仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2006.08.23
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カテゴリ: 雑感
以前に苗字と名字の違いに関心を持って整理したが、根本的には姓と苗字の相違の方が深い意味を持つようだ。日本の政治・社会制度のみならず、家産制度の歴史とも深く関係する。

以下は、坂田聡『苗字と名前の歴史』吉川弘文館 2006年 による。結構面白いことが書かれている。なお、「名字」の語はなく「苗字」だけが登場する。

1 姓
 そもそも姓(かばね)は、古代の氏(うじ)が氏名(うじな)のもとにつけた称号で、政治的社会的位置関係を示す。朝廷から氏名と姓を与えられ、一族が世襲。姓の例は臣(おみ)、連(むらじ)、君(きみ)、直(あたい)など。具体例で、蘇我大臣馬子は、蘇我が氏の名、大臣が姓。
 しかし律令の官位制度導入で平安時代には姓(かばね)も形骸化。姓もセイと読まれるようになり、姓が、氏の名と同義化する。
 国司として地方に下向した下級貴族が現地に定着することで、当地の氏の構成員(血族)がすべて、例えば藤原を名乗るようになる。このように、氏の構成員に広く共有され、承継された。
 そして、貴族の構成員ではない庶民も、荘園・公領の範囲で、庶民レベルで独自の氏を、あるいは擬似的に貴族の姓をまねて名乗っていたと思われる。

2 苗字
 苗字は、姓が一族の名であるのに対して、家の名である。現在日本人が名乗っているのは、家の名だから、苗字ということになる。

 南北朝内乱期以降、長男単独相続に移行したことで世代を超えて家産を承継する「家」組織が成立し、その呼称として確立し世襲されることとなる。一家に一つが本来の姿だから、同族でも別苗字が原則。現実には分家は同じ苗字を名乗る例も多いが、家名としては本質的に別もの。

3 姓と苗字
 現在、法制上は「氏」とされ、家の名前として認識されている(氏名が個人の名称だとか夫婦別姓の議論はあるが)。しかし由来をたどれば姓と苗字が現在にまで混在している。
 両者の違い(見分け方)を具体的に何点か。
(1)「の」が入るのが姓、入らないのが苗字
 源頼朝は、「みなもとのよりとも」と読むが、「の」を入れて読むのが姓。北条、足利、徳川、は苗字。秀吉の羽柴は苗字だが、豊臣は天皇から賜った姓で、「とよとみのひでよし」と読むべきとの説がある。
 現在も、藤原、菅原、大江など、姓の系譜を引く名が残るが、「の」を入れて読まないのは、明治8年の苗字必称令に伴い、苗字として古代の姓を起用したからとされる。
(2)下の名とのセット
 姓は実名(じつみょう)とセットになる。実名はおめでたい漢字二文字訓読が基本。藤原道長、源頼朝など。例えば、徳川家光も公文書では、「源家光」である。正式な儀式では、姓と実名を用いる風習は江戸時代にも残っていた。そもそも松平の苗字だった家康は源氏の新田義貞の一族得川氏にみずからの系譜を結びつけて源氏を名乗ることで、征夷大将軍となることができた。
 これに対し、苗字は字(あざな)と呼ばれる通称とセットになる。例えば、足利尊氏の場合、足利は苗字、尊氏は実名(じつみょう)だが、本来的には字(あざな)を用いて足利又太郎と呼んでいたと思われる。やがて姓と苗字の混在化で、苗字+実名で表記されるようになる。

4 江戸時代の庶民は苗字を持っていたか


5 名の呼び方(本名忌避の習俗)
 例えば義経は実名(じつみょう)だが、それを口にすることはめったになく、「九郎どの」「御曹司」と一般に呼んでいたと思われる。
 古来日本には、相手の名を実名(じつみょう)、あるいは本名(実名に限定せず広く本当の名前の意味)で呼ぶことを非礼とする習俗があった。このタブーの根底には本名が他人の口にのぼると支配されてしまうという感覚があり、文化人類学的にも世界各地にあるという。

 ■関連する過去の日記
  ○ 苗字と名字の違い





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最終更新日  2006.08.23 06:43:34
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