心のポテトサラダ

2006/10/14
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「FINE DAYS」 本多孝好 祥伝社文庫 ★★

本多さんの作品を読むのは初めてですが、底辺に流れているメッセージというか考え方に、何か波長が合う感じがします。
市川拓司さんの世界に似ている感じがしますが、本多さんは、チラッチラッと自分の考えや生き方のメッセージを登場人物の口を通して表に出している感じがします。

役者が、どんな役をしようとも変わらない本人の味があるように、作家がどんな作品を書こうと、変わらないものが透けて見えます。
作家は、いろんな体験や想像を頭の中で組み立てて、言葉で表現する作業ですから、どうしても自分の心が乗ってしまいます。

『イエスタデイズ』。
三男である主人公は、小さな頃からそりが合わない父の元から出て一人暮らしをしている。そこに父から連絡が入る。
「おまえに頼みたいことがある」。

して欲しい。
俺の女神。
どうやら私との間に子供が出来ていたらしい。
その女性とその子が経済的に困っているなら役に立ちたい。
幸せならそっとしておいて欲しい」。

父からの最初で最後になるであろう頼みに答えるべく、かつて父とその女性が暮らしていたと言うアパートを訪ねると、そこには若き日の父とその女性が暮らしていた。
そこには、当時絵を画いていた父から、手がかりにと預かったスケッチブックがあった。
そして、切り詰めた生活をしていたが幸せな2人が、突然の祖父の死で若き父が実家のレストランを引き継ぐという、2人にとって大切な時期だった。

主人公は、その女性にとても惹かれ、実家の戻ろうとする父に反対する。
それによるこの2人の結末を知っている・・・でもそれ以上反対しなかった。
出来なかった。以下引用です。


「顔を見に寄っただけなんだ。これから、ちょっと人と会わなきゃいけなくて」
「誰?」と彼女が聞いた。
「新しく入ってもらおうと思っているコックさん。引き抜きの条件交渉。腕はいいんだけど、結構、がめつい人でさ」
「そう。大変ね」
「たく、うんざりするよ。腕のいいコックなしでもやっていける手を何か考えるよ」


「うまくいかないと思う」
「え?」僕は聞き返した。
「私も、うまくいかないと思う」僕に目を向け、彼女はゆっくりと繰り返した。
「彼にレストランなんて無理。ううん、もちろん、うまくいくんだったら、それが一番いいんだけど、でも、やっぱり無理だと思う」
「それなら、どうして彼を止めないんだ?君の言うことなら、彼だって聞くかもしれないのに」

「彼を好きだから」

彼女はすらりとそう言ってから、自分の言葉に照れたように笑った。
「私が好きな彼は、お父様のやり残したことを放り出して、逃げ出してしまえるような人じゃない。だから、止めない」
「それか、どんな残酷な結果になっても?」
「ええ」彼女はふわりと笑った。
「それがどんな結果になったとしても」僕の言った意味は彼女にはもちろん通じていないだろう。
けれど、僕はその笑顔に納得した。
たぶん、彼は彼女からこの笑顔を奪いたくなくて、この部屋を出ていったのだろう。
借金を返すために必死に働き、必死に店を大きくし、ふと見てみれば彼の手は、彼女を抱くには、汚れ過ぎてしまった。
「俺の、そう、女神です。」

それがどんな結果になっても、それを止めない。こういうのは理屈ではないと思う。
経済的な方策やら、係数なり、成功するための理屈はいくらでもあるが、でもそういう無機質なものが、人を成功に導くとは私には思えない。
人を動かしているのは、お金でも義務でも理屈でもない。
だって人は機械じゃないもの。
人は感情で動く、心が身体を動かす。
だから好きなものや守りたいものに対しては、数字では計れない力が出て、感情のない心で動いた行動は、数字は絵に画いた餅になる。

「彼が好きだから」の一言に凝縮されている愛情に、グッと来てしまいました。
たとえ破れても、私も一緒に背負ってあげるというメッセージと、好きな人の感情の行動に反対してもマイナスにしかならないという優しい気持ちを感じる。

親子や夫婦、家族というものは、そういうところで結びついているように思う。
「これをしたい」と言うのを、過去の自分の経験からうまく行かないと反対するより、好きにさせて、失敗した後「大丈夫」と言うのが家族のような気がする。
一番身近な家族に反対者を抱えるより、いずれ分かる時が来る反対せずに信じてくれた家族の大きな心こそ、世の中で最も大きな財産のような気がする。

『眠りのための温かい場所』には、『負の感情を向けられれば、誰だって相応の負の感情で対抗しょうとする。怒りには怒りを。悪意には悪意を。それができないとどうなるのだろうか。合理化できる大人ならいい。けれど、合理化できない子供は。抑え込まれた負の感情は、その子供の中で溜まっていってしまうのではないだろうか。天井から漏れた雨を受けるバケツのように。』

とあった。
本多さんが、どのような子供時代を送ってきたか知る由もないが、私が感じている親子の断絶や自傷行為、少年犯罪の多くの原因とピタリ一致している。
慶応卒で中学受験をしたようなので、私と同じような経験をしたのかもしれない。
私はそのときの経験で、息子達の中学受験の時、最も気をつけたのが、この『負の感情』。
子供達が日々の試験でうまく行かなかった時、親の負の感情ほど子供を傷つけるものはない。
最悪、最も大切な親との心の結びつきまで奪ってしまう。
そしてそれは生涯続いてしまう。

別の作品を読みたくなる作家でした。





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Last updated  2006/10/16 08:54:02 AM
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