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長い間、困窮した暮らしに嘆きながらも、離れたことのない人が、
こうして去ってしまったことをひどく心細くお思いになります。
どこからも雇われそうにもない老女房までが、
「さてさて、侍従が行ってしまうのも道理ですよ。
若い女房がどうしてこんなお邸に居残りなさるでしょう。
私たちだって、こんな所でいつまで我慢し通すことができるものやら」
と、それぞれに応じた縁故を思い出しては出て行くことを話していますので、
末摘花の君は体裁の悪い、肩身の狭い思いでお聞きになります。
霜月になりますと雪や霰がちで、それが消える間もあるのですが、
朝日夕日を遮る蓬や葎の下に深く積もりますので、
雪の消える時がないという越の白山を思わせるほどです。
出入りするような下人もなく、末摘花の君はひっそりとお庭を眺めていらっしゃいます。
ちょっとしたお話でお慰め申し上げ、共に泣いたり笑ったりし
つれづれを紛らわしてくれた侍従も今はなく、
夜は埃にまみれた御帳台の内にお寝みになっても、寂しくもの悲しくお思いになります。
かの二条院では、源氏の君が帰京なさったという喜びに大騒ぎのおん有様で、
それほど大切にお思いにならない女君の所々には、わざわざご訪問なさいません。
まして末摘花の君のことなど、まだこの世に生きていらっしゃるかしらと
お思い出しになる折もあるのですが、ご訪問なさるほどではなく、
呑気にしていらっしゃるうちに年も変わってしまいました。
卯月には花散里をお思い出しになります。
対の上にご挨拶を申し上げて、こっそりとお出かけになります。
日ごろ振り続く長雨の余韻がぱらぱらと降り注ぎ、うつくしい月がさし出ました。
はなやかに風情のある夕月夜で、
昔のお忍び歩きやら様々なことを思い出していらっしゃいますと、
見る影もなく荒れ果てた家の、木立が森のように繁っている所をお通りになります。