プレリュード

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2007年11月04日
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閑話休題 」  内田吐夢の映像の素晴らしさ~「人生劇場 飛車角と吉良常」

内田吐夢

戦後東映映画で監督として活躍した内田吐夢。 戦前から男っぽい映画を手掛けてきた職人肌の監督。 昭和20年に満州に渡りそこで映画製作を夢見たが、日本の敗戦により挫折。 それでも何故か帰国の途につかず、その理由は今でも謎とされている。

彼が帰国したのは昭和28年になってからで、帰国後に撮ったのが片岡千恵蔵主演の「血槍富士」。 彼が撮った映画は骨太で男っぽい主人公という図式があちました。

東映で花咲いたのが「大菩薩峠 3部作」(片岡千恵蔵・中村錦之助主演)。 中里介山の未完の時代劇小説を完全映像化した最初の監督。 それが1957年(第一部)でこの映画が封切りされたときは、私は中学1年生で叔父に連れられて映画館の客席で観ました。

剣鬼・机 龍之介の数奇な運命と「因果応報」的な仏教的教えに導かれた原作を見事な映像美で描いた秀逸な時代劇映画でした。

大菩薩峠

そして内田吐夢の名を決定的にしたのが村上 勉の小説「飢餓海峡」を映像にした映画「飢餓海峡」でした。 部落民差別から逃れるために殺人を犯し、「洞爺丸」沈没事故で自分を抹殺してまでのし上がった犯人を、伴 淳三郎・高倉 健の刑事が追い詰める執念の刑事サスペンスで、津軽海峡の荒海を見ながら犯人を追う伴 淳三郎の凄まじい執念を荒波で表現したシーンは名場面とも評された映画でした。

飢餓海峡



宮本武蔵

その内田吐夢が監督として初めてメガホンを持った「やくざ映画」が、尾崎士朗原作の「人生劇場 飛車角と吉良常」でした。 戦前にも「人生劇場」を撮っていたそうですが、主人公青成瓢吉を軸とした映画だったそうで、「やくざ映画」ではなかったそうです。

私の学生時代は日本映画は「任侠路線」と呼ばれ、東映も日活・大映も「やくざ映画」全盛の時代でよく見ました。高倉 健の「唐獅子牡丹」、鶴田浩二の「博徒シリーズ」、藤 純子の「緋牡丹博徒」などが全盛の頃でした。東映が作る映画はすべて「やくざ映画」という特殊な時代で、その頃に後藤浩二というプロデューサーと言うか企画担当の重役がいて、この人が「やくざ映画」誕生の人物と呼ばれています。

その「やくざ映画」全盛のきっかけになったのが、やはり「人生劇場 飛車角」でした。私はこの尾崎士朗の小説を全て読みましたが、やくざが登場するのは「残侠編」で主人公の文士青成瓢吉はこの編だけは蚊帳の外的な物語でした。

東映はこの「残侠編」だけを採り上げて「やくざ映画」として撮っています。鶴田浩二の飛車角でこの映画が東映「やくざ映画」のさきがけとなったと言われています。

この内田吐夢作品も「残狭編」だけを採り上げています。 それまでの東映得意の「殴り込み」シーンだけのやくざ映画と違って、大正ロマンを思わせる原作者尾崎士郎の文学の世界~男と女の情念の深さ、不条理の世界に生きる博徒が彼等独特の「決まり」に縛られて、その縛られた不条理の世界で命のやり取りをする特殊な世界を描き、カメラの秀逸な画面構成で観る者を圧倒する絵となっています。

人生劇場

八年ぶりに故郷に戻った吉良常(辰巳柳太郎)は、ある日、警察に追われて逃げ込んできた飛車角(鶴田浩二)をかくまった事から知り合いになる。娼婦おとよ(藤純子)と共に逃げた事から、小金一家に匿まわれ、飛車角は宮川(高倉健)たちと大横田に殴り込みをかけたのだ。しかも、飛車角を裏切った奈良平を斬った飛車角は吉良常に説得され、自首を決意した。それから数年の月日が流れ、偶然にも宮川は、おとよの働く店の常連となっていた。二人は、皮肉な運命の悪戯を呪い、それでも、おとよに惚れた宮川は、おとよと逃げる決意をしていた。やがて特赦で出所した飛車角は、おとよと宮川の事を知り、自ら身を引く決心をするのだが…。その影では、飛車角の命を狙う大横田の子分たちが、吉良港に集結をしていた。単身、敵地へ殴り込みをかける宮川と、後を追う飛車角。二人の男は避ける事が出来ない運命に向かっていく。

この映画が製作されたのが1968年。 その年のキネマ旬報の日本映画ベストテン9位に入ったのも肯けます。やくざ映画としては初めての快挙だそうです。 ゴミのように扱われていたこの種の映画としては、初めて市民権を得たと言ってもよいでしょう。

飛車角が殺人を犯し警察に自主する前に愛人おとよと顔を合わせることなく去ろうとする小川の橋に立ち、世話になった一家の若頭と別れを告げている雨の場面。 飛車角が橋に立っているのも知らず、その堤を人力車で通るおとよ。雨に煙る情景。 声をかけようともせずに惜情の念をこらえる飛車角。 不条理の世界に生きる男と女の情愛がこぬか雨降る情景を演出した内田のこだわり。それを見事にカメラにとらえた中沢カメラマンの手腕。

出所して吉良常と共に三州吉良に来た飛車角の座敷に、それとも知らず入ってくる芸者おとよ。吉良常、飛車角、おとよの驚愕の表情を天井斜め上から見据えた構図。三者三様の心の動きを見事にとらえた秀逸の名場面。

やくざの義理・人情のために切り込む飛車角の「殴りこみ」シーンは暗転となったようにカラーから白黒に変わり、この決闘シーンのモノクロ調に変えた内田の計算と凄惨な切り込みを見事なカメラワークでとらえた中沢。 この映画の企画者後藤が従来の娯楽一辺倒の「殴りこみ」シーンを要求したが、内田吐夢はがんとして聞かずに自説を押し通し、フラッシュを観た後藤を唸らせたと言われる名シーン。

そしてこの映画の最も秀逸なのは白黒の切り込みシーンが終わると藤 純子演ずるおとよが、大地に横たわりながら飛車角(鶴田浩二)の足にすがりつくのですが、パッとカラーに変わりおとよの乱れた緋文字の着物姿が、またもや不条理な男と女の情愛を切なげに表現しており、余韻を残して映画が終わります。



何年か振りで観たこの映画。 やはりいい映画は何度観てもいいものですね。

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今日の一花 」     ホトトギス


ホトトギス1




ホトトギス2





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最終更新日  2007年11月04日 13時56分15秒
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