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かくて中君恋しさに、
『中君には安心してもらえる後ろ見に徹しよう』
との思いには従わず、むしろ以前よりは細々と、
ともすれば堪えきれない気持ちを見せながら、
せっせとお文を差し上げるのでした。
されど中君は『困ったことになってしまった』と、思い嘆くのでした。
『まったく見も知らぬ人ならば取り合うこともなく放っておくところだけれど、
昔から他の男とは違う頼もしい人と思い込んできて、
今更仲たがいするのもバツの悪いことでしょう。
懸想されるのはさすがに困るけれど、中納言の心遣いやお振舞いの有難さを、
私はよく知っている。
さりとて気持ちが通じ合っているように応対するのは慎むべきことでしょうし、
私はどんなふうに振る舞ったらいいのかしら』
と、あれこれ思い乱れていらっしゃいます。
相談できそうな若い女房たちはみな中納言に通じているように思えますし、
見慣れた人と言えば宇治の山里から来た古女房しかおりません。
中君の思いを察して親しく話せる人のないまま、
故・大君を懐かしく思い出さぬ日はないのでした。
『姉上がご存命でいらしたなら、
中納言もきっと私への懸想などなさらなかったでしょうに』
と、ひどく悲しくて宮の冷淡な態度に対する嘆きより、
苦しく思うのでした。
宮がご不在の物静かな夕暮れに二条院に起こしになりました。
中君は簀の子の間に御茵を差し出させて、
「ひどく気分が悪うございますので、お話相手ができかねまする」
と、女房を介して仰せになります。
それを聞くにつけても中納言はひどく辛くて涙がこぼれそうになります。
人目がありますので強いて紛らわせて、
「ご気分がすぐれないとしましても、
祈祷の僧などはお傍近くに参りますでしょうし、
医者にしても御簾の内に伺候するではありませんか。
こんな遠くにいて女房が取次する対応では、参上した甲斐がございませぬ」
と申し上げて、ひどく不愉快そうなご様子でいらっしゃいますので、
先夜のお二方の親し気なご様子を見ていた女房たちは、
「ほんに中納言様のおっしゃる通りですわ」
「御簾の外では失礼というもの」
とて、夜居の僧が祈祷する席に中納言を入れ奉るのでした。
中君はつわりで本当に苦しいのですが、女房たちの言うとおり
『今までとあまりに違う対応をするのもいかがなものか』と遠慮されて、
気が進まないものの少しいざり出て、簾越しに対面なさいます。