PR
カレンダー
キーワードサーチ
明石の姫君入内の準備中にも、
宰相の中将はもの思いがちでぼんやりしていらっしゃいます。
『考えてみれば我ながら執念深いな。
こんなに姫君を思っているのだから、関守だってお許しになるはずなのに。
内大臣殿も心の中では折れていらっしゃるようだから、
その時が来るまで待つ事にしよう』
と我慢なさるのも苦しくて、思い乱れていらっしゃるのです。
女君の方でも父・内大臣殿がそれとなくお話しになった中務宮の姫君とのご縁談を、
『もしもそれが本当なら、私を諦めたことになるわ』
と悲しいのです。
長い間離ればなれでいながらも
不思議に心が通じ合う両思いのお二方でいらっしゃるのでした。
内大臣殿もかつてはあんなに強がっていらしたものの、今ではすっかり困り果てて、
『中務の宮が婿にとお決めになったならば、
また新たな婿選びに頭を悩ますことになろう。
それでは相手が気の毒だし、こちらも人嗤われになってみっともない事になろう。
今更隠したところで、二人の関係はすでに世に知られているではないか。
この際こちらが折れて、中将を婿に迎えるしか方法はなかろう』
と、決心なさいました。
態度には表さないのですが、内大臣と宰相の中将は
心中恨み合っていらっしゃる仲ですので、
『いきなり申し出るのもいかがなものか。今までの恨みを解くために、
わざわざ座を設けるのは馬鹿らしい。何とか良い機会がないものか』
と考慮なさるうち、三月二十日は内大臣殿の母・大宮の御忌日ですので、
極楽寺に墓参りなさいます。