全2件 (2件中 1-2件目)
1
かくて中君恋しさに、『中君には安心してもらえる後ろ見に徹しよう』との思いには従わず、むしろ以前よりは細々と、ともすれば堪えきれない気持ちを見せながら、せっせとお文を差し上げるのでした。されど中君は『困ったことになってしまった』と、思い嘆くのでした。『まったく見も知らぬ人ならば取り合うこともなく放っておくところだけれど、昔から他の男とは違う頼もしい人と思い込んできて、今更仲たがいするのもバツの悪いことでしょう。懸想されるのはさすがに困るけれど、中納言の心遣いやお振舞いの有難さを、私はよく知っている。さりとて気持ちが通じ合っているように応対するのは慎むべきことでしょうし、私はどんなふうに振る舞ったらいいのかしら』と、あれこれ思い乱れていらっしゃいます。相談できそうな若い女房たちはみな中納言に通じているように思えますし、見慣れた人と言えば宇治の山里から来た古女房しかおりません。中君の思いを察して親しく話せる人のないまま、故・大君を懐かしく思い出さぬ日はないのでした。『姉上がご存命でいらしたなら、中納言もきっと私への懸想などなさらなかったでしょうに』と、ひどく悲しくて宮の冷淡な態度に対する嘆きより、苦しく思うのでした。中納言も中君恋しさに、宮がご不在の物静かな夕暮れに二条院に起こしになりました。中君は簀の子の間に御茵を差し出させて、「ひどく気分が悪うございますので、お話相手ができかねまする」と、女房を介して仰せになります。それを聞くにつけても中納言はひどく辛くて涙がこぼれそうになります。人目がありますので強いて紛らわせて、「ご気分がすぐれないとしましても、祈祷の僧などはお傍近くに参りますでしょうし、医者にしても御簾の内に伺候するではありませんか。こんな遠くにいて女房が取次する対応では、参上した甲斐がございませぬ」と申し上げて、ひどく不愉快そうなご様子でいらっしゃいますので、先夜のお二方の親し気なご様子を見ていた女房たちは、「ほんに中納言様のおっしゃる通りですわ」「御簾の外では失礼というもの」とて、夜居の僧が祈祷する席に中納言を入れ奉るのでした。中君はつわりで本当に苦しいのですが、女房たちの言うとおり『今までとあまりに違う対応をするのもいかがなものか』と遠慮されて、気が進まないものの少しいざり出て、簾越しに対面なさいます。
April 28, 2025
大輔の君はそれを中君のお目にかけたりしないのです。以前からこのような贈り物は常のことで改まって返礼などすることでもなく、これをどうするべきかなど考えもせず女房たちの前に広げましたので、それぞれ気に入ったものを自分のものとしています。中君に近くお仕えする女房たちは特に着飾る必要があります。けれども、ひどく着古してよれよれの衣を纏っている下仕えどもは、白い袷などで目立たないものの方が反って見やすいのです。このように細やかな心遣いをして中君の後見をしてくださる人が、中納言の他にいるでしょうか。もちろん宮は並々ならぬご情愛のほどで中君を大切にお世話しようとお思いなのですが、細かな生活のことまでは思い寄らないのでした。皇子でいらっしゃいますから大切にかしづかれることに慣れておいでで、世の中で貧しい暮らしがいかに不如意で物寂しいことか、ということをご存じないのはお道理なのでした。何とない寒さを苦労と思い、花の露を味わいながらこの世を過ごすべきものと思うよりはまだ、恋しく思う中君のためならば、必要な折節につけて細やかなご配慮をしてくださることは、珍しく、ありがたいことではあるのでしょう。しかしそれを、「宮さまがそこまでお世話なさるのはどんなものか」など非難がましげに言う御乳母もいるのでした。中君にお仕えする女の童でみっともない見なりをしているのが時々おりますので、中君はとても恥ずかしく、『二条院は私のような者には住みにくいところだわ』と、みじめさを覚えることがありますのに、ましてこの頃は世に評判の六条院の華やかさに比べますと、宮の内の人々がどんなにみずぼらしく思うだろうと思い乱れることがあって嘆かわしく、それを中納言の君がよく推し量って、『親しくない所にはありきたりでいいとしても、中君に対しては、侮るわけではないけれど、大げさに仕立てたような顔をして贈ると反って不審に思う人がいるかもしれぬ』と、心遣いなさったのでした。この度も又いつものように気の利いた衣装などを整えられ、中君のためには御小袿のための綾などを織らせ、女房たちにも生絹を贈るのでした。中納言の君も匂宮に劣らず格別大切にかしづき育てられましたので、傍から見ても尊大に振る舞い、世の中を悟りきったように超然とした態度で、高貴なご気質はこの上ないのでしたけれども、宇治の故・八宮の質素な御山住みをご覧になってから、『侘しい住まいの哀れさは格別であったことよ』とお気の毒におぼされて、その頃から世の中を思いめぐらし、深い同情の心を抱くようになったのでした。さてもたいそう勿体ない感化を受けたものでございます。
April 25, 2025
全2件 (2件中 1-2件目)
1