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やっと起き出で給うた姫は、濃い鈍色のなよなよとした喪服を着て、
あどけなくにこにこしていらっしゃるのです。
姫は君が東の対にお渡りになる間に出ていらっしゃって、
庭の木立や池の方を御簾越しに覗いてご覧になります。
暇なく出入りしているのが見えるので、
『ほんとうに、面白いところだわ』
と、お思いになります。
御屏風などに描かれた面白い絵などを眺めるうち
気が紛れておいでになるのが、いかにも幼いのです。
源氏の君は二三日参内もなさらず、この姫にかかりきりでいらっしゃいます。
君はこのまま手本にでもしようとお思いなのでしょうか、
手習いや絵などをさまざまにお描きになって、姫にお見せになるのです。
字も絵も、たいそう趣あるように書いて集めていらっしゃいます。
「武蔵野といへばかこたれぬ」と、紫の紙に書き給うた特にうつくしい筆跡を手にとって、
姫はじっと見ていらっしゃいます。そこには少し小さな文字で、
「ねは見ねど あはれとぞ思ふ武蔵野の 露わけわぶる 草のゆかりを
(まだ供寝はしていないけれど、とても愛しく思われます。
武蔵野の露をかき分けてもお逢いできない紫草のゆかりである姫の事を)」
と、書いてあります。