仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2010.02.21
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カテゴリ: 宮城
松島は扶桑第一の好風にして、凡そ洞庭西湖を恥じず。



そばだつものは天を指し、ふすものは波に匍匐(はらばう)。あるは二重に重なり三重に畳みて、左に分かれ右に連なる。松の緑こまやかに枝葉汐風に吹きたわめて、屈曲おのずからためたるがごとし。その気色よう然として美人の顔を粧ふ。ちはやぶる神の昔、大山つみのなせるわざにや。造化の天工、いずれの人か筆をふるい、詞(ことば)を尽くさむ。

この美しさはことばで言い表すことも出来ない。片雲の風に誘われ、道祖神に招かれて、おくの細道の先につぼの碑で涙し、松島を目にした感動の大きさを、現代に生きる私はどれだけ想像できるのだろうか。悠久の歴史の中に、漂泊する旅人に過ぎない身の上でも、せめて心に浮かぶ歌枕にこの身を置いて、歴史の一点に過ぎないこの目と心ではあるが、千古の遥かな想いや奥ゆかしさを語らせてもらいたい。山が崩れ、川が変わっても、揺らがぬ形が残っている碑を前にした感動は計り知れない。心に描いた松島に出会って、打ち震えもしたのだろう。

世界遺産登録断念のニュースがあった。私は、かえって良かったとすら思っている。松島の本質は何だろう。長い歴史の中で一時の人の相対評価に過ぎないレッテルや、或いは、多少の観光客が増加するかという俗な狙いなど、いずれ無理なことならば、さっぱりとあきらめればいい。絶対の美しさが、あるのだから。

芭蕉は心の旅の先に松島をめざし、直に目にした感動を素晴らしい文学に残してくれた。美しさが人を動かし、また、文物を通じて多くの人の心に映る。日本人の美意識の最高峰だ。そんな心の中の風景を温めながら、訪れる旅ならば、まさに観光の王道だ。私は西洋人の世界遺産のレッテルなどより、この上ない品格を与えてくれたものと思っている。

■関連する過去の記事
松島の世界遺産断念を考える (10年2月18日)

■参考
 土屋博映(ひろえい)『奥の細道が面白いほどわかる本』中経出版、2003年






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最終更新日  2010.02.21 17:38:15
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