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「さあ、あなたも書いてご覧なさい」
源氏の君がお勧めになりますと、「まだ、よく書けないの」と見上げていらっしゃる様子が、
本当に無邪気で可愛らしいので、つい微笑んでおいでなのです。
「上手に書けないからといって全く書かないのは、よくありませんよ。
私が教えてあげましょうね」
と、仰せになりますと、ちょっと横を向いて書き給うのです。
手つきや筆をお取りになる様子が幼げなのですが、それを心から可愛らしいとお思いになるのも、
我が心ながら不思議なお気持ちなのです。
「書き損ねちゃった」
と、恥ずかしがって隠し給うのを無理に取ってご覧になりますと、
「かこつべき 故を知らねばおぼつかな いかなる草の ゆかりなるらん
(こんなふうにしてくださる理由は、どこにあるのかしら。
どのような草のゆかりがあるのか分からなくて、何だか不安......)
と、書きぶりはまだ子どもっぽいのですが、これからの上達が見えるように
ふっくらと書いていらっしゃるのです。亡き尼君の古風な字に似ていました。
『当世風の手本を習ったなら、きっとたいそう上達なさることだろう』と、ご覧になります。
お人形などは、わざわざ御殿などをたくさん作り、ご一緒にお遊びになります。
それが恋しい藤壺の宮への物思いの、よき気晴らしになるのでした。