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この巻では玉鬘を中心に大宮の死の暗示と、
姉弟でない事を知った夕霧の間抜けな告白、
玉鬘への求婚者・髭黒大将と紫の上が姻戚関係にある事などが述べられる。
私は玉鬘が兵部卿の宮に贈った返歌に
奥ゆかしい愛情がこめられていて「いいな」と思った。
「心もて 光にむかふ あふひだに 朝おく霜を おのれやは消つ」
この歌は
「自らの意思で光の方へ向く向日葵でさえも、
朝置かれた霜を自らの意思で消すことはいたしませんわ」という意味なのだが、
その奥には「まして私は自分の意思で出仕するのではございませんもの。
あなたさまが私の心に置かれたご情愛を忘れたりいたしましょうか」
という切ない想いが秘められている。
こういう奥ゆかしい歌に出会う時、私は「いいなぁ」と思ってしまう。
そして源氏物語が歌物語であることを実感させられる。
ただ読むだけでは「なるほど」程度なのだが、
読んで解釈しそれを記述することによって、
つまり手間暇かけることによってより慈しむことができるのだ。
源氏に弄ばれ、心を寄せる兵部卿の宮とは結ばれず、
実父・内大臣からの庇護薄い玉鬘は、
この後、一番嫌いなむくつけき髭黒大将にさらわれてしまう。
『人生は、何事もうまくいかないものだ』と、作者が言っているような事件である。
暫くは己が不幸を嘆き暮らすのだが、現実処理のうまい利発な彼女は、
その不運ともうまく折り合いをつけて生きて行く。
私はそんな玉鬘の健気でしなやかな性格を好ましく思うのだ。
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