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能登の手染め日記

Jan 9, 2024

墓守の独り言

(1)

カテゴリ：日々

※お墓の倒壊写真です。墓守の独り言なのでスルーしてください。17時59分　新潟県長岡市が震度5弱　震源地は佐渡　能登は震度4

家の裏山（丘）には先祖が仕えた地主の墓と先祖の墓と父母の墓が合計3基、向き合って並んで建っている。我が家が一番近いので、かつては自然のなりゆきで父が墓守をしていた。父が亡くなってからの30年は母が掃除をして、母が動けなくなってからは当然のように私が墓守を受け継いだ。

墓守は周囲の藪を鉈打ち払いヤブツバキの木を植え、崖を縛り、日向にコガネバナとヤシャブシという染料植物を植え、スイセンとシャクヤクの花が咲き揃う墓所にした。それから10年以上が経って日陰には絶滅危惧種のササユリと能登産のアカネの苗を育ててきた。

そして、2024年1月1日を迎えた

2基ともお墓の上部がズレて壊れた

固定してあった灯篭も大きく揺れて飛び散った

昨年のお墓詣りの写真

先祖のお墓

わが家のお墓もズレてしまった

かつての地主の3ｍを超す地元前波石の彫刻模様のある墓石は周囲5ｍに飛び散り、以前の地震に懲りてコンクリートで補強したのに石灯篭は2基とも原型をなくして倒れた。これまでの強烈な台風でも過去の地震でも無傷で乗り越えた墓石が、3基とも崩れ落ちたのが元旦の能登半島地震だった。

41年前に能登に帰省した墓守。父母の期待するような大人にも職業にも就けなかった不肖の息子が選んだ仕事は着物の染色だった。化学染料を使う染めから周囲の草木を試験染めして、この土地に根差した草木染めに進んだから、耕作放棄地にも墓所の丘にも染料植物を植えそれを活かそうとしてきた。

墓守は先祖に父母にこの土地に生きることの覚悟を、草木染めに託すと胸の内に誓ってきた。土地に根差した仕事にしたかったんだ。ようやく麻や木綿にもロウケツ染めや絞りの染めが実用化できる段階にきたが、まだ能登上布や縮緬に活かしきっていない！

まだ道半ばなのだ。ここで投げ出すわけにはいかない。皮肉にも自然の染めを自然の脅威によって止められた。そんな矛盾の中、あざなえる禍福の中でも、帰省してから数え切れないほど先祖の前で手を合わせた思い、途中で投げ出すわけにはいかないのだ。

71歳の墓守は、もう一度墓主と連絡をとって墓を直す・・・ちょっと時間はかかりそうだが。墓から工房をひと回り、使える染料を採取して能登上布に絞りとロウケツ模様の着物を染めあげる。これが墓守の最後の仕事だと、誓ったのだから。

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