読書の部屋からこんにちは!

読書の部屋からこんにちは!

2009.06.11
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カテゴリ: 小説
「猫を抱いて象と泳ぐ」という風変わりなタイトルが、読み終わった今は、これしかない、これ以上この感動を表すタイトルはない。という確信になりました。

少年とチェスの物語に、少年のくちびるや、壁にはさまれて出られなくなったミイラや、回送バスの中のケーキの香りをからめながら、ひたすらチェスの海に漂い進められます。
特に、くちびるがくっついて開かないという障害を持って生まれた少年に、祖母が語った話が秀逸です。
「きっと他のところに特別手をかけて下さって、それで最後、唇を切り離すのが間に合わなくなったんじゃないだろうか。」
「目か耳か喉か、とにかくどこかに、普通の人にはない特別な仕掛けを施してくださったのさ。きっとそうだ。間違いない」
「それを見つけ出して生かすのは、神様じゃない、お前だよ。(略)ああ、お前が大きくなるのが、おばあちゃんは楽しみでならないよ。」
そう言って少年を祝福してくれたおばあちゃんは、チェスを知らないのにもかかわらず、少年のチェスのゲームを見、その美しさに感動しながら亡くなっていくのです。

そう。チェスの物語なのに、読み手はチェスのことを何も知らなくても大丈夫。ちゃんと感動できるようにできているのは、小川洋子さんのお手柄です。


ちょうど博士が、数式の中に美しいものを見つけることができたように。
すると、ひょっとしたら他の何かの中にも、詩や音楽や美しいものがひそんでいて、誰かがそれを見つけてくれるのを待っているのかもしれない。
ビルの掃除係が磨く床に、飼育係が刻むエサに、新幹線の運転席に、ありとあらゆる物に、神に選ばれた人にしか見えない美しい詩があるとしたら・・・
そして何より、小川洋子さんは文章を書くことの中に、詩や音楽や美しいものをしっかり見つめているのだろうと、思います。



ただ交代に駒を動かすだけのゲーム。
たったそれだけの行為を表現するのに繰り広げられる、小川洋子さんの言葉の奥深さ。豊かさ。
「堪能」「酩酊」状態です。





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Last updated  2009.06.12 15:31:42
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