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髭黒の北の方は、動こうとしない真木柱の姫を宥めたり諭したりなさいます。
真木柱は髭黒の父君が「今にもお帰りになるのでは」とお待ち申し上げるのですが、その甲斐もなくすっかり日が暮れてしまい、もうお帰りにならないことは明らかです。
「つねによりゐ給ふ東おもての柱を、人にゆづる心ちし給ふも、あはれにて、ひめ君、檜皮色の紙のかさね、たゞ、いさゝかに書きて、柱の干割れたるはざまに、笄(かうがい)の先して、押し入れ給ふ」
姫君は、いつも寄りかかっておいでだった東面の柱を眺め、ご自分が去った後どんな人が寄りかかるのであろうかと思うと、お胸がいっぱいになって泣きながら、檜皮色の紙の重ねたものにほんの少しばかりお歌を書いて、その柱の割れた隙間に笄の先で押し込みました。
今はとて 宿離れぬとも 慣れきつる 真木の柱は 我を忘るな
今はもうこれまでと、住み慣れたこの屋敷を離れることになったけれど、今まで慣れ親しんできた真木の柱は、私がここに住んでいたことを、どうか忘れないでね。
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割れた柱の隙間に御文を差し込むところに、秘密めいたような、真木柱の姫の子供っぽい可愛らしさを感じるのです。