私訳・源氏物語

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佐久耶此花4989

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September 12, 2016
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カテゴリ: 源氏物語
持仏堂になる御帳台の飾り付けが整いまして、講師が参上します。
行道する公卿や殿上人もお集まりでした。

大殿が席に御着きになろうとして
宮さまのおいでになる西の廂の間をお覗きになりますと、
狭い仮のしつらいに、暑苦しいほど大げさな衣装を着た女房が、
五、六十人ばかり集まっています。

北の廂の簀の子まであふれて、居場所のない女童などはうろうろしています。

火取り香炉があちらこちらにたくさん置いてあり、
扇で仰ぎ散らして煙たいほどですので、香炉の側にお寄りになって、

「香を焚くときは、どこから匂うのか分からないくらいがよろしいのです。
辺りがかすむほどくゆらせては風情がありませんよ。
説法の時は心を鎮めて、ゆったりとした気持ちで耳を傾けるべきですから、
無遠慮な衣擦れの音や身動きを控えるのがよろしいでしょう」

など、思慮分別の浅い若い女房たちに心構えをお教えになります。

女三宮は人混みの中でたいそう小さく可憐なご様子で、
物に寄りかかっていらっしゃいます。

「若君を、あちらへ連れていらっしゃい」

そうして母屋の北の御障子を取り払って御簾をかけ、
女房たちをそちらにお入れになります。

周りの人を鎮めて、宮にも心得をお教えになりますのは、
しみじみとして哀れなのです。

宮が御座をお譲りになった御仏のしつらいをご覧になりますと、
さまざまな思いがこみ上げて参りますので、

「こうした仏事供養を、
こんなに早くあなたさまと営むことになりますとは思いもしませんでした。
今生では私をお疎みになられましても、
蓮の花の宿りではお心隔てなさいませぬよう」

と、お泣きになります。

「はちす葉を おなじうてなと契りおきて 露のわかるゝ けふぞかなしき

(あなたさまとはあの世での一蓮托生をお約束いたしましたが、
今日こそ夫婦としてのお別れと思いますと、とても悲しゅうございます)」

と、硯にお筆を濡らして尼宮の丁子染めの御扇にお書付けになりました。宮は、

「へだてなく はちすの宿をちぎりても 君が心や 住まじとすらん

(お心隔てのない蓮のお宿と仰せでいらっしゃいますが、
あなたさまのお心は同じ蓮の台にはお住まいにならないと存じます)」

とお返事をお書きになります。大殿は、

「身もふたもないことをおっしゃるのですね」

とお笑いになりながらも、
やはりしみじみと物思いに沈んでいらっしゃいます。

今日は幼い皇子たちも大勢参集なさいました。

六条院の夫人たちからは我も我もと競争なさるように
みごとなお供物が届けられまして、置き場所がないほどです。

七僧の法服や布施など大方の事は、みな紫の上が用意をなさいました。

どれもこれも綾の仕立てで、縫い方を見てわかる人は袈裟の縫い目までが
『今まで見たことがないほどみごとだ』と、褒めたとか。

縫い目まで批評するとは、うるさい人がいるものでございます。





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最終更新日  September 12, 2016 05:38:48 PM
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