ったのは、「愛ってなんぼのものであるか」です。まず、人の見た目によって、同じような性質（性格）であっても評価が変わると論じたあと、見た目と評価の対照表が掲げられています。たとえば、外見の良い男は「決断力がある」なのに、外見の悪い男は「軽率な」。外見の良い男が「ファッションのセンスがいい」であっても、外見の悪い男は「かっこばかり気をつかう」。などなど、この表だけでも楽しいです。
そしてもう一つ表があって、それは、男性に求められる内面的性格と、女性がそれを求めるほんとうの理由（？）の対応表です。たとえば、「気前がよい」の裏には、「わたしのためにお金を使ってくれる」、という気持ちがあるという…。こちらの表も楽しいです。
「あなたも今日から老化が楽しめる」は、表現を変えるだけでこうも印象が変わるのか、と面白い表現が満載です。たとえば、「若さを失う」。失う、は貴重なものをなくしてしまうというニュアンスがあるので、「若さを失う」というのはネガティブな表現になります。これに対して、より中立的な（？）表現として、（反転） 若さから解放される、老いを獲得する （ここまで）などが提案されています。
「涙の満腹」は、単純に笑える話ですね。続編の餃子の話も面白いですが、土屋先生の飲食店ネタは楽しいです。こちらでは、なかなか注文を取りに来てくれない、自分が注文した品がなかなかこないというところから始まって、最後は注文品に具を入れ忘れられたことについて語られます。
「デタラメな日本紹介記事に抗議する」は、私は裏返しの日本人のある種の性質批判として読みました。かたちとしては、日本人にはなじみのないある国が、偏見に満ちた日本人論を書いているので、怒りをもってそれを邦訳して紹介します、という体裁になっています。が、鋭い日本人論が織り込まれているように思います。
その中の教育の項目で、特に納得した二箇所を、文字色を反転して引用しておきます。
「 最近では主体性や個性を重視する教育が叫ばれているが、実際には、ほんとうに個性的な人間や主体的な人間がいたら、「自分勝手な人間」とか「協調性のない人間」として排斥されるだろう 」
「 […]中には自分からはっきり悪人だと主張しない者もいて、そのような人の犯罪が毎日のようにニュースで全国に報じられている。ニュースによるとほとんどの犯罪は、政治家、医者、警官、実業家によってなされている。これらはほとんど一流の教育を受けた人々なのである。日本の教育がどんな人間を作っているか、これでも分かるであろう 」
最後の、「何も考えないで楽しく生きる方法」は、タイトルと裏腹に、本書の中でも一番哲学的な、勉強になるエッセイでした。
そして、柴門ふみさんによる解説が素敵でした。ちょっとした回想録なのですが、軽く目がうるんできたのでした。
『われ大いに笑う、ゆえにわれ笑う』も、また再読した際に記事を書きたいと思います。
(2009/06/24読了)
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