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二条東の院を新築なさり、花散里と申し上げる御方をお移しになります。
西の対には渡殿をかけて、政所には家司を置くなど、しかるべき様に配置なさいます。
東の対には明石の御方を、と考えていらっしゃいます。
北の対は格別広くお造りになります。
そこには仮初にでも愛しくお思いになり、
行く末をかけてお約束なさった女君達が集い住むようにと、
幾つかに区切ってお部屋を拵えていらして、心惹かれるような見どころがあって、
こまやかに配慮されています。
寝殿は普段お使いにならず、源氏の大臣が時々東の院にお渡りになる折の
お休み所のようにして、調度もそのように調えさせます。
明石の女君への御消息文は絶えることなくあって、姫が生まれたからには
上洛するべきことを仰せになるのですが、
明石の女君は身分の低いことを十分知っていますので
『この上ない高貴な御身分の女君でも中途半端なお扱いを受けて
物思いに苦しむと聞くのに、まして世間から認められてもいない私など、
どうして都の貴婦人たちと付き合うことができましょう。
姫君の不面目として、わが身の賤しさが世間に知れ渡るだけのこと。
人目を忍んで稀にお渡りくださる機会を待つばかりでは、世間の人の笑い者だわ。
何と屈辱的なことでしょう』
と思い乱れるのですが、
かといって源氏の君の姫君ともあろう御方が、明石のような田舎でお育ちになり、
世間から認められないのもひどく哀れですので、
源氏の大臣の仰せに全く応じないというわけにもいかず、
親たちも明石の女君の思いを『ほんに尤もなこと』と思い嘆くのですが、
思案も尽きてしまいました。