仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2010.05.18
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カテゴリ: 東北
1 鎌倉幕府と安藤氏

平安時代後期までは、蝦夷をエミシと読み、主に東北地方の住民を呼称した。12世紀以後は、蝦夷をエゾと読むようになり、対象地域も東北から北海道へと変化し、アイヌ集団を示すようになる。その要因は、奥羽全域を支配するに至った奥州藤原氏が、院政期の国家によってエゾの統括者に位置づけられたことにある。

ところが、1189年(文治5年)藤原氏を滅ぼした鎌倉幕府は、藤原氏の地位を踏襲した上に、新たにエゾ(アイヌ)に対する支配権(東夷成敗権)を得る。そして、二代執権北条義時の代官を任じられたのが、津軽の豪族安藤氏である。鎌倉幕府は奥羽支配のため関東の有力御家人を派遣すると同時に、津軽・糠部地域に多くの北条氏所領を設けた。その中心が安藤氏である。

安藤氏はエゾと密接な関係を持つ系図を作成した豪族で、以前から海上交通で活躍していたが、鎌倉幕府の東夷成敗権を媒介に、夷島(えぞがしま、北海道)や津軽のエゾ居住地域全域の統括を担い、鎌倉末期には蝦夷管領と称された。

2 蒙古襲来とアイヌ蜂起

北九州の蒙古襲来に前後して、元がサハリンのアイヌを攻略していた。

「元史」によると、1264年、モンゴル支配下のギリヤークの居住地域をアイヌが侵していたことから、ギリヤークの要請に応えてフビライがサハリンに派兵してアイヌを征討した。この時期は、北海道のアイヌが日本社会の求める鷲羽、鷹、テン皮、アザラシ皮、オットセイの捕獲を目指してサハリンに進出していた時期で、ギリヤークとの抗争が続いていた。1308年にはアイヌが元軍に屈し、以後元に朝貢するようになる。

ところで、フビライのアイヌ攻略直後の1268年には、エゾの蜂起により安藤五郎が首を取られる事件がある。フビライのアイヌ攻略が、アイヌとの交易権を掌握した津軽安藤氏にも影響を与えていたものと考えられる。

3 日の本将軍



日の本(ひのもと)は、もとは日高見と同様に東の意味で、古代には陸奥の国のうち現在の岩手県辺りを指していたが、次第に北上し、中世には国家の境界と認識されていた外ケ浜あたりを指すようになる。15世紀には更に北上して、外ケ浜と夷島を含んだ地域、特に夷島を意識した地域概念になる。

また、将軍は本来天皇から任命された追討将軍の称号であるから、「日の本将軍」とは、通称であったとしても、古代の鎮守府将軍にも比すべき「蝦夷征討将軍」を意味し、夷島の軍事支配権を持つことを意味した。

中世後期の語り物である「さんせう(山椒)太夫」では、安寿と厨子王の父が「奥州日の本の将軍、岩城の判官正氏」と記される。越後の直江津を中心に、夷島から丹後に至る日本海を舞台に各地をさすらう物語であるが、実際に日本海を行き交った人々によって語られたもので、下国津軽安藤氏のイメージが物語中の日の本将軍に投影されたと考えられている。

4 夷島に逃れる安藤氏

得宗領を管理し、夷島(えぞがしま、北海道)とアイヌの支配権を与えられた津軽安藤氏は、津軽と糠部郡を支配し、北方世界に君臨したが、糠部の南部氏の成長により影響を受ける。

南部氏は、南北朝の争乱を南朝方についてくぐり抜け、14世紀半ば以降は三戸南部氏が八戸南部氏に代わり宗家の地域を得る。

南部氏の支配した糠部郡は一般の郡と異なる特別行政区で、広さも一国に匹敵する。藤原氏の時代には九戸四門を設置し、中世には駿馬を産し、北部にはアイヌも居住する地域である。地域の中央を拠点とした八戸南部氏は、南部一族の宗家三戸南部氏の配下にありつつも、上北、陸奥湾にまで支配を及ぼし独立した立場を維持していた。15世紀半ばまでには、津軽安藤氏の支配した宇曽利郷(下北)一帯を支配し、さらに日本海川の津軽地域に侵入し、永享4年(1432年)には下国安藤氏の拠点である十三湊を攻撃に至る。このため、下国安藤氏は、エソカ島(「満済准后日記」)に逃れる。

幕府は、北奥・夷島の支配と海運掌握のため、南部氏に対して下国安藤氏との和睦のための使者を派遣した。南部氏も最終的に調停策を受け入れ、下国安藤氏は十三湊に復帰するが、嘉吉2年(1442年)再び南部氏に攻められて十三湊を放棄、小泊に逃れた後、翌年夷島に渡る。

参考:一戸富士雄・榎森進『これならわかる東北の歴史Q&A』大月書店、2008年

■関連する過去の記事
日の本(ひのもと)将軍の安藤氏
(今回の記事は、前回の記事の部分を含めて拡張しています。)





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最終更新日  2010.05.18 06:01:08
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