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ひどく暑い日、源氏の大殿は六条院の東の釣り殿にお出ましになって
涼んでいらっしゃいます。
ご子息の中将の君もお供なさいます。
そこへ親しい殿上人が大勢お集まりになって、
西河の鮎と、近い川からはかじかのような物をたてまつり、
御前で調理して持って参ります。
内大臣のご子息たちが中将を訪ねて、釣り殿においでになりました。源氏の大殿は
「所在なくてうとうとしていました。ちょうど良いところへいらした」
とて、皆で大御酒をお召し上がりになります。
氷水を召して銘々が水飯など賑やかに食べます。
風はたいそう気持よく吹くのですが、雲ひとつない空に西日が射すと、
蝉の声がひどく暑苦しそうに聞こえますので、
「今日の暑さでは、水の上にいても少しも涼しくありませんね。
失礼をお許し戴きましょう」
と物に寄り臥していらっしゃいます。
「こんなに暑いと管弦の遊びも気乗りがしませんし、
そうかといって日がな何もせずに暮らすのも耐え難い。
宮仕えする若い人たちは直衣の紐も解かず、たまらないでしょうね。
せめてここだけでも気楽に寛いで、世の中であった珍しい事でも話してくださると、
眠気も覚めるというものです。
近頃では私も何となく年をとったような気持ちがして、どうも世事に疎くなりまして」
と仰せになるのですが、お聞かせ申すほどの「珍事」など急には思いつきませんので、
君達はかしこまった様子でみな涼しい勾欄に背中を押しつけたまま黙っています。